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「独身税」がダメな理由

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石川県かほく市の「ママ課」で、独身税を求める意見があったということで、先日チラッと話題になっていました。

「独身税の提案してない」かほく市の担当者が報道に憤る

かほく市ママ課の独身税提案報道について - 石川県かほく市公式サイト

「独身税の提案はしていない」 かほく市ママ課が炎上、関係者は発言否定 - エキサイトニュース(1/2)

担当者は当初、「そんな発言はなかった」と説明していましたが、微妙に表現を変えながら最終的には「独身税」に相当する意見があったと認めました。

 

実際に話をした主計官の説明では、主「増税が必要です」→マ「高齢者や家族世帯は生活にお金がかかるから独身からとって」→主「むしろ家族世帯の方が優遇されています…」という流れだったようです。

 

『かほく市ママ課プロジェクト』スタート!! - 石川県かほく市公式サイト

ママ課プロジェクト」は、2016年開始のシティプロモーション事業(予算1200万円)で、ボランティアであるママ達の意見を「形にすること」を目的とした活動のようです。

 

子育て中の女性の意見だけをくみあげるという旧態的なプロジェクトですが、意見に対する公平な採用基準を設けるには、立場や利益の異なる人達の意見が必要ではないかと思います。

 

また、ママ課が政策決定権を持っているとは思いませんが、不平等な意見でも通ってしまう可能性はあるので、「たまたまそういう意見があっただけ」とは言いにくいと思います。

 

「家族世帯は住宅ローンを抱えているから大変」という意見もありましたが、資産ですし、なぜ独身者はローンを抱えていないと思っているのか疑問です。

奨学ローンや起業ローンを抱えている独身者もいますし、親に資金を出してもらって持家に住んでいる家族世帯もいます。

 

プロジェクトとママメンバーの意見はそれぞれに問題がありますが、「独身税」が通らない理由を説明する記事も少なかった気がするので、今後のために少し書いておこうかなと思います。

  

家族世帯より独身者の方が生活が苦しい

結婚し子を育てると生活水準が下がる。独身者に負担をお願いできないか

単身世帯と家族世帯の生活水準は、「等価可処分所得」によって比較できます。

 

H28の家計調査をみると、2人以上で暮らす勤労世帯の平均世帯年収は、実年収で924万円、構成員の平均は3.39人です。

一方、勤労単身世帯の平均実収入は370万円です。

  

「年収 ÷ √人数 = 等価可処分所得

単身者の等価可処分所得は370/√1=370です。

2人以上世帯の場合は924/√2=635です。

家族が4人いると甘めに計算した場合は、924/√4=462です。

 

勤労世帯の等価可処分所得は、単身者(370万円)より家族世帯(462万円)の方が多いことが分かります。

家族世帯が単身者と同程度の生活水準になるには、家族が6人以上いないと差が埋まりません。

家族世帯の462万円は平均収入からみて標準的な生活水準といえますが、単身者の生活は少し厳しいのではないかと思います。

 

個別には、そんなに世帯収入がないという家庭もあるでしょうが、税金という広くから徴収する方法をとるからには、こうした全体像を把握する必要があります。

 

もし累進課税に期待するのであれば、最初から富裕層に負担を求めれば良いので、あえて独身者という括りに対して増税を押し付けるのは筋が悪いです。

富裕層は既婚率が高いですしね。

 

独身税」は、そのうち子供も(成長後に)払わなくてはいけないので、定住人口を増やすことが目的なら逆効果だと思いますが、それ以前に、より生活の苦しい人達に社会保障を負担させる増税案ですから、反発があって当然です。

 

子持ち世帯は平均世帯収入が高い

年齢階級、所得階級からみる最近の所得傾向各種世帯別にみた所得の状況Ⅱ 各種世帯の所得等の状況 貯蓄額階級別世帯数の構成割合

全体平均が550万円くらいなのに対し、子持ち世帯は720万円くらいあります。

貯金をしている世帯の割合も、高齢者より子持ち世帯の方が多いです。 

金額では退職金などを持っている高齢者の方が多いですが、それでも子持ち世帯の40%は500万円以上の貯金があります。

100万円以上なら85%です。

 

子育て支援の話題になると、シングルマザーなどの話が前面に出てきますが、生活困窮者を支援するのは当然です。

問題は、それ以外の貯金がある世帯にも過剰支援を行ってしまっていることです。

 

子育て世代のいう「お金がない。もっと手当がほしい」という意見の大半は、「生活費は足りているが、貯金額に不安がある」と言っているということです。

ですから、まとまった額を渡すと貯金に回されてしまいます。

高齢者でも生産世代でも、多額の貯金は不景気を招く要因になります。

 

「夫婦と子供からなる世帯」は1444万世帯なので、この40%に500万円の貯金があるとして計算すると、3兆円近い金が実質的に社会から消えていることになります。

1000万円以上の世帯もあるので、実際はもっと眠っている金は多いです。

 

ライフイベントで使うといっても、この"金庫の金"は常に一定額以上ありますし、大人の人口割合が多い社会では額が増えていきます。

金は常に社会循環している必要があって、「いずれ使う」のでは今の不景気を解消できません。

 

貯めこませるために手当を出すと、デフレが進行します。

たとえば大学の無償化について検討するのであれば、高齢富裕層だけを増税対象にするので十分かどうか、議論の余地があると思います。

 

増税は必要性を見極めてから

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かほく市の事業評価システムを下のように振り分けて、その内一般財源から支出されている分のみをグラフにしてみました。

母子支援事業関連の予算が全体を圧迫していることが分かります。

 

国や他自治体の支出をみても、出産や子育て関連に対してはかなり支出があります。

細かな部分まで全て反映した総額となると、数兆円から桁があがります。

 

この全てが無駄だということではありませんが、有意義に使われているのかという点も踏まえて、増税の前に予算配分についてもう少し議論があっても良いのではないかと思います。

 

かほく市評価システム>からの振り分け

平成29年事業評価システム(事前評価)

「若者支援」

学生UIJターン就職奨励金、若者マイホーム取得奨励金、新規就農支援事業補助制度、創業支援助成、市民大学校、国際交流事業、各大学激励費

 「母子・子育支援」

シティプロモーション事業、赤ちゃん応援すくすく応援事業、育児応援事業所奨励金、地域少子化対策事業、子育て支援センター事業、ファミリーサポートセンター事業、子ども総合センター事業、放課後児童健全育成事業、生活困窮家庭等学習支援事業、マタニティタクシー助成制度、母子保健事業、不妊不育治療費助成事業、にんかつ応援事業、教育センター事業、35人以下学級推進、外国語(英語)教育事業、総合学力調査、特別支援教育支援員配置事業、外国語指導助手手配事業、心の教育相談員配置事業、学校を核とした地域力活性化事業

「老人支援」

高齢者交通安全対策、福祉巡回バス事業、成人・老人保健事業、訪問理美容サービス事業(高齢者等地域支え合い事業)、寝具類等洗濯乾燥消毒サービス事業(高齢者等地域支え合い事業)、緊急通報システム事業(高齢者等地域支え合い事業)、高齢福祉タクシー助成制度(高齢者等地域支え合い事業)、いきいきシニア活動推進事業、新しい介護予防・日常生活支援総合事業(介護保険)、地域介護予防活動支援事業(介護保険