教育産業から初の民間人校長が誕生! コミュニティ・スクール足立区立五反野小学校
今年6月2日、地域コミュニティが本格的にその経営に参画する新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール)の設置を可能にする法改正が国会で成立した。それに先立つ平成14年度からコミュニティ・スクール研究を行っている足立区立五反野小学校に、民間人校長が誕生! 通信教育最大手ベネッセ・コーポレーションの経営企画本部・全支社事務局長という前職も話題となった、三原徹氏にお話をうかがいました!
今年6月2日、地域コミュニティが本格的にその経営に参画する新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール)の設置を可能にする法改正が国会で成立した。 「多くの応募のなかから五反野小が選ばれた理由は判然としませんが、地域・PTAが"地域立"の学校について非常に熱心だったことは挙げられると思います。というか、その熱心さはいまにはじまったことではないんです。五反野小は昭和27年9月、戦後の二部授業解消のために作られましたが、当時は公的資金が乏しく、初代の体育館は地元の支援によって建築されています。創立以来、地域や保護者に支え続けられてきた歴史が五反野小にはあるんです」と校長の三原徹氏。 五反野小の最たる特長は、学校運営の在り方だ。これまで公立学校は、教育委員会→校長という縦型の運営が基本だったが、五反野小では、足立区教育委員会の主導のもと保護者代表、地域代表、学校代表、行政代表からなる<学校理事会>を組織し、その理事会の審議に基づき校長が校務を行う。そして実は、現校長の三原氏もまた、学校理事会のリクエストによって誕生した<民間人校長>なのである。前職は、通信教育最大手ベネッセ・コーポレーションの経営企画本部・全支社事務局長。全国の支社をマネージメントし、トップの経営方針をすべてに徹底させるのが仕事だった。これまで全国の公立学校で約80名の民間人校長が誕生しているが、教育産業出身者は三原氏が初めてという。 「昨年4月に杉並区で民間人校長が誕生し、その流れから足立区教育委員会も動きはじめたようです。最終的に、学校に距離の近い教育産業から人材をということで、ベネッセに『適任者はいないか?』と打診があったんですね。ですが、会社としては"教育産業だけに"、迂闊に人材を出すことははばかられました。他業界ならばまだしも、校長を出して失敗したら会社そのものが危うくなりますから(笑)」 上層部は頑なに断り続けた。しかし、あまりに熱心で粘り強い足立区スタッフの説得に、ついには首を縦にふる。 「私の直属の上司が、社のナンバー2だったんですが、ある日、ぽろっとその話をされたんです。『どこの学校ですか?』と尋ねると、五反野小だという。地域立の研究校として五反野小が面白いことになってるのは知ってました。それに私も長く教育産業にいて、また自身で子育てもして、学校現場に対して個人的に思うこともありました。で、これは面白い挑戦かもしれないと(笑)。それで、『いいですよ。私が行きます』って答えちゃったんですよ」 それからがめまぐるしかった。足立区教育委員会のスタッフと初めて顔を合わせたのが昨年12月。年明け早々に都の人事面接を受け、そのハードな面接をクリアすると1月末をもって『会社都合』でベネッセを退職、足立区の非常勤職員に。そして4月1日、晴れて五反野小・新校長として着任した。 「うちの学校はニ期制なので、夏休みといってもまだ学期半ばなんですが、そうですねぇ着任から3ヶ月の感想ですか? 『一年終わってみないとわからない』。それが率直な答えです。でも民間から来た新米校長として言わせてもらうと、びっくりするほど会議が多い(笑)。例えば、校長会。足立区には73校の小学校があるんですが、当然73人の校長がいるわけで、一度に会議はできませんから13のグループに分かれ、そのブロック会議から、区の会議、都の会議と校長会だけで月に5~6回ある。それとは別に勉強会、職員会議……。平日はほとんど会議です。"そんなに会議ばっかりすることないんじゃない?"とも思うけど、これも一年経たないと判断できないな(笑)」と三原校長。 しかし、校長の仕事は土・日も続く。全国どこの土地も同じだろうが、学校の校長先生といえば地元では名士的な扱い。地域主催の夏祭り、キャンプファイヤー、コンサートなどイベント参加も求められる。 「毎日帰宅するのは夜10~11時ですよ。土・日もなにかしらイベントに参加してますし。サラリーマン時代より多忙かもしれませんね。でも不思議なことに、あまり疲れを感じないんですよ」という三原校長。そのパワーの源は、やっぱり子どもたちの笑顔! 「サラリーマンの頃、息子ほど年齢が離れた新人を前にしても"かわいい"とか"元気が出る"なんて一度も感じたことなかったけど(笑)、学校の子どもたちは違います。かわいいですねぇ。朝、通勤電車のなかで"だいぶ疲れがたまってるなぁ"なんて思ってるでしょ? ところが学校に着いて子どもたちに『おはよう!』なんて声かけられると、なんだか急に力が沸いてくるんですよ。それこそが子どもが持ってる力なんでしょうね」 校長となった三原氏は、第一に校長室のドアを替えた。校長室の様子が子どもたちにもオープンに見えるよう、すりガラスをはずして大きなクリアガラスをはめたのだ。来客中も職員との打ち合わせも、児童たちはガラス越しにのぞくことができる。敷居の高かった校長室を子どもの目線に。それは校長と児童の距離を確実に縮め、昼休みの校長室は子どもたちのサロンと化している。朝は登校する子どもたちをハイタッチで迎えてスキンシップを、『学校ではキャラクターもののネクタイしか身につけない』というのも三原校長の"戦略"である。ディズニーからスタートしたキャラクター・ネクタイも、いまではジブリ系に手を伸ばすほどの充実(?)ぶり。 「もちろん私の趣味ではありませんよ(笑)。ある意味、子どもたちへのサービスです。でもそういう感覚も大事なんじゃないかと。これから各地でコミュニティ・スクールが増えていくでしょうが、感じているのは、その実践は決してラクなことではないということです。特に長年"学校のなかだけの教育""教育者としてのプライド"に生きてきた教職員にとっては。そこに地域や保護者の声が入ってくるわけですから混乱もするはずです。問題はそのときです。それを『きちんと聞かなければ』と思ってはいけない。無理をするとストレスになってしまいます。『周囲からヒントがもらえるんだ』くらいの気持ちで切り替えること。それが大事なんです。『客が何を求めているのか知り、考え、それに応えること』これは民間企業なら当たり前の常識です。その常識が、いまになってやっと公教育の現場に下りてきた。すべてはこれからです」 今年4月の始業式。挨拶にたった三原氏は子どもたちを前に言った。『私の名前は三原徹といいます。<校長先生>という名前ではありません』。教育改革の目玉・コミュニティ・スクール。民間人校長を得て、さらに一歩進んだ足立区五反野小学校。行政の、地域の、保護者の、そして教職員の闘いは続く。子どもたちの未来と、未来の子どもたちのために。 (取材・執筆:学びの場.com 寺田 薫) | |||