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	「模造紙」は何かを模造した紙である、というのは名前から分かるのだけど、模造されてしまった本物の紙の方は見たことがない。弁当に入っている「バラン」も、そういう植物を模したものだとは知っているが、本物のバランは見たことがない。 このまま形骸化が進み、人類が本物を忘れてしまうその前に、ちゃんとこの目で実物を確かめておく必要があるだろう。 
	
1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。 前の記事:「街のレアキャラ「右目室外機」を探せ!」 人気記事:「戦車! 戦艦! 知られざる「ミリタリー陶芸」の世界」 > 個人サイト NEKOPLA Tumblr 馴染みすぎた模造品たち模造品と言えば聞こえは悪いが、模造紙だってもともとは模造品だ。だって自ら「模造」と名乗っているではないか……! 名は体を表している模造紙。堂々と「模造」と書いてある ということに気付いたのは、恥ずかしながら今からほんの数年前のこと。それまで「模造紙」という一つの単語としてしか認識しておらず、そこに「模造」という言葉が隠れていることに気付きもしなかった。 しかし一度知ってしまうと、ものすごくそのまんまな名前である。模造した紙だから模造紙。マリオの敵だからワリオ、みたいな潔さがある。 模造紙だけではない。気にし始めると、日常にはいろんな模造品が潜んでいることに気付く。 何かを模造したものが幅をきかせている昨今 あと100年もしたら、これらが何かを模しているという事実は、遠く歴史の彼方かもしれない。いまはまだ形骸化の初期段階であり、これから長い年月をかけて元ネタが忘れられていく最中なのである。 本物が手に入る今のうちに、本物を見て、そして触っておいた方がいい。さっそく本物を取り寄せてみた。 模造紙の本物「局紙」模造紙は、「大蔵省印刷局認定紙(略して局紙)」を模したものである。大蔵省という名前の通り、もともと紙幣や証券に使われる紙として作られた経緯があるらしい。 そんな模造紙の本物「局紙」を入手。手すき和紙ということで、このサイズでなんと一枚2500円だった 実は5年前に購入していたのだが、高級すぎて使いどころがないので居間の片隅に鎮座していた局紙、ついに日の目を見る。手触りがよく、ずっと触っていたくなる もともと紙幣用だったこともあり、現行の紙幣と比べても、表面のツヤや繊維がよく似ている ただし局紙と模造紙については比べるまでもなく、両方とも「紙」だという以外は全くの別物である。というのも、元は局紙を模造していた模造紙だが、いまはもうほとんど関係がなく、模造紙という名前だけが昔のまま残っているという。形骸化ここに極まれり いつか子どもができたら、この局紙を使って夏休みの自由研究をしてもらいたいという願望がある。なにせ模造紙は4枚100円なのに対し、局紙は1枚2500円なのだ。値段にして100倍もの差があり、とんでもなく豪華である。 しかし問題なのは、局紙を見て「模造紙の本物だー!」と分かる人がほとんどいないということだ。模造紙を使わずに、ただ変わった紙を使って宿題をした子どもにしか見えないおそれがある。そこだけ危惧している。 バランの本物「葉蘭」続いては、弁当に入っている「バラン(人造バラン)」である。 どこか牧歌的な雰囲気のあるバラン。写真なのに、いらすとやの素材に見える 元が植物だというのは分かるのだが、形骸化の果てに何だかよく分からない虚無的な飾りとなり、それが当たり前のように現代生活に根付いている。以前「デジタル弁当」を作ったときにも、虚しさを彩るのに一役買ってくれた。 このバラン、もともと料理の飾り使われていた葉蘭(はらん)という植物で、それがなまってバランになったという。 そんなバランの本物である「葉蘭」を入手。こちらは局紙と違って手軽に花屋で手に入る。一本70円だった しかし実物を見るまで、こんなに大きいとは思っていなかった。実際には茎の部分が地中に埋まっており、葉の部分だけ地上に露出しているらしい。野生の葉蘭を見かけても、「あれが本物のバランだ」と言い当てる自信はない 葉の繊維を見てみると、そこにはたしかにバランらしさがある。この縦筋が特徴的 バランと葉蘭の比較……をしてもあまり実感がわかないので、 葉蘭をバランの形に切り取ってみた。葉蘭を模して作られたバランと同じ形に、本物の葉蘭を切り取る。もはや何をやっているのかよく分からないが、しかしバラン形に切り抜いた葉蘭は、想像以上にバランだった これをこっそり弁当に忍ばせていたら、本物志向の弁当になるに違いない。しかしその葉蘭を見て、「バランの本物だー!」と分かってくれるのか不安である。ちょっと色味の変わった珍しいバランとしか見られないおそれがある。 おそらく、このいかにも「草」という形にしてしまうと、なんでもバランに見えてしまうのではないか。となると、普通に葉蘭を葉っぱの形のまま使えばいいのではないか。あ、それが本来の葉蘭の使い方か……。 熨斗(のし)の本物「熨斗アワビ」最後は、熨斗(のし)である。 ご祝儀袋などの右上に付いている、これが熨斗……と言いたいところだが、実はその真ん中に通っている黄色い紙が熨斗だという。形骸化が進みすぎており、自分も本来の意味は全く気にせず使っていた これは100円ショップにて3枚100円で買ったものなのだが、正味33円にしてはあまりに作るのが面倒くさそうな造形である そんな飾りとしか認識できていなかった黄色い紙。本物はというと、実はこんな物だった 「熨斗鮑(のしあわび)」と呼ばれる、アワビを伸して乾燥させたもの。なんと、リアル乾物 こちらは伊勢にある「兵吉屋」のものを購入。化粧箱入りの熨斗で3000円であった 熨斗鮑を起源にした飾りは、幾度かの抽象化を経て、近年ではただの印刷になった。こうして並べてみると、進化(退化?)の歴史を感じることができる この本物「熨斗」、さすが乾物とだけあって、顔を近づけるとほんのりと海産物の匂いがする。見た目にもかなり豪華なご祝儀袋となっているため、ここぞという時に使いたい魅力がある。 しかしここでも問題が。この本物熨斗を使ってご祝儀を出したとき、もらった人は「熨斗の本物だー!」って気付いてくれるだろうか。分かってくれそうな人に出すべきか、自分から「これは本物の熨斗ですよ」と言うべきか。結構悩ましい問題なのである。 次は保存アイコンの本物を調査したい(冗談です) 
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