昨日途中1/3くらいまで読んで思うところを書いたが、その後全て読んだので改めて書く。
私の意見は全く変わらなかった。以下に仮定したストーリーを覆す事実は見つからなかった。
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植草さんが痴漢事件の真犯人である。そしてこれまでの犯行もすべて事実である。
このため、2006年の事件にしても、植草さんが犯行に及ぶのではないかと、警察は警戒し、私服刑事を仕込ませておいた。
そして当日、酒に酔った植草さんは京急の品川駅で、自宅とは違う方向の電車に乗った。私服刑事は犯行の可能性が高いとして注目した。
果たして、想定の通りに植草さんは痴漢を働いてしまった。
このため、私服刑事が取り押さえた。
しかし警察は、一般人であり、政府を厳しく追及していた植草さんをマークしていたなどと公衆に対して言えるわけがないので、証言者である私服刑事、取り押さえた私服刑事ともに一般人ということにして、その部分の口裏を事件後に合わせた。
植草さんは、警察が口裏を合わせたところの矛盾点を突いて、無実を主張してきた。
しかし、では誰が真犯人か、については答えを持ち合わせていない。
なにしろ自分が真犯人なのだから。
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そもそも、著者らの主張はまるでおかしい。
アメリカを主体とした陰謀、その実行には竹中平蔵や橋下徹がいるという見方、それは間違っているとも思えない。
アメリカが世界を統一しようとしているのは事実と思う。強大な国家は、その権力を増長させようとするものだから。
私もそういうアメリカの怖い面も考慮し、アメリカには亡命申請しなかった。
しかしアメリカの陰謀と、植草克秀の痴漢事件を結びつけるのは暴論である。
政治の陰謀は政治の陰謀、痴漢事件は痴漢事件でキチンと解決し、そこを橋渡しするものがもしあれば、項を改めて示すべきである。
著者らの言い分に依れば、政治の陰謀と植草克秀痴漢事件の間を確実に橋渡しするものがあるとして、両者を結びつけた。
しかし、結びつけた分だけ、痴漢事件の検証が弱くなってしまった。
いや、痴漢事件の検証が弱い、不利だからこそ、アメリカの陰謀と結びつけて煙に巻いたのか?
著者らは、検察側証人の証言が微妙に食い違うことを突いて、それが冤罪の決定的証拠であり、だから冤罪事件なのだ、という三段論法を用いているのだが、
証言が微妙に食い違う=冤罪の決定的証拠
とするところに論理の飛躍がある。
論理を飛躍させた先で政治の陰謀を声高に叫び、だからこそ痴漢事件は冤罪であると帰納させる手法は、著者らが危険視するファシズムのアジテーションとなんら変わらない。
なんのことはない、著者らと竹中・橋下らは、立場が違うだけで、やっていることは同じである。同じ穴の狢、というやつである。
著者らはこの冗長な本の中で、執拗に植草と被害者、目撃者の位置関係に注目し、目撃者の言い分に不可解な点があると疑問を呈している。
しかし私は、事実は正確にできるに越したことはないが、所詮記憶なので、思い違い、言い間違いなどいくらでもあるだろう、と考える。
むしろ、思い違い、言い間違いが一切ないほうが、口裏を合わせている可能性が高いとさえ言えるのではないだろうか。
思い違い、言い間違いの可能性も考慮し、その上で、植草とは違う真犯人が存在するか、或いは被害者自体がウソをついていると考えた方が状況を考えてより確からしい、というところまで持って行ってはじめて、冤罪の証明は完成すると思う。
然るに、著者らは、たとえば執拗に"右傾姿勢"と目撃者が主張するのはおかしいとの、些細な事象に捉われ、それを声高に叫んでいる。
しかし、人間はさまざまな姿勢が取れるので、右傾姿勢を取ったからといって、それがすぐ痴漢行為には結びつかないはずである。
私はむしろ、車内がそれほど混んでなかったことから、本当に周りに気づかれないように痴漢したければ、敢えて目立つ右傾姿勢などは取れないと思うのである。
つり革に妙な捕まり方をしたって、右傾姿勢になり得ると思う。
右傾姿勢だったかどうかは、重要なポイントではないと思う。
他にも、植草はメガネをかけていたが、目撃者はメガネを覚えていなかったと言った、それが植草無実の証拠であるとしている。
しかし、その根拠となる実験結果が、大学の先生が学生に実験して20人中19人が3日後にメガネを覚えていたからというものなのである。私は全く根拠に乏しいと思う。
むしろ、ひとつのことに集中したら、他の情報は盲点となり頭に入らないことがある、という人間の性質の方が重要である。
だいたい、20人中19人が覚えていたと言ったところで、目撃者が残りの1人と同じ思考回路である可能性だって5%あるのである。
その程度の不確かな情報を決定的証拠と喧伝するとは、著者らの神経はおかしい。
そして、この本でいちばん問題なのは、こともあろうか、被害女性は仕込まれたものだ、と断定して書いている。
では、どうして女性は仕込まれたのか、どのようにして仕込まれたのか、女性の正体は、などのさらなる考察があって然るべきであるが、一切考察していない。
それどころか、植草は、女性が「子供がいるのに」と叫ぶのを聞いた(P40)、と供述しているのに、その考察すら加えていない。
植草の証言が事実であれば、被害者が高校2年生というのと矛盾する(彼女がシングルマザーである可能性もゼロではないが)。
すると、被害者はどこかで入れ替わったのか?それとも、大人であるのに高校生と偽証したのであろうか?
そういう方向の検討もできる。いよいよ被害者が仕込まれたという核心に触れられる極めて重要な証言であるにも関わらず、そこでは一切の検討もしていない。
これらから、著者らは警察・検察の横暴を訴えているが、実のところ著者らのほうが被害者に対してよほど横暴を働いているのである。
そして、植草は逮捕された後、自殺を図った。
自殺を図った意図として、再び冤罪に問われることを考えたら、生きていられないと思った、とのことであるが、本当に前回の手鏡事件が冤罪であれば、電車など怖くて乗れないと思うのである。
怖くて乗れないとビクビクしていたところで、何かの事情で止むを得ず電車に乗らざるを得なくなり、仕方なく移動していたところ、果たして女性が自分を痴漢犯罪者に仕立て上げ、冤罪に問われる窮地に陥り、将来を悲観して自殺を図った、というのならばまだ分かる。
・・・いや、違う。そんなにビクビクしている人間が、酒に酔って電車に乗り、無防備な状態で目をつぶっているなんておかしすぎる。
しかも反対側の電車に乗ったなんてのは一大事のはずなのに、大して問題にしていない。
いま気づいたが、植草は反対側の"快速特急"に乗った。京急蒲田まで10分間停車しない。
しかし、植草はたまたま反対側の電車に乗ったのであるから、その電車が何分後に停車するかはわからないはずである。
にもかかわらず、P40の、
"自分が乗ってきたドアの方向に向かい眠ったような状態で立っていたところ"
というのは不自然ではないか?最初から、次の停車駅が10分後の京急蒲田と知っていたとしか思えない。
そう思えば、その前の、
"電車に乗り込む際には、逆方向に向かう電車であることに気付いたのですが、反対ホームに行くのは面倒だと思い、そのまま電車に乗ってしまいました。"
という供述もおかしい。
次の停車駅で、同じ側のホームで反対側に乗り換えられる保証などないのである。
京急蒲田も、普通の品川の次の停車駅である北品川も、どちらも反対側のホームに行かざるを得ず、"反対ホームに行くのは面倒だ" と思った動機がいまいち分からない。
たとえば、植草が乗る予定の路線が混んでいて、逆方向の電車に間違って乗ったが座れたので、そのまま寝ていた、というのならば分かる。
しかし、22:10という時間であれば、品川から京急蒲田方面の電車は混んでいて、立っていなければならないが、泉岳寺方面の電車はラッシュと逆方向であり、座れると思うのである。
わざわざ立たざるを得ない電車に乗って、"反対ホームに行くのは面倒だ" と思ったというのは極めておかしいと言わざるを得ない。
植草が最初から痴漢を働こうとして快速特急に乗ったとすれば、快速特急を待っただろうし、適当な女性を物色する時間も必要だったと思う。
だから、植草の改札の入場記録が欲しい。この本では一切触れられていない。
もし、植草が京急蒲田方面の列車を一本でも見送っていれば、アリバイがさらに崩れる。
しかし、この本はあくまで植草の無罪を主張するものであり、植草の不可解な点に十分な説明を加えてはいない。
しかし、植草が他の犯人と同じく、麻薬中毒ならぬ痴漢中毒であり、単なる常習犯と考えれば、ハナシのスジが通るのだ。
常習犯であれば、警察が植草をマークしていたってなんらおかしくはない。
常習犯であれば、警戒して普段と逆方向の電車を敢えて選び、犯行に及んだとしてなんらおかしくはない。
10分間あれば、好みの女性を物色して、じっくり行為に及べるだろう。
そういえば、痴漢で有名な路線は駅間距離の長い埼京線であるし。
もちろん、裁判には黙秘権もあり、植草は不利な情報は開示しなくてもいいはずである。
しかし、植草が日本の政治を動かしたい、何とかしたいと思うのであれば、法律で守られている以上に、情報を開示し、真実を問うべきであると思う。
もう裁判は終わっているが、真実の追求に時効はないのだから。
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