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戦国物語 四
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『足軽六蔵奮闘記』 四

古竹攻略

城を任されれば、その地域を開発し、発展を促し、
攻守共に励むことになるが、敵が多い東南方面では
特に敵城攻略を進める役目となる。
神保家が先代惟道の後継として、年少の惟定と
惟道の弟の式部大輔(しきぶたいふ)惟実を推す
両派に分かれたものの、武力衝突までには
至っておらず、当主となった惟定は、
譜代家臣筆頭、梶谷 左兵衛大尉 宗嘉
(かじや さひょうえたいじょう むねひろ)と息子の
宗善(むねよし)が後見役で神保城に落ち着いている。
対して豊地勢こと新里方は、複数の敵と戦っている
現状で、子供任せでは危ないという明快な理由で、
東側諸城と同じく惟実派だが、当主が惟定に決まった
以上、叛旗を翻すわけにはいかない。追放された
惟実一派の動向を追い、彼らの反撃に与する気はあるが、
「現状、式部(惟実)様が領内不在では
助太刀も叶わず、神保家に逆らう道理はない。
あくまでも神保方として東南攻略を進めよう」
城主新里義正は、神保家の後継問題で
停滞していた南部の古竹攻略を再開すべく、
坂原や峰口など、家中有力家臣六人を集めて
軍議を開いた。
峰口が現状報告に意見を足した。
「最近の古竹領偵察からの推定では、
石高は六万から八万、多くて九万程度で、
従って常備兵力は千五百から二千五百になろうかと
思われます。古竹を攻めるとなれば、
こちらは東西の支城を含めて三千、本城(神保城)
から二千程の援軍を仰ぐとして倍の五千となり、
孫子の兵法にある如く、敵を分断し勢力を削いだ
上であれば勝機を掴めると存じます」
義正も考えを巡し、
「古竹単独では良いが、不利を知る古竹は
隣国に援軍を呼ぶであろう。あるいは留守と
なったここを攻め入られたら、
形成逆転もあり得るな・・・・」
神保に比べれば劣勢のはずの東南諸勢力が長年に
渡って神保に対抗を続けているのは、ひとえに
諸勢力が反神保で連携していることによる。
一国では小さくも、二国三国と共闘されては
互角以上に苦戦を強いられかねない。
特に、森柳乙羽領の奪還や神保後継問題などで
一段と活気づき、攻守逆転して各個撃破の
危険は神保側にもあり得た。
しかし、強気の坂原は意に介さない。
「戦を始めるのはこちらの勝手、
事前に知らせるならともかく、そうでなければ
援軍が来る前に決着をつければよいことにござる」
倍の手勢による短期決戦で充分と見込んでいる。
「兵は拙速を尊ぶという。もたつけば不利になるのは
当然。先の森柳乙羽両家の滅亡は、連携による油断と、
想定外の戦法に対処できなかったことにあり、
兵は数ばかりでは烏合に過ぎず、
戦は勢いが肝心にござる」
全否定したはずの六蔵の代弁をしたような言い草に、
「いかにも、古竹は弱小にて、これまで神保方に
甘さがありました、これを機に容赦なく
断固討つべし」
と、家臣数人が坂原への媚びにも思える
威勢のいい同意を示した。
峰口は、
(大膳様も臨機応変か・・・・)
と鼻白む思いになったが、呆れてはいられない。



「では、攻めるとなれば敵は籠城して持久戦に持ち込み、
隣国から援軍を呼ぶと思われます。それが叶えば次は
城を打って出て、我らを挟み撃ちするやもしれません。
それを防ぐためにも、敵への調略を進めましょう。
敵城は三つ、砦は八つほどありますが、まずは
前線の城に書状を送って内応を求めます。
合戦の際での寝返りであれ、その後の攻城戦での
開城であれ、戦わずに済めば上策」
「左京はいつもながら細かいな。
戦は逃げ腰では進まんぞ」
と、坂原は軽く否定するような物言いで失笑した。
峰口は苛立ち、
「調略が逃げ腰とは初耳にございます。
大膳様は文武両道は弱者の言い逃れとか、
とかく珍説を述べられますが、
奇をてらうのも場合によりけりです」
「奇をてらうとは何だ!」
坂原が怒りを露わにした。
「稚児の喧嘩と違い、戦は暴れるだけでは
不利になり得ます。事前に二重三重に手を打つのが
戦を為す者の分別と心得るべきです」
「たわけがっ! 俺に説教するか左京!」
「必要とあらば幾らでも説教致しましょう!」
「もうよい」
義正が苦い顔で軽く手でいなした。
坂原は峰口を睨みつけたまま、
「・・・・敵が調略に乗ったフリをした場合、
どう見破るのか。わかりませんでは済まんぞ」
「それを頼りの戦でなければ、乗るも乗らぬも
我が方に問題ありません。乗れば共に助かり、
そうでなければ相手は後悔することになるでしょう」
主君は義正であって坂原ではない。
必勝の態勢を邪魔するのであれば、
坂原といえども安易に同意とはいかない。
(つくづく邪魔な奴だ・・・・)
峰口は怒りから侮蔑に変わっていた。
義正は軽く頷き、
「うむ、では、調略は左京に任せる」
「は」
軍議は古竹攻略を決めた。
義正が先に部屋を出て行くと、
坂原がいつもの鋭い目で峰口に迫り、
「左京、殿の御前で随分と見得を切ったな。
生憎俺は、お主の小細工で戦が有利になるとは
思っておらぬ。将兵の奮闘あればこそ勝敗は決する。
当然だ」
と笑みを見せた。
峰口は峰口でいつもの無表情だが、
(・・・・この者は本当に戦馬鹿なのかもしれぬ・・・・)
と呆れた。
「お主は近頃、殿の信頼を得て調子付いておらぬか。
譜代に甘んじるなと忠告してやったはずだぞ」
坂原もまた絶対の自信を持っていることが
言動でわかる。
「これはしたり。本来、御政務に励まれるのが
家臣筆頭の御役目。それを我ら部下に押し付け、
自身は戦場(いくさば)で浮かれてその功を競い
誇るばかりで、戦場で総大将として大見得を切って
いるうちに、自身を殿と勘違いされたのでは
ありませんか?」
「たわけ! 戦で活躍するに何の遠慮があるか!
将たる者、常に先陣を切る意欲無くして
兵達を率いることは出来んぞ!
俺は一家臣として誰よりも率先して励んでいるに
過ぎぬ、否定されるいわれはない!」
「申し上げておるのは率先の範ではなく、
蛮勇の愚にございます。家臣筆頭を任ずるので
あれば、戦で無邪気に飛び跳ねてばかりおらずに、
地味な御政務から逃げず、
取り組んで下さいますように」
「おのれ、どこまで俺を愚弄するか! 」
浅黒い顔を赤くして坂原が拳を振り上げると、
「大膳様、城中にござりますれば!」
と、背後にいた他の家臣達に腕を掴まれ、
両脇を取り押さえられた。
「万事姑息な左京めが、己の卑屈を自覚せい!」
「ならば御自身の横暴も気づいて下さりませ」
「この・・・・!」
坂原は目をむいて再び殴りかかろうとして、
また家臣達があわてて両脇を抱え込み抑えた。
「戦となれば事前に細かく打ち合わせも必要と
なります故、逃げず投げ出さず対応されますように」
峰口は澄ました調子で言うと、
家臣達に両脇を抱えられて怒鳴り散らす
坂原を後にした。
(さすが鬼頭の大膳、到底将たる器に非ず、だ)

翌日、意外な報告に義正も峰口も困惑した。
義正による援軍要請の書状を携えた使いを本城へ
送ったが、本城の筆頭家老、梶谷左兵衛からの
返書には、
「・・・・此度古竹領攻略に於ゐて
本城への援軍要請に付
現況家督騒動を機に領内心もとなき様相有之候
昨今は於城下不審火頻発し本城へ敵対仕り
為画策一派の存在有之との疑有之候由
本丸(惟定)様警護厳重と致居候
尚又城下及領内警備も一段と強化必要有之候故
将兵のやりくりは諸城各々賄ひにて対処されたく
何卒御承知置給へ御容赦願はまほく存候・・・・」
という具合で、
家督後継の対立で領内まで不安定な上に、
本城城下で火事が頻発して反対派による策謀の疑いあり、
惟定警護と領内警備を強めるため兵を送ることは
出来ない、各城は自力で頑張って欲しいと、
やんわりと断ってきた。
「・・・・援軍が出せない、と?」
書状を見た義正は眉をひそめた。
峰口も義正から書状を受け取ると目を通した。
「・・・・おそらく、我らが式部(惟実)方と伝え聞いて、
警戒しているのでありましょう」
「古竹へ攻め入ることが本丸様への
敵対とでもいうのか。城下の火事が我らのせい
とでもいうのか・・・・梶谷のじじいめ、疑っておるのか」
本城がそれでは、同じ惟定派の西部諸城からの
協力は望めず、同じ惟実派とはいえ、
東部諸勢力に備える東部諸城も無理だろう。
結局、豊地勢三千の兵で対処することになる。
「俺は大膳とは違う。三千では厳しいな・・・・」
渋い顔の義正に、峰口は淡々と、
「・・・・ここは一度、こちらから釈明の書状を送るか 、
本城へ出向いて直に釈明して誓詞を呈上されては
いかがでしょうか。どちらにせよ必要とあらば、
この左京めが参りましょう」
「・・・・うむ、そうしてもらおうか・・・・」

by huttonde | 2017-09-12 06:20 | 漫画ねた | Comments(0)
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