今年4月に米ウィスコンシン州で演説を行ったトランプ大統領 Kevin Lamarque-REUTERS
<トランプ大統領を生み出した米国社会の現状を理解する一助になるものとして『ヒルビリー・エレジー』という無名の著者による本が話題となり邦訳も出たが、実はそれだけではない。同様に話題になったのが、政治学者キャサリン・クレイマーによる『The Politics of Resentment(憤怒の政治)』と、社会学者アーリー・ホックシールドによる『Strangers in Their Own Land(故郷を失った人たち)』。いずれもリベラルな人たち向けに書かれた「共和党を支持する白人労働者層の生態と心理の入門書」だ>
本稿では、ドナルド・トランプ大統領を生み出した社会的な背景を理解する書として米国内で話題になった最近の二冊の著作を紹介したい。いずれも、トランプの登場そのものについて語られたものではなく、リベラルな人たち向けに書かれた「共和党を支持する白人労働者層の生態と心理の入門書」というべきものである。こういったジャンルの本が存在すること自体がアメリカ政治の直面する党派的分裂の深刻さを浮き彫りにしているといえよう。
『The Politics of Resentment(憤怒の政治)』の著者のキャサリン・クレイマーは、ウィスコンシン州立大学マディソン校の政治学者であるが、もともと彼女自身もウィスコンシン州育ちである。かつては労働運動が盛んで、民主党が優勢だったウィスコンシンは、今や、州知事スティーブ・ウォーカーの激しい労働組合潰しですっかり有名になってしまった。ティーパーティー運動の申し子として、二〇一一年に州知事に就任したウォーカー知事は、過激な反労働組合・反政府主義者であり、二〇一六年の共和党大統領予備選に出馬した野心家でもある。著者が、ウィスコンシンの有権者の変化を理解すべく、共和党支持の多い州内の農村地区や富裕層の多いリゾート地区に足を運び、地元の有権者の声を拾って纏めたのが本書である。クレイマーは「rural consciousness(農村意識)」という概念を使って、有権者の政治観を捉えようとする。過去の大統領選挙では、ウィスコンシンやミシガン州などは民主党が優勢な地域であったが、先の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン民主党候補がトランプに敗れ、その背景を知るための良書ということで一気に話題の本となった。