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100年前なのにモダン? 美しすぎる民族衣装の世界

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/9/10

ナショナルジオグラフィック日本版

 人々がかつて身につけていた民族衣装は、どれも個性豊かで見ていて楽しいものだ。だが最近はTシャツやジーンズにとって代わられ、日常的に身につけられることは減ってしまった。100年以上にわたり世界の人々を撮影してきたナショナル ジオグラフィックの写真アーカイブには、「リアルな日常服としての民族衣装」が多数収められている。そんな貴重な写真を集めた書籍が『100年前の写真で見る 世界の民族衣装』。今回はその一部を厳選して紹介しよう。

■アルジェリアの目ヂカラ女子

(c) LEHNERT & LANDROCK/National Geographic Creative

 ナショナル ジオグラフィック1922年10月号に掲載された特集「北アフリカの人と場所」からの一枚。撮影されたのは1914年以前で、100年以上前だ。

 顔の周りのコインは金貨。さらに宝石や金銀細工でつくった頭飾りやバングル、金糸の刺繍をほどこした服など、当時でもひときわ派手な格好だったようだ。これらの金貨や宝石は、実は結婚資金。貴金属を財産として身につける習慣は、移動の多い遊牧民を中心に、今でもよく見られる。

 アルジェリア内陸の砂漠地帯に住むウル・ナイル族の女性は、子どもの頃から地中海沿岸へ行き、外国人や地元の富裕層相手にダンスを披露することで、お金を稼いでいた。現在のベリー・ダンスのもとになったといわれるダンスだ。こうして稼いだ結婚資金が目標額に達すると、女性たちは故郷に帰ったという。

■ポーランド、豪華な花の冠

(c) HANS HILDENBRAND/National Geographic Creative

 ポーランドのウォヴィチ近郊で1930年に撮影された花嫁の写真。頭飾りは真珠や大小の装飾品、そして彩り鮮やかな花をたっぷりと使っていて、まるで豪華な花束をそのままかぶったような美しさだ。

 縞模様のスカートは結婚式だけでなく、普段から着られていた。当時の記事で「七色の服装」と形容されたカラフルな配色は、人それぞれに違っていた。何人かが集まると、それは賑やかな光景になったという。

 この写真を撮影したときのポーランド取材は、ナショナル ジオグラフィック1933年3月号に特集記事として掲載された。ただし、この一枚は雑誌に掲載されていない。鮮やかなその色は、世界初の商業カラー写真技術オートクロームで撮影されたものだ。

■カフカス地方の眉毛美人

(c) GEORGE KENNAN/ National Geographic Creative

 現在のロシア南部、黒海とカスピ海に挟まれたカフカス地方に位置するダゲスタンで撮影された一枚。ナショナル ジオグラフィック1913年10月号に掲載された。美しい布の伝統的衣装を身につけ、金や宝石で身を飾っている。暮らしぶりも豊かだったのだろう。

 衣装も美しいが、なんといっても目を引くのは眉毛。くっきりと太く、両方の眉をつなげている。眉毛をつなげる化粧スタイルは、いまでも世界各地に見られる。中央アジアの国(タジキスタンやウズベキスタンなど)やイランでは美人の条件とも言われているそうだ。

 イランの前身であるペルシャでは、細密画に眉毛のつながった美人が多く描かれていた。ペルシャ帝国は最盛期には中東、中央アジア、カフカスを版図におさめていたため、そうしたつながりが現代にまで残っているのかもしれない。

■シリアのイケメン貴公子

(c) JULES GERVAIS COURTELLEMONT/National Geographic Stock

 ナショナル ジオグラフィック1925年11月号の特集「太陽に彩られた近東の風景」に掲載された一枚。写真の説明には「ダマスカスのエミール」とある。エミールはアミールともいい、アラビア語で「長」を意味する。転じて、歴史的には支配層の称号となった。当時の記事で「エミール」と言われているということは、王族や貴族、少なくとも何かの「長」という地位をもった人物だということになる。

 写真が撮影された都市ダマスカスは、長い歴史を持つシリアの首都だ。この写真が撮影された当時、シリアはフランスの委任統治領だった。特集記事には、緑豊かな中庭でくつろぐ女性たちや、特産品のブドウやスイカを売る女性、色鮮やかな服装の大人や子どもが写っている。

■スター・ウォーズにも登場

(c) HORACE BRODZKY/National Geographic Creative

 この髪型をどこかで見たことないだろうか。そう、映画「スター・ウォーズ」に登場するアミダラ女王に似ている。実は、このようなモンゴル女性のスタイルを参考にデザインされたそうだ。

 モンゴルの多数派民族であるハルハ族の既婚女性は、このように頭を飾り、頬に小さい丸を描いた。角の部分は長く伸ばした自分の髪だ。頭飾りの大きさやそこを飾る宝飾品の数などは、当然ながら地位や財力によって変わった。

[書籍『100年前の写真で見る 世界の民族衣装』を再構成]

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