前回からのつづき

前回の投稿で論じたとおり、今回計画されている当せん金付証票法の改正は、その他の公営賭博に電子販売が認められる時以上の大きな意味を持ちます。なぜならば、その他の公営賭博における電子販売と異なり、宝くじの電子販売を認めるという事は、実質的にその法律が日本初のオンラインゲーミングを許容しうる法律となるからです。

宝くじ業界に電子販売を取り入れようという論議は、昨年10月から12月に渡って総務省で開催された「宝くじ活性化検討会」によって提案がなされたものです。総務省webサイトに公表されている当時の論議を追ってみると、電子販売の導入は他の賭博業態でも先行導入されている例に倣い、同様の試みを宝くじ業界でも導入しようという単純な発想で行われている事がわかります。一方で私がここで言及しているように、宝くじの電子販売が、公営競技の勝馬投票券の電子販売と全く別の意味を持つものである事を指摘する委員がいなかったのは非常に残念です。(検討会の委員の中に賭博の専門家が居ないので仕方がないですが…)



我が国では、例えば日本中央競馬会(JRA)が運営する中央競馬への電話・インターネット投票など、これまでも賭博を電子媒体で仲介するサービスは存在してきました。しかし、これらを「オンラインゲーミング」と呼称する人は居ません。なぜなら、これらサービスは投票券をネットを介して電子形式で購入はできますが、ゲームそのものは競馬場の中で実際に行われる競技の結果によって決せられるものだからです。同様に競艇業界で運用されているTeleboat(競艇の電子投票システム)も、サッカーくじの電子販売もすべてオンラインゲーミングとは呼べません。

宝くじ業界への電子販売導入も、大部分は上記のその他の賭博業界での電子販売と同様です。例えば、現行で販売されているジャンボ宝くじやナンバーズなどを電子販売という形で提供する場合は、結局、そのゲーム結果をリアルの世界で行われる「抽選会」での抽選結果に頼ることとなります。これをオンラインゲーミングと呼ぶのは不適当でしょう。

一方で、それらと全く性質が異なる部分が出てくるのがスクラッチくじの取り扱いです。スクラッチくじは、1984年に導入された宝くじの一形態で、抽選会を待たなければゲーム結果のわからないその他の宝くじとは異なり、銀はがしの要領でその場でゲーム結果を知る事ができる簡易的な宝くじです。その代表例が全国の宝くじ売り場で200円で販売されている「タテ・ヨコ・ナナメくじ」。3×3で配置されるボックス内をコインで削り、タテ・ヨコ・ナナメのいずれかに同じマークが3つ並べば当せん金が獲得できます。

幸運の女神 タテ・ヨコ・ナナメ
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例えば、これらスクラッチくじをオンライン上で電子販売した場合は、どのような形になるでしょうか? 予めサーバー上で組成したデータ形式のスクラッチくじを、プレイヤーがランダム抽出する形でネット上で購買し、その結果が即時にプレイヤーの手元で表示されるものとなります。リアルの世界で開催される宝くじ抽選会に頼ることなく、インターネット上のデータのやり取りのみで、くじの販売からゲーム結果の確定までを行う。すなわち、スクラッチくじの電子販売は、実質的にオンラインゲーミングと呼ぶべきゲーム形態となってくるわけです。

また、例えば上記でご紹介した「タテ・ヨコ・ナナメ スクラッチ」の3×3のボックスを演出上、回転するリールに置き換え、削った後に出てくるマークをベルやチェリーなどのシンボルに置き換えた場合はどのようになるでしょうか?あっという間にオンラインスロットの出来上がりです。同様の演出上の工夫次第で、スロットだけではなく様々なゲームの提供が可能となるでしょう。

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勿論、宝くじの発行は法律上、都道府県および政令指定都市のみが行えるものとなっており、諸外国において合法とされている民生のオンラインゲーミングのようなものがこの法律改正によって合法となるわけではありません。また、宝くじの発売方式などは自治体によって組成される宝くじ事務協議会が決定するものですから、今回の法律改正の後に上記のようなものが一足飛びで実現するものでもありません。

一方、もし現在総務省が計画している法改正が実現すれば、その後の制度の運用次第ではここで解説したような公設のオンラインゲーミングが我が国に誕生することを許容する法律となるのも事実。今回の法改正は、本来はこういった事実を認識した上での論議が行われるべきものであり、実はその他の公営賭博事業における電子販売制度の導入とは意味合いが大きく異なるものなのです。

追記)
ここから先はちょっと専門的になってしまいますが、上記のような議論は被封くじの電子販売を制限した場合には成立しません。もし、総務省がこの法改正の先に起こりうるオンラインゲーミング論議を回避したいのであれば、改正法の中で被封くじを電子販売の対象から外す、もしくは少なくとも総務省の定める「宝くじ運営方針」の中でそれを禁ずることが必要であると思われます。




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