yasuokaの日記: 1964年生まれの「榮子」ちゃん
私(安岡孝一)の昨日の日記の読者から、人名用漢字以外の漢字を子供の名に付けると、その裁判記録が残るのではないか、という御質問をいただいた。いや、そんなことはない。家庭裁判所での家事審判が非公開ということもあるが、そもそも家事審判を経ずに戸籍に登載されてしまった例の方が多いのだ。1964年生まれの「榮子」ちゃんの例を、『民事月報』第19巻第10号pp.56-60から見てみよう。
1964年7月1日、鎌倉市のとある夫婦に長女が誕生した。夫婦は長女に「榮子」と名づけ、7月14日に鎌倉市役所に出生届を提出したところ、無事に受理された。鎌倉市役所がこの出生届を、夫婦の本籍地である東京都千代田区に回送したところ、「榮」は当用漢字にも人名用漢字にも無いという理由で、7月27日に鎌倉市役所に返送されてきた。困った鎌倉市役所は、長女の名を「栄子」に変えてもらうべく夫婦にお願いしたが、夫婦と夫の父の連名で、「榮子」と名づけたのだから「榮子」で行く、との回答を7月31日に受けた。困った鎌倉市役所と千代田区役所は、8月10日付けで東京法務局にお伺いを立て、困った東京法務局も、8月18日付けで法務省民事局にお伺いを立てた。そうしたところ、9月9日に民事局から、「榮子」で出生届を受理してしまった以上、「榮子」で戸籍に登載するしかない、との回答(民事甲第3019号)が戻ってきた。この結果、特に家事審判等を経ることなく、「榮子」ちゃんの戸籍上の本名は生まれた時から「榮子」だった、ということになった。なお、「榮」が人名用漢字に追加されるのは、40年後の2004年9月27日のことである。
ちなみに「麟」に関しては、1988年5月に法務省民事局がおこなった調査において、27の市区町村が、「麟」を含む出生届が問題になった、と答えている。これらの出生届は、全て不受理となり別の漢字へ変更された、と信じたい人もいるだろう。しかしながら、1989年2月13日から始まる民事行政審議会での議論と実情を見る限り、そう信じるわけにはいかないのが現実だと考えられるし、それが戸籍電算化へのキッカケの一つだったと考えられる。
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