こんにちは。ウェールズ歴史研究家、たなかあきらです。今回は・ウィリアム・シェイクスピアの悲劇の中で有名な、「マクベス」について語っていきます。
マクベスはシェイクスピアの物語の中では、王を暗殺して王位を奪った悪者としてよく知られていますが、本当はだいぶ違うのです。
実在のマクベスは11世紀のスコットランドの王で、実は効率的な政府を作りキリスト教も広めた優れた人物だったのです。
へぇ〜。マクベスはなんで悪者にされちゃったんでしょうか?
まず、シェイクスピアの描く、「マクベス」のあらすじを紹介しよう。
シェイクスピア描く「マクベス」のあらすじ
登場人物
マクベス:スコットランド王ダンカンの重臣
マクベス夫人:マクベスよりも策略家で、夫を叱咤する
ダンカン:スコットランド王
マルカム王子:ダンカンの長男
バンクォー:スコットランドの将軍で、マクベスの友人
フリーアンス:バンクォーの息子。
マクダフ:スコットランドの貴族。マクベスに妻子を殺され、マルカム王子と共にマクベスを討つ。
シーワード:イングランド、ノーサンブリアの将軍
3人の魔女:マクベスが野心を持ち、錯乱する原因となる予言をする。
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マクベスのあらすじ
スコットランドの将軍マクベスは、バンクォーと、荒野で魔女達に出会い、マクベスには「万歳、コーダー領主」「万歳、いずれ王になるお方」、バンクォーには「王にはなれないが、子孫が王になる」と予言する。
魔女の予言通りにマクベスはダンカン王から、コーダーの領主に任命される。マクベスは魔女たちの予言を信じ、マクベスの人生が狂い始める。マクベスは夫人と共にダンカン王を暗殺し、王の座を奪う計画を立て実行するのである。
父を殺された王子たちは身の危険を感じ、長男のマルカム王子はイングランドに、次男のドナルベインはアイルランドに逃げる。
マクベスは、ダンカン王を暗殺して国王の座についたものの、バンクォーの存在と、彼の子孫が王になる、という予言を恐れるようになる。そして、マクベスはバンクォーをも殺すが、バンクォーの息子フリーアンスは、逃げ延びる。
自分もやられるんじゃないか、と不安にかられるマクベスは再び魔女たちを訪れる。「女の股から生まれたものはマクベスを倒せない」「バーナムの森が進撃して来ないかぎり安泰だ」との予言を聴き安堵する。
しかし、スコットランドの有力な貴族マクダフが、イングランド亡命したことを聞き、反撃を恐れたマクベスはマクダフの城を奇襲し、マクダフの妻と幼い子どもを殺害する。
マクダフはイングランド王のもとに身を寄せているマルカム王子に、マクベス討伐を説得していた。妻と子供を殺された事を知ったマクダフは、マクベスへの復讐の怒りに燃え、マルカム王子もイングランドのシーワード将軍の助けを借りてマクベス討伐軍を準備する。
そしてついに、イングランド軍がマクベスを攻めるのである。味方も次々と寝返って行くが、マクベスは魔女達の予言「バーナムの森が動かない限り安泰だ」、「女の股から生まれたものには自分を倒せない」、は不動のもので自分は負けるはずがないと信じ、抗戦を続けた。
ところが、魔女達の予言は当たってのである。イングランド軍が木の枝を身に付けてバーナムの森から攻めて来たため、森が動いているように見えたのである。また、マクダフは「私は、母の股からではなく、(帝王切開で)母の腹を破って生まれて来たのだ」と言ったのである。
マクベスはマクダフと戦い、戦死する。そして、ダンカン王の息子マルカム王子が、スコットランド王になった。
このストーリーを聞くと、マクベスは自分中心の悪い人物に聞こえますけど。
それじゃあ、今度は実在のマクベスの話をしよう。
実在のマクベスとはどんな人物だったのか
※スコットランドは北部のPictlandとDal Riada付近。スコットランドと国境をなすイングランドの国はノーサンブリア(Northambria)
イは、スコットランドの高い位の執事で、母親ドナダはスコットランド王マルカム2世の娘だ。
1040年の8月、スコットランドの北部マレー地方で起きたエルジンの戦いで、ダンカン2世を殺し、マクベスはスコットランド王になったんだ。
なんだ、やっぱり歴史上のマクベスも王を殺した人物で、シェイクスピアの物語と同じ悪者じゃないですか?
必ずしもそうではないんだよ。シェークスピアはダンカン1世を誰からも尊敬される人物と描いているけど、実際はそうじゃない様なんだ。
ダンカン1世は大軍を率いてイングランド北部のダラムへの侵攻したけど、大失敗に終わり重臣たちから信用も人望も失っていたんだ。さらに次の年、今度はダンカン1世は軍を率いてマクベスの領土に攻め込んできたんだ。このためマクベスは戦い、その結果としてマクベスが勝利し、ダンカン1世は敗死したわけだ。
そうなんですね。実際の歴史では、ダンカン1世の方が悪者なんですね。
マクベスはケネス3世の孫娘と結婚し、マクベスの王の立場を強くしたんだ。ケネス3世はスコットランド王国を建国したケネス1世の子孫なんだ。
14年間にマクベスはスコットランドを平和に統治したんだ。法律と秩序を作ったり、キリスト教を広める事に尽力した。1050年にローマ教皇の祝典のために、ローマに巡礼したそうだ。マクベスは勇敢な指導者でもあり、ダンカン1世が失敗したイングランドのノーサンブリアとの国境での戦いにも成功したんだよ。
へえ~。そう聞くと、マクベスは悪者じゃなくて、逆に良い王ですね。
しかし、1054年、ダンカン1世の息子マルカム王子(Malcolm Canmore)を王位に戻そうという、ノーサンブリアのシーワード(Siward、マルカム王子の叔父)の挑戦を、マクベスは受けたんだ。
1057年、スコットランド北部のアバディーン地方で起きたLumphananの戦いで、マクベスはマルカム王子に殺されたんだ。そして、マルカム王子は、マルカム3世としてスコットランド王となるんだ。
なるほど。おおよそ、何が起きたのか? は歴史と合っていますが、シェイクスピアが事実を変えて描いたんですね。
そうだと考えられるな。マクベスが勇者や良人よりも、マルコム王を殺害した憎き悪者、とした方がストーリー的に面白いので、シェークスピアはマクベスを悪者に仕立て上げたんだろうな。
- 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志
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