ドイツでは野良猫を虐殺した税理士は処罰できない~動物虐待に厳しい日本の法律
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(Zusammenfassung)
Bundesjagdgesetz
Bundesjagdgesetz
§23 Inhalt des Jagdschutzes
Der Jagdschutz umfaßt nach näherer Bestimmung durch die Länder den Schutz des Wildes insbesondere vor Wilderern, Futternot, Wildseuchen, vor wildernden Hunden und Katzen sowie die Sorge für die Einhaltung der zum Schutz des Wildes und der Jagd erlassenen Vorschriften.
さる8月29日に、税理士が野良猫を虐待死させたとして、動物愛護管理法違反(44条1項「愛護動物のみだりな殺傷)の疑いで、警視庁に逮捕されました。埼玉県在住の税理士が野良猫を捕獲し、3匹の野良猫をケージに閉じ込めた状態で熱湯をかけたり、ガスバーナーであぶったりして殺害したというものです。当税理士に対しては、厳罰を求める署名活動などが行われています。その根拠は「日本は動物虐待に対する処罰が軽い」です。では、日本は動物虐待に対する処罰は、海外に比較して実際に軽いのでしょうか。
まず、本事件の概要です。猫虐待容疑の税理士を逮捕 動画をネットに投稿 (日本経済新聞)。2017年8月29日記事から引用します。
猫をガスバーナーであぶるなどして殺したとして、警視庁保安課は29日までに、税理士の大矢誠容疑者(52)を動物愛護法違反の疑いで逮捕した。
同課によると、「有害動物の駆除なので法律違反になるとは考えていない」と供述している。
大矢容疑者は猫を虐待する様子を撮影した動画をインターネット上のファイル共有サイトに投稿していた。
逮捕容疑は昨年4月から今年4月にかけ、埼玉県深谷市の廃屋で、野良猫とみられる猫3匹を鉄製のケージに閉じ込め、熱湯をかけたり、ガスバーナーであぶったりして殺した疑い。
本件事件ですが、個人ブログで取り上げたものがあります。そのブログでは、イギリス、ドイツを日本と対比させ、「日本は動物愛護に遅れた国」としています。
【閲覧注意】税理士が猫をガスバーナーで焼く日本で動物保護を叫ぶ(2017年8月31日公開)、から引用します。
キチガイ税理士が動物虐待!猫をガスバーナーであぶった動画をネットにアップする暴挙!!
同課によると、「有害動物の駆除なので法律違反になるとは考えていない(*1、)」と供述している。
卑怯者!
頭にウジでもわいてんのか!?
ドイツ
犬の年間殺処分数は・・・ゼロです!(*2、)
ドイツでは動物をペットショップで購入することはできません(*3、)。
それに引き換え日本は・・・
*1、ドイツの連邦法では、野良猫(無主物。飼い主がいない、もしくは占有管理されていない猫)を、ガスバーナーであぶって殺害することを直接処罰する法律はありません(NRW州は除外する)。
*2、ドイツでは、全州で、州の行政機関が行う犬の公的殺処分制度があり、相当数があります。対して猫の公的殺処分はありません(警察官による射殺処分は抜く)。
*3、ドイツには4,100の生体販売ペットショップがあり、人口比で日本より多いです。「生体販売ペットショップはドイツでは競争力のある産業分野」とされています。
前提となる事実とそれから導き出している主張に飛躍が有りよくわかりませんが、このブログの管理人さんは「日本は、動物愛護ではドイツに遅れた国。だから処罰も軽い」という主張をされているものと理解します。では、ドイツ法では、この税理士の猫虐待死事件はどのように処罰されるのでしょうか。
まず日本では、野良猫の「みだりな殺傷」は、動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「動物愛護管理法」と記述します)44条1項で処罰されます。
同法の保護の対象となる動物は、44条4項一、「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」とあり、4項二、と併せて、猫は、人が占有していないもの(無主物である野良猫、放し飼い猫)も保護の対象であることがわかります。
第四十四条
1 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
日本の動物愛護管理法に相当するドイツの法律は、Tierschutzgesetz(「ドイツ連邦動物保護法」以下、ドイツ動物保護法」と記述します)です。日本の動物愛護管理法とドイツの動物保護法の大きな違いは、保護の対象とする動物の範囲が異なります。日本の動物愛護管理法では、44条4項一に定める特定の動物は、人の占有下になくても(野良、放し飼い)保護の対象ですが、ドイツでは人が占有管理している状態の動物でなければドイツ動物保護法の保護の対象とはなりません(Zweiter Abschnitt Tierhaltung 「第二章 管理された動物」。さらに司法判断においても非占有の犬猫は狩猟法が適用されるとしています)。ただし、同法の保護の対象は「脊椎動物全般」に及びます。
ドイツでは、人の占有下にない犬猫は、Bundesjagdgesetz「ドイツ連邦狩猟法」の適用となり、同法23条で、通年狩猟駆除が推奨されています(註 NRW州は除く)。さらにTierschutzgesetz「ドイツ動物保護法」においては13条で、「ドイツ連邦狩猟法はドイツ動物保護法に優越する」と規定されています(§ 13 (1) Vorschriften des Jagdrechts, des Naturschutzrechts, des Pflanzenschutzrechts und des Seuchenrechts bleiben unberührt. 「§13(1)狩猟法、自然保護法、植物保護法および害虫流行に関する法律の規定は、ドイツ動物保護法の影響を受けない」。
本事件の、税理士が猫を虐待死させた事件ですが、容疑者の税理士がドイツで同じ行為を行ったと仮定して、ドイツの法律に当てはめてみます。猫を虐待死させた税理士が狩猟免許を持ち、狩猟法に則って合法的に野良猫(つまり無主物。人の占有下にない)を捕獲したとします。結論から言えば、適法に捕獲した後の猫を、「熱湯をかける」、「ガスバーナーであぶって殺害する」行為は、ドイツ連邦狩猟法では禁じていません。
ドイツ連邦狩猟法で禁じられている事項は、§19 Sachliche Verbote 「19条 禁止事項」でまとめられています。夜間の狩猟、ネットやくくりわなの使用、毒餌の使用などが禁じられていますが、「熱湯をかける」、「バーナーであぶる」は禁止事項ではありません。この条文、§19 9. Fanggeräte, die nicht unversehrt fangen oder nicht sofort töten, sowie Selbstschußgeräte zu verwenden. 「19条 9 獲物をライブトラップで捕獲した後に速やかに殺害しないこと、または自己の銃を使用して殺害しないこと」は禁止事項で、ライブトラップで捕獲した後に、速やかに殺害せずに、苦痛を長時間与える殺害方法は禁じています。しかし罰則規定がありません。これは、§ 39 Ordnungswidrigkeiten 「39条 行政犯罪」の条文にあります。処罰の対象は、§19 Sachliche Verbote 2 「19条2項 禁止事項」においては、1 2 10 15の規定に違反した場合のみです(2. den Vorschriften des § 19 Abs. 1 Nr. 1, 2, 10 und 15 zuwiderhandelt )。
つまり、本件事件の税理士がドイツで同様の行為を行った場合、仮に狩猟免許を持ち、ドイツ連邦狩猟法に則って野良猫(無主物。人の占有下にない猫)を捕獲したとすれば、その猫を、「熱湯をかけた」、「ガスバーナーであぶって」殺害した行為は、ドイツでは全く処罰することはできません。
繰り返しますが、日本の動物愛護管理法では、人の占有下になくても、同法で定めた特定の「愛護動物」であれば、法律の保護の対象となります。これは私がおもに西ヨーロッパの法律を調べた限り、例外的な規定です。ドイツ以外にも、オーストリアは犬猫は通年狩猟駆除対象です。スイス、オランダは猫は通年狩猟駆除対象です。オランダに至っては、野良猫は法律上、外来種のネズミと同じ扱いです。イギリスにおいても、人の飼育下にない猫は保護の対象ではありません。
日本の動物愛護管理法は、ドイツなどの西ヨーロッパ先進諸国の動物保護に関する法律に比較すれば、ある面大変罰則規定が厳しいと言えるのです。非占有の動物にまで保護の対象としているからです。つまり「日本は動物虐待に対する処罰が軽い。ドイツなどのように厳しくせよ」という意見は失当です。
(動画)
Katze TOD im Mai -Deutsche Version- 「5月に私の猫は殺された-ドイツのやり方-」。2011年11月16日公開。飼い猫をハンターに射殺された飼い主が公開した動画。
Erschossen 250 m vom Haus von einem Jäger aus Brunsbüttel. 「ブルンスブッテルのハンターが、家から250mの距離で私の猫を撃った」。と言いましても、「自由に徘徊している猫は狩猟駆除を推奨する」という国に住みながら、猫を放し飼いする方が悪いと思います。
(追記)
本記事は、Tierschutzgesetz 「ドイツ連邦動物保護法」、及びBundesjagdgesetz「ドイツ連邦狩猟法」に基づいて書いています。下位法で異なる規定があり、反論される方は、必ず法律名と該当する条文を原文(ドイツ語)で示してください。下位法(州法、条例)はまだ確認しておりません。
Gesetz über den Schutz, die Hege und Jagd wildlebender Tiere im Land Berlin 「ベルリン州法 野生動物の保護、狩猟、狩猟に関する法律」は調べましたが、適法にライブトラップで狩猟した後の無主物の猫を「熱湯をかける」、「バーナーであぶる」ことにより殺害したとしても、その行為自体を罰する条項はありません。