「あれ?買ったものがない!」
長年食品スーパーに勤めていますが、いつも不思議に思っていることがありまう。それは、あまりにも買った商品を置き忘れてしまうお客様が多いことです。
大げさでも何でもなく、毎日のように誰かが、店内や駐車場に置き忘れた商品が届けられます。
そして毎日のように、「買ったはずの商品がないのですが、届いていませんか?」と問い合わせがあります。
運よく届けられていたお客様は良いのですが、もうすでに無くなっていることも多くあります。
そのことを伝えると大抵は「仕方がないな」と諦められるのですが、せっかく買った商品がなくなったことは大きなショックがあるようで、簡単には御納得されない方もいます。
その様なお客様の中には、「防犯カメラの映像を見せてくれ。そうでないと納得できない」と言われる方もおられます。
そのようなときは、「規則だからできません」と丁重にお断りするのですが、その規則だけでは納得に至らないお客様がいることに考えさせられた出来事があります。
「あんたの所の従業員が盗ったんじゃないの?」と言ったお客様の話
「ちょっと、ちょっと兄ちゃん!私が買った酒ここに置いてたのに」と女性のお客様に声をかけられました。
どうやらお客様は一升瓶のお酒を買ってから、袋詰めをする台に置いたまま、買い忘れた物を買っていたそうです。
するとその間に置いていたはずのお酒が消えていたそうです。 「あんたの所の従業員が盗ったんじゃないの?」と 、 勝手な疑いをかけられました。
その後のやり取りは・・・
「いえ、そういうことはしません。万が一ここに置いてある商品を持って行く時は忘れものとして必ずお預かりしますから」
「じゃあ、どうしてなくなるの?」
「もしかしたら別のお客様が持って行ったかもしれないです」
「まぁ、とにかく私が買ったのは間違いないことだし、レシートもちゃんとあるし、だから早く持ってきてくれるか?売り場にまだいっぱい並んでいたでしょ?」
「いえいえ、そのようなことをすると、お客様が購入された商品以外にお渡しする事になるので、それは出来ないんです」
「アホンダラー金だけ払って手ぶらで帰れと言ってるんか?」
「私は、買ってない商品を渡せと言っているんじゃないんだよ。ちゃんとレシートもあるんだよ」
「購入されたことは分かるのですが、その商品はここからなくなったわけですよね。そうするとそれ以外にもう1本お渡しするということはできないんです」
この様なやり取りが続きました。「私はどう納得したらいいの?」と、なかなか御納得に至らないお客様。
そういうことならと、私が防犯カメラの映像をチェックすることになりました。 時間がかかると言いましたが、お客様は「待つ」と言われました。私が防犯カメラの映像をチェックすると・・・
「うわー、カメラにバッチリ映ってるよ」
お客様がお酒を置いた瞬間がちゃんと映っていました。 さらにその後、お客様がその場を離れた後に別の女性のお客様がそのお酒を袋に入れて持ち去るところもばっちり映っていました。そのことをお客様に伝えました。すると・・・
「その映像を見せてくれ」と言われました。
しかし、会社の決まりで防犯カメラの映像をお見せする事は出来ないと伝えると・・・・
「アホ言うな!そんなものはどこでも見せてくれるよ」
「申し訳ないのですが、規則なんで・・・」
「そんなことで納得出来ると思うの?」
「申し訳ないのですが規則である以上は勝手な真似が出来ないんで・・・」
「それだったら、子供が変質者に襲われた時でもお宅は、そんな言い訳するんか?」 「いや・・・それは・・・」
「私は別に無茶言ってるんと違うよ。納得したいと言ってるんだよ。お宅は店長さんか?」
「いえ、店長は本日公休になってまして・・・」
「それだったら、上の人に相談してからものを言いなさいよ」
お客様は私の「会社の規則だから・・・」と言うことに納得いかない様子だったので、店長に電話をしました。すると・・・
何事も穏便に済ませたいと考える店長の判断
本来防犯カメラはお客様に見せてはいけないのですが、店長が出した答えは・・・「ややこしいお客様だから見せてあげて納得させてあげよう」ということでした。
そう言うわけで、お客様に事務所まで来てもらい一緒に映像を見てもらいました。百聞は一見にしかずです。
別のお客様に盗られた所がばっちり映っているので、店の従業員が盗ったわけではないことが分かってもらえました。お客様はそれを見て・・・
「世の中常識を知らない人が多いんだな」と言ったお客様
「本当だ。世の中常識を知らない人が多いんだな」と言われました。 別のお客様に盗られたということで従業員への疑いは晴れました。
そして、店がお客様に対して出来る対応はここまでです。 後は警察に被害届を出すかどうかはお客様の判断になります。
しかし、お客様は「じゃあ、兄ちゃん今から一緒に警察に来てくれるか?」と言われました。
え?と思いました。本来規則で見せることのない映像まで見せて、30分以上の時間をついやして、さらに警察まで付き合えと?目が点でした。
そんなに暇じゃないのです。忙しいのです。なので「申し訳ないのですが、私たちにも店での業務があるので、ここまでのことしかできないんです」と伝えると・・・
「そんな事は、どこでもやってくれるよ」
お客様 「良く考えてくれる?ここの店の中で起きた犯罪でしょ?店の外で起きた犯罪ならともかく店の中でのことでしょ?なぁ兄ちゃん。私、間違ったこと言ってる?」
私 「お気持ちは分かるのですが、お会計が終わった後の商品の管理については責任を負うことが出来ないんです」
お客様 「アホ言うな。そんな言い訳、私が警察だったら許さんで」
この後、しばらく、やんわりと断り続けた私に、なんとか警察への被害届はお客様でされることに納得されて帰られました。久しぶりに難しさを感じた対応でした。
自分の対応に悩む
「私が警察だったら許さんって意味わからない。ううう・・・」と思い出しただけで腹が立ちます。
防犯カメラの映像をお客様に見せてはいけないのは会社の規則です。警察や、裁判所の公的機関からの要請があった場合だけ、見せることが出来るのです。
あの時の私は「規則だから見せられない」としか言えませんでした しかし、お客様は納得を求めていました。
その規則に対しての納得のいく回答です 。だから、「そんなことはどこでもやってくれるよ」と言う言葉がでたのでしょう。
他の店で防犯カメラの映像をお客様に見せることはあるのか? 後日、警察の方と話をすることがあったのですが、ほとんどの店では、個人情報の保護の観点から映像をお客様には見せないそうです。
そこで、「なぜ見せない?」と言う不満をぶつける人が多いと聞きました。そういう時は、・・・
映像を見せてくれないことに対するお客様の不満に理解を示しつつも、多くの店では映像を見せてはくれない理由を説明すべきでしょう。
個人情報の保護の観点から見せられない理由です。 被害届を出された後に警察からの要請があって初めて警察に映像を見せられます。
そのように、きちんと、そのルールの意味合いを説明することが大事だと教わりました。
接客業をしているとお客様に受け入れられない要求をされることがあります。 そんな時に、「規則だから」だけの言葉では納得に至らないお客様もおられます。
なので、そういったお客様に対しては、なぜその規則があるのかという意味をきちんと説明できる準備が大事だと痛感した出来事でした。