「働く人の相棒」として誕生した缶コーヒーBOSSは、今年で誕生から25周年を迎えました。
BOSSといえば、なんといってもあのおじさんのアイコン。
サントリーの社員は「ボスおじさん」と呼んでいるそうです。
そんな「ボスおじさん」の誕生秘話を、生みの親であるデザイナー石浦弘幸さんに伺いました。
新入社員が生んだ長寿アイコン
BOSSブランドの企画があがった時、石浦さんは新卒入社1年目の若手デザイナーでした。
新しい缶コーヒーブランドの立ち上げは、ビッグプロジェクトであり大いに盛り上がったそう。
そこで、サントリーのデザイン部全体でアイコンデザインのコンペを行うことになり、石浦さんも参加しました。
「新入社員がキレイなデザインを描いても仕方がない、思い切ったものを作ろう。そう考え、“男の相棒”“ボス”をキーワードにスケッチを描き上げました。」(石浦さん)
こうして出来たのが、このパイプをくわえた渋い男性の絵。いろんな顔を研究して、まずは自分の中の理想のボス像を作り上げました。
細やかなスケッチのままでは石浦さんの思うボス像が強く出て、独りよがりになってしまいます。
缶コーヒーを手に取る人が、それぞれの理想のボス像をアイコンに投影できるように、抽象化して現在のデザインになりました。
石浦さんの思い切ったデザインは評判が高く、BOSSブランドの顔として採用されたのです。
常識を覆す、型破りな缶デザイン
アイコンが採用され、次は缶のデザインに取り掛かりました。
当時の缶コーヒーは、コーヒー豆の柄や金の装飾を使って、ぱっと見で中身がわかるようなものが多かったそう。
石浦さんは、“シンプルだけど、コーヒーが美味しく見える缶”を目指し、それらを一切使わない単色デザインで勝負しました。
「当時、飲食物と紺色や紫色は相性が悪いと言われていました。だからこそ似ているデザインが無いので、陳列された時に浮くんです。そこで唯一無二の存在感を放つことができたと思います。」(石浦さん)
今やBOSSを象徴するカラーとなった濃紺色は、コーヒーの深みや懐かしさを表しており、アイボリー(白)は柔らかさやミルク感を表しているそう。
そこへ、人生の甘みも苦味も知り尽くしたボスの顔をのせて、コーヒーの魅力をふんだん且つシンプルに取り入れた初期デザインが完成しました。
ボスおじさんを動かす
ブランド誕生から現在まで、25年間BOSSのデザインに携わっている石浦さんが、1番のチャレンジだったというのがこのデザイン。
車を運転したり新聞を読んだり、これまでとは違う“動くボスおじさん”が描かれています。
BOSS誕生から10年ほど経った頃、時代の流れにより「頼れるボス」のイメージが、「コワイ」「古臭い」と異なる方向に進んでしまいました。
そんな消費者とアイコンの距離を縮めるべく、親しみのあるシーンにボスおじさんを落とし込みました。
「あまり動かしすぎるとアイコン性が失われるので、顔の角度や表情は変えず+αの部分で動きを出しました。」(石浦さん)
これまで顔だけだったボスおじさんの日常を見せることで親近感与え、売上も伸びました。
ただし、ボスおじさんを動かすことは良い面ばかりではなかったようです。
その後10年近く経って発売された“動くボスおしさん”をデザインした商品は、あまりのギャップに注目を集めることができませんでした。
これをキッカケに、「改変のしすぎや二番煎じのデザインは良くない」「常に時代の流れに沿った最適なアイデアで勝負しなくてはいけない」と学んだといいます。
長年愛され続けるアイコンの背景には、若手社員の思い切ったチャレンジと、消費者に寄り添う戦略が隠れていました。
25年間、様々な商品で表情を変えながらいつもそばに寄り添ってくれるボスおじさん。
今日も自動販売機の中でどっしりと構える相変わらずなボスの姿に、なぜかほっとするのでした。