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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第113.5話 世界が灰になる前に

仁の知ることのない、灰色の世界の過去です。
文字だけなので、多分いつもよりは読みにくいです。
完全に設定資料サイドなので、読まなくても全く影響はありません。

後、登場人物紹介と同時投稿です。
・ある研究者のレポート

 本日、我が研究グループの研究テーマの1つが終息することになった。
 そのテーマの名は「デザイナーズチルドレン・サードステージ」。

 デザイナーズチルドレンとは、遺伝子操作によって生まれる前の子供の性質を操作すると言うものだ。
 生まれてくる子供達にあらかじめ才能ギフトを与える、神にも等しい所業である。

 ファーストステージでは身体機能を強化し、セカンドステージでは頭脳を強化した。
 それぞれ大成功を収めたので、サードステージでは音楽や美術などの芸術方面、料理や建築などの技術方面に特化した子供達を作り出そうとしたのだ。

 今までの身体能力、頭脳と異なり、どのように遺伝子を弄ればいいか解らず、研究は長期化してきた。しかし、頭脳を強化したセカンドステージの子供達の協力もあり、何とか今回形にすることが出来たのだ。
 今回の被験者は男女それぞれ512人。合わせて1024人だ。
 毎度被験者の人数が2の累乗なのは所長の趣味だ。

 今後は同時並行で研究の進んでいる「死者の蘇生」へとメンバーが異動になるだろう。


・ある研究者の手記

 先日、女神を名乗る者が全世界にメッセージを発信した。

 その内容は「人類は神の領分を侵しすぎた。よって、この世界は失敗として廃棄することにする」と言うものだった。
 確かにこの世界には女神教と言う宗教はあるが、有史以来女神が降臨したと言うような記録はない。あくまでも1つの宗教として存在していた。

 女神教では「死者の蘇生」や「生命の操作」は触れてはならない神の領域とされており、女神教の信者達からは再三にわたる警告がなされていた。
 しかし、その程度で研究者達が止まる訳はなかった。研究者は「駄目だ」とか「無理だ」とか言われると挑戦したくなるものなのだから。
 そして、その結果が世界の廃棄と言うことになるのだろう。人類の発展のための研究が、人類を滅ぼすことになるとは、皮肉な話である。

 女神はこの世界に天使を残し、世界の消去を始めた。
 この世界の果てから壁が迫ってくるのだ。その壁に触れたモノは例外なく消滅する。
 あらゆる干渉が無意味であり、各国は恐怖に震えた。その壁は『崩壊の壁』と呼ばれることになった。

 残された天使に許しを請いに行ったものもいるが、例外なく殺されてしまった。
 天使と言っても、らしいのは外見だけで、その行いはまさしく魔王と言って差し支えない。
 天使は虚獣と言う生物を生み出し、この世界に破壊をもたらす。

 研究の結果、『崩壊の壁』に触れた物が壊れているほど、世界の壁が進む速度が上がるようだ。まるで、物を食べる前によく噛んで、消化を助けるようである。
 そうなると、『崩壊の壁』は胃袋で虚獣は歯と言うことか。そして、我々は食物と言うことになる。ふざけるな。


・ある研究者の手記

 研究所を移して世界の存続について研究をしているが芳しくない。

 虚獣にはこの世界のあらゆる武器・兵器が通用しない。天使も同様だ。
 『崩壊の壁』の方も進行を遅らせることすらできず、人類の生存圏はどんどんと狭くなっていく。

 それだけではなく、世界の廃棄には恐ろしい側面があることが明らかになったのだ。それは、この世界の情報と言う情報が消失していると言うことだ。
 『崩壊の壁』の壁の近くから、ありとあらゆる記憶、記録、情報が消えていくのだ。
 今や、崩壊の壁の近くにある紙媒体の本は全て白紙になっているし、電子的なメモリは全ての機能を失っている。自動運転制御の自動車は使い物にもならない。

 この情報の消失の恐ろしい所は、『崩壊の壁』よりも早く進行してくることだ。
 そして、『崩壊の壁』のように一瞬で消滅するのではなく、徐々に情報が失われるのだ。情報が失われた物質は灰色になり、全ての機能を失う。

 その情報消滅は人間ですら例外ではない。
 『崩壊の壁』付近にいる人間たちは、記憶や感情などが徐々に削られている。
 先日、研究のために崩壊の壁付近にいた研究者の1人がまるで灰になるように消失してしまったのだ。最近、物忘れが激しくなっていたと言っていた矢先の事である。
 それを見た他の研究者は大慌てで研究を中断して帰ってくることになった。

 どうやら、女神様は我々に何1つ未来へと残すことを許されないつもりのようだ。
 この手記もいずれは白紙になるのだろうが、記録として残さない訳にも行かないだろう。

 『崩壊の壁』も虚獣も女神もどうすることも出来ないのならば、今後は如何にして人類を保全するかと言う方向にシフトすることになるのだろう。


・ある研究者の手記

 随分と時間がかかってしまったが、ようやく人類を保全する目途が立った。
 悪あがきかもしれないが、何もやらないよりはマシだろう。

 その方法とは、「情報を奪われる前に情報を抜く」と言う酷く乱暴な方法だった。
 世界の崩壊は止められないが、情報の消失による消滅だけは防ごうと言う試みだ。

 人間から記憶を含めた多くの情報を消去し、可能な限り持っている情報を薄め、情報消失の影響を受けないようにするのだ。
 それは、人間であることを捨て、吹けば飛ぶような存在に成り下がると言うことだ。これは人間を保全したことになるのだろうか?そんな疑問もあったが、前述の通りやらないよりはマシと言うことで実行されることになった。

 ここで問題があった、情報を抜く装置には適性が必要だったのだ。
 多くの者は適性が無く、唯一適性を持っていたのが、デザイナーズチルドレン・サードステージの1024人だけだった。

 私達は未来への希望として彼らから情報を抜いた。
 そこにいたのは、何の力も持たない灰色の子供達だった。便宜的に灰人と呼ぼうと思う。
 今後、灰色に染まるこの世界の住人として相応しい呼び名だろう。

 灰人になる以外の方法で人類を保全する方法も考えていくつもりだが、困難なのは間違いがない。
 デザイナーズチルドレン・セカンドステージの子供達がいれば良かったのだが、彼らはかなり早い段階で情報消失により消えてしまったのだ。
 どうやら、持っている情報が多く、他者より強く情報消失の影響を受けてしまったようだ。
 彼らには本当に申し訳ない事をしたと思う。

 そして、灰人達にも。

 ざっと見積もって、灰人達が助かる可能性は0だ。
 私達よりは長生きできるだろうが、その生に救いは何1つ無い。

 情報を失った彼らは、普通の人間よりもはるかに長い時を生きる。
 情報の劣化が無いから、死亡するには外的要因以外にないのだ。

 しかし、彼らに子を残すことは出来ないし、生き残れても世界が崩壊しきるまでだけだ。
 例え何らかの理由で世界の崩壊が止まったとしても、彼らには自身で普通の人間に戻る術はない。装置を残そうにも、情報消失で使い物にならないだろう。

 完全に詰んでいるのだ。

 全てを解決できるような救世主がいる訳もない。

 滅びる世界から灰人達を救い、彼らを元の姿に戻せるだけの力を持った存在など。
 もしいたとしても、そんな都合の良い存在が言葉も通じない灰人に手を貸してくれる可能性は?
 0と言って間違いではないだろう。

 祈る神もいないが、今の私には願うことしかできない。
 灰人達の未来に幸多からんことを。
仁、順調に女神の禁忌を踏み抜いていく。
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