ドヤらない凄み、というものがある気がするのだが、大した話ではない。
「DRAGON QUEST-ダイの大冒険-」、という漫画がある。その名の通りドラゴンクエストの世界観を下敷きにした、少年ジャンプ漫画の金字塔の一角だ。連載は確か、1989年から1996年までの7年間だった筈なので、もう20年以上前の漫画ということになる。
元より、レベルアップあり、仲間あり、中ボスやら魔王ありというドラゴンクエスト世界観が、ジャンプ漫画のフォーマットと極めて相性が良かったということは論を俟たないだろう。時には敵が味方になる展開あり、時には意気地がなかった味方が覚醒する展開あり、時には仲間との死別ありと、稲田浩司先生の描写力もあいまって、実に熱い漫画だったと思う。
ところでここにバーン様がいる。
バーン様は、物語当初のボス格として提示される魔王ハドラーの、更に上に立つ存在であって、ドラクエ3で言えばバラモスに対するゾーマ様に当たる。主人公であるダイ達の前に立ちふさがる、最後にして最大最強の壁である。
ゾーマ様と同じく、バーン様も絶大な威厳とカリスマの持ち主であって、数ある「少年漫画のラスボス」の中でも、インパクトの強さや印象深さという視点では指折りの存在ではないだろうか。なんか世間ではアニメ評論のコラ素材に使われまくったりしているらしいが、まあそれはこの際どうでもいい。
で、細かいことはネタバレになるので簡単に触れるが、バーン様には老人形態と若者形態がある。老人形態でも十二分に強いのだが、若バーン様になると更にものっそいパワーアップする。
ここで注目したいのは老バーン様なのだが、彼には「殆どドヤらない」という特徴がある。普通の少年漫画ならドヤ顔をしてもよさそうな場面で、全くドヤ顔をしないのだ。むしろ淡々としているのだ。
ネットでは非常に有名なシーンなのだが、こんなコマがある。
バーン様の強烈な火球を見て「メラゾーマか」と勘違いをしたダイ達に対して、「今のはメラゾーマではない…」という前置きをしてから放った一言がこれである。大魔王の魔力をもってすれば、基本呪文のメラでさえ恐ろしい威力になるという、バーン様の凄み、バーン様という壁の強大さを端的に表した名シーンであると思う。
この時のこの表情、お気づきと思うが、バーン様全くドヤってない。むしろ淡々とした、「魔王が強いのは当たり前やん…説明すんのメンドくさ…」とまで言いたげな無表情。
これこそがバーン様の凄みではないかと思うのだ。
つまり、バーン様にとって「大魔王が物凄く強い」などということは当たり前のことであって、それをいちいち強調する必要などないのだ。ダイ達が力の差を見せつけられて委縮しようがしなかろうが、それすらバーン様にはどうでもよく、自分が絶対的優位なのは当然のことなのである。そこでいちいち得意げな顔になる必要などないのだ。
ここだけの話ではなく、この後の「これが余のメラゾーマだ」のところでも、僅かに口角は挙がっているものの、ドヤ顔という程のドヤ顔は見られない。それでいて、「鍛え上げて身につけた強大な力で弱者を思うようにあしらう時気持ちよくはないのか?」と、特に優越感を誇ること自体は否定しないのがバーン様である。この重厚さ、懐の深さが、バーン様の威厳の源泉であると考えるのはそれ程おかしいことではないだろう。まあ老人顔である影響もあるかも知れないが。
一般的な少年漫画のボス格というのは、むしろ主人公たちの絶望を煽るような場面で、ドヤ顔をすることの方が多い。例えば、これもweb上では超絶著名なドラゴンボールの敵ボスフリーザ様。
このドヤ顔はどうだ。別にそれが悪いという話ではなく、ドラゴンボールの敵役というのは割と頻繁にドヤ顔をするのだが、フリーザ様はその傾向が特に顕著である。ドヤ顔に手足をつけて戦闘力53万を投与するとフリーザ様になる、といっても過言ではない。
といっても、フリーザ様は勿論これはこれで完成されたキャラクターであり、相手を積極的に絶望させにかかるところも含めてフリーザ様の個性なのであって、悪役としてのフリーザ様がバーン様に劣る、とかそういう話ではない。
ただ、「ドヤるかドヤらないか」という軸自体はおそらく存在し、少年漫画における多くの敵役が「どちらかというとドヤる」という特徴を持っている中、バーン様のドヤらなさは特筆すべきであり、そこがバーン様の魅力の重要な一部分である、という話をしたかった次第である。(若バーン様については実は若干のドヤ分がある気もするのだが、まあ今回は老バーン様の話なので割愛する)
あと、もう一つ「敵ボスが全くドヤ顔をしない」という作品について、私は聖闘士星矢の可能性を考えているのだが、こちらについてはまた色々と材料を集めて語りたいと思う。あの人たち大抵めっちゃ真顔で決めポーズとってるんでドヤ分少ない気がする。先に断っておくが、デスマスクは例外。
今日書きたいことはそれくらい。