本試験を受験された皆様お疲れさまでございました。本学院専任講師による平成29年度土地家屋調査士筆記試験の講評です。→ 解答速報 とあわせてご活用ください。
本年度の択一式問題の印象
東京法経学院専任講師 内堀博夫
本年度の択一式問題の出題科目と出題数は,民法が3問,不動産登記法が16問,土地家屋調査士法が1問であり,この点については例年どおりである。
まず,民法については,過去に出題されたことのある問題は2,3割しかなく,簡単な逐条解説とリーディングケースとなった判例の要旨を羅列しただけの受験テキストを読み,土地家屋調査士試験の過去問を学習しただけでは得点することができないと考える。例えば,第1問のイ(表見代理の成立要件)は,平成20年度と24年度の司法試験(短答式)に出題されているが,このようなレベルの高い問題も含まれるからである。しかし,内容的には8割以上が基本的な問題であるので,過去問の学習は勿論のこと,基本テキスト(合格ノートⅢ等)を精読し,答案練習会や公開模試に出題された問題もよく復習していれば,全問得点することができたはずである。本年度も合格者の多くは3問中2問以上の得点であると予想する。
次に不動産登記法については, 16問中,難易度A (やさしい)の問題が2問,難易度B(普通)の問題が10問,難易度C(難しい)の問題が4問となっており,昨年度よりも若干難しいという印象を受ける。受験生の中には, 「過去問だけ学習をしていれば受かる。」といった意見を持つ方もいるが,そのような方は, 「本年度は重箱の隅をつつくような問題が多い。こんなことまで知らないよ。」といった印象を持ったと考える。しかし,本年度の問題は,決してそのような内容のものではなく,基本テキスト(合格ノートⅠ,Ⅱ等)と六法を精読し(特に不動産登記令と不動産登記規則),正確な内容の講義を受け,答案練習会の問題もきちんと復智をしている受験生であれば,短時間で正解を導くことができる問題が多かったはずである。講師である私から見れば,本年度の択一式問題は,土地家屋調査士として当然に知らなければならない規定について,正確な表現(条文に忠実な表現)で作問された良問であるといった印象を受ける。
さて,難易度Cの問題について検討すれば,第5問(登記識別情報の通知)については,不動産登記規則の精読が重要であった。第11問については,オの問題(特例有限会社から通常の株式会社に移行した場合の不動産登記手続)は学習範囲とされていなかったと考えるが,組合せ形式であることから合格者の多くは得点することができたであろう。
<注>組合せ形式の問題の場合は,出題内容の難易度と正解を導く難易度は必ずしも比例しない。今回は出題内容の難易度を評価している。
第16問は建物の構造の表示に関する問題である。昭和63・3・24民三1826号通達(いわゆる「JR (ジェーアール)先例」) の精読が必要であったが,答案練習会や公開模試の書式問題や択一式問題をよく復習していれば得点することができたと考える。第19問は筆界特定に関する問題であるが,筆界特定は学習範囲が広いため,いくらでも新しい問題を作問するととができるので,過去問の学習だけでは不十分である。本年度は不動産登記法の精読が必要であった。
最後に,土地家屋調査士法の1問については,やはり, 「過去問だけを学習していても得点することができない。」といった印象を受ける。オの問題(いわゆる「一人法人(いちにんほうじん)」の設立の可否)については土地家屋調査士法31条1項と39条2項の理解が必要であった。
以上により,本年度は,例えば,書式問題で7割(35点/50点)を得点した受験生であれば,択一式問題は16問得点で合格圏,18間以上得点で安全圏に入ると予想する。
本年度の記述式問題の印象
東京法経学院専任講師 山井由典
1 平成29年度記述式問題のポイント
本年度の記述式問題の構成は、土地1問及び建物1問となっており、出題の形式は、従来のものと全く同様である。また、土地、建物双方の問題において、登記申請をすべき理由等を文章(短文)で記載させる形式をとっていることも、従来と同じであり、特に変更等は見られなかった。
土地、建物ともに、どのような登記を申請すべきか(登記の目的等)について、悩むような点はないだろう。総じて、本年度の記述式問題の難易度は、ここ数年の本試験の中では、最も平易なものであったといえる。
【第21問】土地合筆登記及び土地地積更正・分筆登記
土地記述式問題の問1は、各筆界点の座標値を算出させるものであり、求点の数は3つであった。まず、C点であるが、基準点間の方向角(A202からA201への方向角)に夾角を加えて、器械点A202からの方向角を求め、視準点Cへの距離を用いて、算出することとなる。分筆点H点は、直線ABの方程式と、直線FGより西側へ1.00m後退した直線(建物後退線)の方程式により交点の位置を算出すればよい。同様に、分筆点I点は、直線DEの方程式と、建物後退線の方程式により交点の位置を算出すればよい。ただし、建物後退線の方程式をつくる際には、その線上の任意の点(解説では、F')を計算点として、あらかじめ算出しておくことが要求される。
建物後退線から分筆点を求める問題は、平成9年度にも出題があるが、このときは、建物後退線がX軸に平行(Y座標値は一定)であるため、他方の直線の方程式に、Y座標を代入してX座標を求めれば足りるものであった。
問2は、分筆の登記の申請のために地積の更正の登記を申請することの要否とその理由を問うものである。
分筆前の地積(登記簿上の地積)と分筆後の地積が異なる場合には、分筆の登記を申請する前に地積の更正の登記を申請しなければならないのが原則である。しかし、測量結果には誤差が含まれるので、実務上は、分筆前と分筆後の地積の差が、分筆前の地積を基準にして、地積測量図の誤差の範囲内であるときは、地積の更正の登記を申請することを要しないとしている(準則72条1項)。
本問では、分筆の登記の前に合筆の登記を申請することになるので、基準とすべき分筆前の地積は、合筆後の地積ということになる。合筆後の地積は、甲、乙、丙土地の地積の合計297.52㎡となる。本問の土地は、市街地地域にあるから、誤差の限度は、甲2の1.57㎡であるところ(規則77条5項、10条4項)、分筆前と分筆後の地積の差は、これを超えているので、地積の更正の登記を申請しなければならないとの結論になる。
問3は、依頼を受けた分筆の登記の申請書の作成であるが、「分筆の登記以外に必要な土地の表示に関する登記(合筆の登記を除く。)がある場合は、一の申請情報により申請するものとする。」との指示がある。この指示は、説明するまでもなく、地積の更正の登記が必要であれば、その申請もせよとの指示にほかならない。問2で述べたとおり、地積の更正の登記の申請は必要となるから、登記の目的を、土地地積更正・分筆登記として、分筆の登記と併せて、地積の更正の登記を申請しなければならない。この場合の申請書の記載は、平成18・4・3民二799号通達の記録例にしたがえばよい。
問4は、問3の登記申請書に添付する地積測量図の作成である。各筆界点の座標値の表示、平面直角座標系の番号又は記号,地積及びその求積方法、測量年月日の記載を要しないことは例年どおりといえる。
【第22問】建物分割登記及び建物表題部変更登記
問1は、【事実関係】5の依頼を受けて行うべき登記の申請の①登記の目的、②当該申請を必要とする理由、③当該申請における各階平面図の添付の要否を問うものである。
本問では、地縁団体たるB自治会が本件建物(甲建物及び乙建物)を所有していたところ、甲建物のみを社会福祉法人C福祉会に売買しているから、この売買を原因とする所有権移転の登記を申請すべきことになる。しかし、この状態では、甲建物のみについてする所有権移転の登記の申請は、申請が一個の不動産の一部についての登記(承役地についてする地役権の登記は除く。)を目的とするときに該当することとなり、却下を免れない(法25条13号、令20条4号)。そこで、まず、売買した甲建物だけを登記上一個の建物とする手続が必要になる。この手続として、建物の分割の登記、すなわち附属建物たる乙建物を甲建物とは別個の一個の建物とする登記を、その建物の所有権の登記名義人であるB自治会から申請すべきことになる(法54条1項1号)。上記③について、各階平面図の提供を要することは、令別表16項・添付情報欄イの規定による。
問2は、【事実関係】10の依頼を受けて行うべき登記の申請書の作成である。問1の建物の分割の登記完了後、C福祉会は、甲建物の用途を保育所に変更して、さらに、甲建物の利用を補うために丙建物を新築しているので、これらの変更を原因として建物の表題部の変更の登記を申請すべきことになる。丙建物は、発泡ポリスチレン板を主たる構成材料とし、壁部分と屋根部分が一体化した形状をとっていて、建物としての3要件(定着性、外気分断性、用途性)が認められるか問題となるが、平成16・10・28民二2980号回答は、これを認めている。建物の構造の表記方法としては、屋根材の区分を表示しないで「発泡ポリスチレン造平家建」としている。
C福祉会は、社会福祉法人であり会社法人等番号を有する法人ではあるが、「会社法人等番号は用いないものとする。」ので、会社法人等番号の提供の代わりに、C福祉会の代表者の資格を証する登記事項証明書を提供すべきことになる。
問3は、問2の申請書に添付する建物図面及び各階平面図の作成である。各階平面図においては、「床面積及びその求積方法の記載を要しない。」との注書がないので、必ずこれを記載しなければならない。丙建物の一部には1.50m未満の部分があるが、この部分も床面積に含めて各階平面図を作成しなければならない。
2 合格ラインについて
記述式問題については、どの部分が何点といった配点は公表されていないため、択一問題のように何問(何%)正解で合格圏内といった予想は難しい。
しかし、前述したとおり、本年度の記述式問題の内容は、平易なものであったので、合格のレベルに達した受験生であれば、85~90%以上の得点ができたとしても全くおかしくないと考える。基礎的な学習しか済んでいない受験生であっても、大きなミスをしなければ、十分に合格の可能性があろう。
このようなことを踏まえると、土地、建物ともに、75%以上で合格圏内、80%以上で安全圏内に入ると予想する。
3 記述式問題への対策
本年度の土地、建物の問題もそうであったが、近年の出題傾向として顕著なのは、申請件数の複数化という現象である。本年度の土地の問題は、土地の合筆の登記を申請してから、土地の分筆の登記(ただし地積の更正の登記を抱き合わせる)をさせるもので、いわゆる連件申請を念頭においていた。建物の問題は、主である建物のみの所有権移転の登記を前提とする建物の分割の登記、及びその所有権移転の登記を済ませたことを前提とする建物の表題部の変更の登記をさせるもので、この2つの登記の申請は、申請人が同一人でない点で、土地の問題とは異なっていた。
要するに、問題の事実関係を読み取り、申請の対象となる物件を特定し、申請すべき登記の目的、申請人等を把握しつつ、その登記に関連する論点を整理するという一連の作業を2つ以上、短時間で処理しなければならないことを意味する。
幸いにも、本年度の問題は、申請すべき登記の目的を迷うものではなく(土地については合筆の登記をしてから分筆の登記をすることが明記されている)、誰が申請人となるかについても、依頼者が明確となっていることから簡単であったといえる。
来年度以降も、この傾向は続くと予想するが、申請件数が複数あるといっても、まずは、1つ1つの登記申請の内容(例えば、土地の分筆の登記の申請人は誰か、添付情報は何か,土地の表示欄の記載はどのようにするか)を、確実に理解する(登記原因及びその日付の記載等は、覚えなければならない)ことが必要である。そして、個々の登記申請の内容を理解したら、多くの問題演習をしてほしい。誤解を恐れずに言えば、ここで多くの問題演習をしてほしいということは、常に本試験と同様の形式で解答する(実際に三角定規を動かし、白紙の申請書のひな型を埋める)ことを意味するものではない。一例として、申請書は頭の中に書く、図面はフリーハンドにとどめる(求積等のみ関数電卓を使う)ということである。端的には「題意を把握する」訓練をしてほしいということである。
演習用の問題としては、学院で発刊しているもののほか、答案練習会等の各講座で使用するものを勧めたい。これらは、毎年の出題傾向を把握して作問されているからである。
なお、手前味噌とはなるが、筆者担当の2017書式明快講座で出題した論点(分筆の登記をする際の地積の更正の登記の要否とその理由⇒第3回土地、会社法人等番号を有する法人が会社法人等番号を提供しないで申請する場合の添付情報の記載⇒第4回土地)は、本年度試験で出題されている。
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