色々試して結局ラークに落ち着いた。ピアニッシモとかじゃ軽かったし、銘柄決めるのに男受けまで考えたくなかったし。
ある日の朝。郵便受けを除くと見慣れない小包が。中を開くと元カレの吸ってたタバコだった。そういえば、元カレの名義でうちの住所をJTに登録してたんだった(たまーにサンプルが届くからそれでタバコ代浮かしてた)
吸ってもいいけど、彼のことを思い出したくなかった。人の記憶って匂いと鮮明に結びついてるっていうし。
駅前の喫煙所。電車が来る15分前についてタバコを吸うのが習慣になってた。
そこで、いつも見かけるサラリーマンを見かけた。
決められた時間に決められた人間だけで集まると、顔なんて覚えてしまうもので。
普段は落ち着いた雰囲気でタバコをふかす彼が、その日はやけに慌てていた。
外見は私より年上っぽかったけど、喫煙所の脇にタバコの自販機があることにも気づかずに慌ててるのを見て少し可愛いなって思ってしまった。
ただ置いてくよりはいいかと思って私は彼に持っていたマルボロを差し出した。
「これよかったらどうぞ。間違って買ってしまって処分に困ってたので」
「え! あ、すいません……ありがとうございます」
こんな感じで彼はいきなりの施しに戸惑っていたようだった。
翌日、彼にラークの新品を渡された。
私の吸ってる銘柄と同じだった。
少し焦ったし驚いたけどそれ以上に嬉しかった。
当時の私は未だに彼のことを引きずっていた。
私に価値を見出してないんじゃないか。私を必要としていないんじゃないか。
そんな被害妄想に陥っていた。
そんな中で、彼は私を見ていてくれていた。
我ながら単純だと思うけど、性分だから仕方ない。
私はそこで恋に落ちたのだ。
そこから、朝に短い会話を交わすようになった。
彼の方が早く来ていることを知り、私も早く来るようになった。
共通の趣味が映画なことを知って、月末に封切りされる話題作を見に行く約束を決めた。
スーツを着ていなかった彼はやっぱり年相応だったけど、それでも格好よく見えて。
「スーツじゃなくてもかっこいいな」なんてことを思ったその時に、私は恋を自覚した。
そこから3度目のデートで告白されて、私達は付き合うことになった。
彼の家のベランダで並んでタバコを吸ってる時の告白で、私達らしいねなんて言って笑いあった。
帰り道(付き合い出してからは帰る時間を合わせるようにした。最寄り駅同じだし。会う時間作りたかったし)に喫煙所に寄った時に、彼から新品のマルボロ(彼と付き合い出してから戻した)を渡された。
「なにこれ。どうしたの」
「そうじゃなくて」
「……俺と、結婚してください」
びっくりした。けど嬉しかった。
この人となら幸せになれると思った。
でも、プロポーズの場所は選んで欲しかったな。そう言うと彼は「初めて会った場所だったから」って。
変なとこでロマンチックだけどちょっとズレてて。そんな彼が大好きだ。
今度2人で籍を入れに行きます。
タバコが好きだ。
マルボロよ。ラークよ。その他今まで吸ってきた色んな銘柄達よ。
私と彼を引き合わせてくれてありがとう。
タバコがきっかけで始まった縁が色々とひと段落ついたので後で読み返してニヤニヤするために残しておくことにします。