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発達障害の相談急増、過去最多7万4000件…人員不足で「対応難しい」
発達障害を抱える人やその家族への支援を行う専門機関「発達障害者支援センター」に寄せられた相談件数が昨年度、7万4000件を超え、過去最多となったことが厚生労働省のまとめでわかった。障害への理解や支援の不足は、本人の不登校や仕事上のトラブル、親による虐待などにつながりかねないとされるが、相談件数の増加に伴って支援の担い手不足が目立ってきており、各自治体は対策を急いでいる。
疑いがある人も含めると全国に700万人か
厚労省によると、発達障害の人は、その疑いがある人も含めると全国に約700万人いると推定される。小中学生の6・5%程度に発達障害の可能性があるとの調査結果もある。
同省のまとめでは、昨年度に全国に91か所ある同センターに寄せられた相談は計7万4024件で、47か所でスタートした2005年度から4倍以上に増えた。多くは親から寄せられた子に関する相談で、発達障害への認知度の高まりが影響しているとみられる。
各センターでは、障害の検査や生活に関する助言、就労支援、病院など関係機関の紹介、啓発活動などを行っているが、急増する相談に伴い、臨床心理士などの専門家を十分確保できない地域も出ている。
関東地方のあるセンターでは、来所による相談が数か月待ちの状態が続いているほか、電話相談も多く、受話器を取れないことも珍しくないという。センター長は「病院などと連携して対応できれば効果的だが、連携先が少なく、センターで抱え込まざるを得ない。人員も不十分で、迅速で丁寧な対応が難しくなっている」と吐露する。
四国のあるセンター幹部も、「相談件数は右肩上がりだが、職員の人数は増えず、負担が大きくなっている」といい、啓発活動や就労支援まで手が回らないのが実情だという。
褒めることで自信、前向きな生活促す
千葉県柏市が取り入れた「ペアレント・プログラム」で、担当職員に子育ての悩みを相談する母親(手前左)=繁田統央撮影
センターを中心とする対応が「ニーズ」に十分応えられなくなっている中で、自治体が新たな支援策に乗り出すケースも増えている。
その一つが「ペアレント・プログラム」と呼ばれる取り組みだ。専門知識がない市町村などの職員でも、専門家の研修を受けることで助言などを担当できるのが特徴。子どもの障害などに悩む親らに、自分や子どもの「できる」ことに着目し、これを褒めることで前向きに生活できるよう促す。
同省も、都道府県や市区町村に補助金を出して後押ししており、毎年250~300の自治体が利用している。昨年度から導入した千葉県柏市では、研修を受けた児童センター職員が助言役となる会合が毎月数回のペースで開かれており、3歳と1歳の娘の育児に悩んで今年4~7月に参加した母親(36)は「褒めると子どもが自信を持って動いてくれることがわかり、心に余裕ができました」と語る。
このほか、発達障害の子どもを育てた経験者が、同じ悩みを抱える子育て家庭に助言をする「ペアレントメンター」を育成する取り組みも広がっている。昨年度は全国で計41の都道府県や政令市が導入し、事業が始まった10年度と比べて約2倍になった。
発達障害者の支援に詳しい杉山登志郎・福井大客員教授(児童青年精神医学)は、「発達障害への支援の必要性は年々高まっているが、拠点となるべき支援センターの態勢は
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【発達障害】 対人関係を築くのが不得意な「自閉症スペクトラム障害」や、衝動的に行動しがちな「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算が苦手な「学習障害(LD)」などがある。生まれつきの脳機能障害が原因とされ、低年齢から発症する。