意識高い系ウォッチャーとしてたまらない本を発見した。『平成のビジネス書』(中公新書ラクレ)である。
この本では、著者の山田真哉氏が過去に執筆していたビジネス書の書評連載の内容をまとめた書評編と、書き下ろしの考察編に分けられている。書評編では、ホリエモンこと、堀江貴文氏がまだ若かったころの本など、懐かしい本が多数あった。
考察編では「近年、なぜビジネス書は売れなくなったのか」について論じており、これが面白かった。
2000年代は『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)や『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)など多数の大ヒット作があり、ビジネス書・自己啓発書ブームだった。最近はそのようなヒット作を見かけないし、実際、日本出版販売(日販)の調査を見てみると、ビジネス書の売り上げは11年以降、右肩下がりとなっている。
売れなくなった理由にはいくつかの通説がある。その中でも特に興味深いのが「既にノウハウが出尽くしたから」「キャリアアップという発想が時代遅れだから」の2つの通説である。
「既にノウハウが出尽くしたから」という通説については、実はビジネス書ブームの際も多くの人がうすうす気付いていたことである。主張する人が変わるだけで、言っていることは同じなのだ。
しかも「自分の強みを最大限に生かせ」などという、誰も反対しないド正論が載っている。その強みに気付けないから本を読んでいるわけであり、会社では仕事を必ずしも選ぶことができるわけではないので、何の救いにもならなかったりするのだ。
「断る力」なんて言葉も流行ったが、庶民には断るほど仕事もなければ、勇気もないのである。「1日30分、何かを続けなさい」的なノウハウもあったが、続けるのはしんどい。
この程度の内容なら、わざわざお金を出して本を買わなくてもネットで読めばいいということになる。
もちろん、物書きとしては、本が売れなくなることは悲しい。しかし、ネットで自分にフィットする情報にアクセスできる時代は決して悪くはない。何かノウハウを身につけるのに、200ページも読まなくて済むからだ。
ちなみに、私が意識高い系の社員だったころ、たくさんのビジネス書を読んだがその内容のほとんどは覚えていない。唯一印象に残っている本は、冒頭で紹介した『夢をかなえるゾウ』だけだ。私はこの本とドラマ版を見て感動し、その翌日、当時勤めていた会社に「辞める」と伝えたのだった。
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