毎年、9月とか10月あたりに吹きはじめる、冷たく乾燥した風の埃っぽい匂いをかぐと、今年もいよいよか、と思う。
なにがいよいよかというと、冬である。秋ではない。なぜだか、9月とか10月あたりの風の匂いには、冬の気配がするのだ。そして無性に懐かしい気分に襲われ、冬っぽいことがしたくなる。
大抵は居ても立っても居られず、ココアを作りはじめる。なんとなく、冬といえばココアなのである。
そそくさと牛乳を出してきて、鍋にだばだばと流し込み火をつける。これが電子レンジではいけない。直火の鍋で温めなければ冬っぽくないのだ。
鍋の端がくつくつと沸いたら火を止める。立ち上る濃い湯気に冬っぽさを感じながら、ココアパウダーを溶かし、バターをひと匙入れる。そしておたまでかき回して、マグカップに注ぐ。このおたまがまた冬っぽさを演出してくれるポイントだ。
出来上がった熱々のココアをふーふーしながらソファに座り、雑誌かなにかを読む。
あぁなんて冬っぽいんだろう。素敵だ。ぼくはいま素敵な冬を過ごしているのだ。そうだ、あのもこもこしたスリッパも出してこよう。
そんな具合に冬っぽいことをして満たされた気分になっていると、大抵、数日後にはまた気温が上がって冬の匂いはどこかへ消えてしまう。
またしばらくは、室温28度のなかで扇風機を回し、うろこ雲を見上げながら、あの素敵な冬に想いを馳せて過ごすのだ。もこもこしたスリッパを履きながら。
こういう文章好き。