(英エコノミスト誌 2017年9月2日号)
サイにとっても人類にとっても危険
「十分に科学的でないとしてかつては疑いの目で見られていた伝統的中国医薬(中医薬)が、まさに世界を席巻することになるかもしれない」。中国国営の新華社通信は昨年、ある記事にそう書き記した。
もちろん、遊び半分の誇張だった。中国共産党といえども、現代の医学を捨てて、有効性が確かめられていない古代の医療を採用するようなことは計画していない。
しかし同党は、英語圏で「TCM」という略称で知られる中医薬の治療法を世界に売り込むこと、そして中国国内でそれを提供する病院や医院の大規模なネットワークをてこ入れすることに、真剣に取り組んでいる。
中医薬は近年、中国で急成長を遂げている。この医療を手がける病院の数は2003年には約2500カ所だったが、2015年末には約4000カ所に増えた。中医薬の免許を持つ医師もここ6年間で50%近く増加し、今では45万人を超えている。また中国政府は「孔子学院」のネットワークを利用して、米国、英国など複数の国々で中医薬の教育を助成している。
孔子学院とともにプロパガンダを担う人民日報は、ウェブサイトで「世界は中医薬の時代に入るのか」と問いかけている。その答えが「イエス」だったら、中国政府はきっと大喜びするだろう。しかし人類と、中医薬に薬の材料を提供する自然界にとっては、喜ぶ理由が見当たらない。
辛酸をなめる
中医薬は今日の地位をずっと享受してきたわけではない。この国の最後の王朝が1911年に倒れた後、新しい政治指導者たちは中医薬を迷信だと一蹴した。そもそも中医薬には、薬草や動物の体の一部から作る調合薬や鍼(はり)療法のみならず、「気」と呼ばれる力が体全体の健康に影響しうる、というような神秘主義の要素も顔をのぞかせることが多い。