1.はじめに
労働力不足が顕在化している。そうしたなか、2017年6月に閣議決定された成長戦略(「未来投資戦略2017」)で、日本経済のさらなる活性化および競争力強化の観点から、外国人材の受け入れと活用が盛り込まれた。当該内容は、第2次安倍政権発足以降、閣議決定されてきた成長戦略において、5年連続で明記されたことになる。
5年前は高度外国人材の活用促進が中心であったが、今では、建設、造船、家事労働、農業、クールジャパン、インバウンドなど、幅広い分野の外国人の受け入れ促進や、生活環境の改善等についても言及されている。近年のこのような外国人に関する政策展開は、過去の政権と比較しても「異次元のスピード」(鈴木 2016: 42)で進められており、急激な変革期を迎えているといえる。
実際、住民基本台帳に基づく日本人と外国人の人口(ここではそれぞれ、日本国籍者数と外国籍者数を指す)の過去4年間での増減率を都道府県別に集計すると(図表1)、日本人の減少傾向と外国人の増加傾向がくっきりと表れる。外国人増減率に注目すると、一部で減少している地域もあるが、北海道、東北、四国、九州など、これまで必ずしも外国人集住地域ではなかった地域でも、外国人の増加傾向が認められる。
図表1 日本人と外国人の増減率(2013年を1とした場合の2016年の変化、都道府県別)
(資料)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(年次)をもとに、筆者作成。
こうした状況を受け本稿では、日本社会における外国人に関する実態が、(1)「これまで」どうなってきたのか、(2)「これから」どうなると見込まれているのか、の2点に分けて改めて整理を行う。
外国人に関する議論は、一部の専門家や支援団体を除き、多くの国民からは遠ざけられてきたきらいがあるが、私たちが今どのような社会で生活しているのか、これからどのような社会が到来すると見込まれているのか。これらについて基礎的なデータの概観を通して、議論の素地を整理することを本稿の目的とする。
2.「外国人」の考え方
外国人に関する実態の整理を行うにあたり、そもそも外国人をどのように定義するかを考える必要がある。本稿では、もっとも一般的な、(1)出入国管理および難民認定法における、外国人=外国籍の人(=日本国籍を持たない人)とする考え方に加えて、(2)元外国籍で現在は日本国籍に帰化した人や、(3)いわゆるダブル(ハーフ)の子どもなど、日本国籍であっても外国にルーツを持つ人々を含めた、「外国に由来する人口」という観点で考えてみたい。上記の整理をまとめたものが図表2である。
図表2 外国に由来する人口の考え方
(資料)筆者作成。
3.「これまで」どうなってきたのか
●増加し続ける永住者と帰化者
図表2の整理に基づき、公的統計から、これまでの人口推移を図表3にまとめた。
図表3 (1)外国籍人口(在留外国人数)および、(2)帰化人口(累計帰化許可者数)推移
(資料)法務省「在留外国人統計」、「帰化許可申請者数、帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移」をもとに、筆者作成。
まず、(1)外国籍人口(在留外国人数)は、2016年時点で過去最高の約238万人に達している。着目すべきは、日本においては、広く外国人を対象にした「永住推進政策」を行っていないにもかかわらず(注1)、永住を認めている在留資格である「永住者」と「特別永住者」(注2)の人数の合計が1996年以降一貫して増加している点である。
この傾向は、「特別永住者」の継続的な減少、および、リーマンショックや東日本大震災に起因する在留外国人数全体の減少にもかかわらず続いている。また、(2)帰化人口(累計帰化許可者数)も継続的に増加し、2016年時点で約54万人に達しており、(1)外国籍人口と合わせて約300万人がすでに日本で暮らしていることがわかる。
(3)国際結婚カップルの子ども等の数は、直接的に実数を把握できる全国規模の統計がないため参考値だが、2015年の新生児のうち約30人に1人が外国にルーツを持つ子どもであり、25年前の1990年(約58人に1人)と比較して約2倍の増加がみられる(人口動態統計をもとに筆者試算)。また、文部科学省(2017)によれば、2016年時点で「日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数」が全国で1万人弱、そうした児童生徒が在籍する学校数は全国で約3,600校にのぼり、これら数字はいずれも過去10年単調増加傾向にある。
(注1)在留資格「高度専門職」への優遇措置以外で、日本において外国人に対して積極的に永住権を与えるような政策は採られていない。
(注2)正確には、「特別永住者」は在留資格ではないが、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」に規定され、永住者と同様、活動の制限はなく、在留期間も定められていない。
●労働市場で高まる「外国人依存度」
日本国内で雇用されている外国人労働者(ここでは外国籍の労働者を指す)に目を向けると、2016年10月末時点で、外国人労働者数は約108万人、外国人を雇用する事業所数は約17万箇所に達しており、いずれも過去最高となっている。2008年に「外国人雇用状況」の届出が義務化されて以降、徐々に捕捉率が高まっている側面があるとはいえ、過去数年間で日本国内における外国人労働者の存在感が高まっていることが窺われる。
実際、日本の労働市場における外国人労働者が占めるウエイトはどれほど変化してきているのか。総務省「労働力調査」と厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、全就業者に占める外国人労働者の割合を「外国人依存度」として試算した。まず、産業別に集計した結果が図表4である。
図表4 全就業者に占める、産業別「外国人依存度」試算
(資料)総務省「労働力調査」、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、筆者作成。本稿では、現在と同じ形で産業別集計が公表され始めた2009年以降を試算対象としているが、2011年の「労働力調査」(全国・年次)は、東日本大震災の影響等により公表されていないため集計から外している。なお、当該届出には特別永住者が含まれていないことにも留意が必要。
図表4をみると、各産業において「外国人依存度」が高まっている。2016年時点では、59人に1人が外国人であり、2009年(112人に1人)と比較すると約1.9倍の増加となっている。産業別に2009年と2016年を比較すると、建設業の約3.8倍を筆頭に、農業・林業:約3.1倍、医療・福祉:約2.7倍、卸売業・小売業:約2.5倍となっている。
また、2016年時点で宿泊業・飲食サービス業では、全就業者の30人に1人が外国人となっている。とくに都市部のファーストフード店や飲食チェーン店などにおいて、外国人に接客を受ける機会が増加している実感と符号する人も少なくないと思われる。
次に、上記と同様のデータを用いて、都道府県別の全就業者に占める外国人労働者の割合として「都道府県別 外国人依存度(2016年)」(図表5)と、「都道府県別 外国人依存度の変化(2009年→16年比較)」(図表6)を試算した結果を下記にまとめている。
図表5 各都道府県の全就業者に占める「外国人依存度(2016年)」試算
図表6 各都道府県の全就業者に占める「外国人依存度の変化(2009年→16年比較)」試算
(資料)図表5,6ともに、総務省「労働力調査」、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、筆者作成。
図表5をみると、1番目の東京都(23人に1人)から、47番目の秋田県(314人に1人)まで、幅があることがわかるが、全国平均よりも高い割合となっている都道府県は、東京都や愛知県などの都市部や、これまで外国人集住地域とされてきた群馬県、静岡県、岐阜県などが並んでいる。
一方、図表6の都道府県別 外国人依存度の変化(2009年→16年比較)をみると、沖縄県の約3.18倍を筆頭に、北海道や九州など、都市部以外や従来の外国人集住地域以外の都道府県で、外国人労働者が過去数年間高い割合で増加傾向にある。こうした結果からも外国人の増加は都市部や従来の集住地域に限った話ではなく、全国的な傾向であることが窺われる。【次ページにつづく】