ドラフト候補は高校野球未経験の元陸上部 BC富山・和田の前例なき挑戦
ルートインBCリーグの富山サンダーバーズに、一風変わったドラフト候補がいる。高卒1年目の和田康士朗外野手(18)=184センチ、68キロ、左投左打=だ。NPBが注目する選手といえば甲子園出場歴の有無こそあれど、元高校球児なのがフツーだろう。だが和田は高校時代、陸上部だったのだ。そんな若者に今、複数球団のスカウトが熱視線を送っている。
生まれは埼玉県東松山市。6人きょうだいの4番目だ。中学時代は軟式。しかし股関節を骨折するなど、度重なるケガに泣いた。「野球はもう、中学で終わりにしようと思っていたんです」。
県立小川高では50メートル走5秒8の俊足を武器に、陸上部の門をたたいた。専門は走り幅跳び。自己ベストは6メートル45センチの好成績だ。1年秋の県大会では15位にランクインしたが、野球への情熱は消えなかった。
高校入学から3か月。7月のある日のことだった。夏の埼玉大会を放映する「テレ玉」の中継を見ていたら、旧友の姿が映った。「出場はしていなかったんですが、ベンチから大声を出していて。やっぱり、野球はいいなあって」。青春は一度きり。こみ上げる情熱を抑えられなかった。高1の1月、陸上部を退部した。
通常ならここで同校の硬式野球部に入部するのだろうが、15歳が身を投じたのはハイレベルなクラブチーム・都幾川倶楽部硬式野球団だった。大人に交じって白球を追う日々が始まった。「プレッシャーの中でのプレーでしたが、そのおかげで上達できたと思います。感謝しかありません」。1年目は代打でチャンスをうかがい、2年目には「1番・中堅」でスタメンに定着。昨年の全日本クラブ選手権では埼玉県予選1位に貢献した。
高校卒業後は大学に進学し、そのままクラブチームでプレーすることを視野に入れていたが、「腕試しにと思って」昨秋受験したBCリーグのトライアウトでは富山・吉岡雄二監督の目に留まり、1位指名を受けた。指揮官は言う。「打席でのタイミングの取り方や間ですね。一番、光っていました」
帝京時代は夏の甲子園の優勝投手に輝き、巨人や近鉄などで強打者として活躍した吉岡監督のもと、「打撃は飛躍的に伸びました」と和田。自慢の走力や遠投107メートルの強肩に加え、憧れのソフトバンク・柳田をお手本にフルスイングにも磨きをかけた。好打者がひしめく富山の中で、5番も任されるようになった。「課題は変化球の切れに対応すること。変化球への対応力です」。走攻守で潜在能力十分の18歳は今、運命のドラフトを待つ。
埼玉の同世代には花咲徳栄から昨秋、広島にドラフト2位指名された左腕・高橋昂也がいる。「いつか、対戦できたらうれしいと思います」。さらにはクラブチーム入り、BCリーグ入団と、常に「頑張れ」と背中を押してくれた両親へ、恩返しすることが目標だ。
人生に寄り道、迷い道はつきもの。元陸上部の挑戦を応援したい。12球団への道は決して、一本だけでなくていい。(野球デスク・加藤 弘士)