特定に「複雑」 89歳の元乗組員
終戦直前、米海軍の重巡洋艦「インディアナポリス」を撃沈させた旧日本海軍の潜水艦「伊58」が、長崎県の五島列島沖で特定された。撃沈時に最年少の17歳だった元乗組員、清積勲四郎(きよづみ・くんしろう)さん(89)=愛媛県松前町=は、艦尾を上に60度の角度で海底に突き刺さっていたことを知ると、「はー」と長いため息をついた。「頭から突っ込んだ状態とは考えつかなかった。たくさんの船が手をたずさえて仏になっているんですね」としみじみ語った。
清積さんは1945年5月と7月、それぞれ約1カ月間にわたって士官室付の従兵(給仕)として「伊58」に乗っていた。100人近くいる乗組員の最年少のため、特に持ち場はなかった。
伊58がインディアナポリスを攻撃した45年7月29日深夜、清積さんは魚雷が命中した衝撃を感じたという。「敵艦を目で見るのは橋本以行(もちつら)艦長だけで、艦の外のことは全くわからない。(敵が)沈んだのも全然わかりませんでした」。撃沈したら艦内放送があるが、通常2~3分で放送されるのに、その日は10分ほどかかったので、大きい船だと思ったという。
なかなか沈まないので、人間魚雷「回天」の特攻隊員が「私に行かせてください」と出撃を申し出たが、橋本艦長が「(あとは)沈むだけだから行くことはない」と言っていたと、のちに艦長付の伝令役だった中村松弥さん=京都市伏見区=から聞いた。
海没処分から71年。くしくも今年8月、インディアナポリスがフィリピン沖で見つかったと民間の調査チームと米海軍が発表した。清積さんは「よう見つけたなあと思った」が、伊58の特定には「複雑」だという。「見つけられてありがたいとは思うが、回天に乗り込んで亡くなった人のことを思うと、悲しいことがよみがえってくる感じです」【中村美奈子/統合デジタル取材センター】