書きすぎないで行間を自分語りしてもらう
燃え殻 堀込さんの間接的な詩の表現って、自分の体験と照らし合わせて絵が浮かんでくるんです。絵が浮かぶと自分事として捉えられるんですよね。堀込さんのそういうセンスはとても影響を受けました。小説を読んだ人が、「物語はあれでいいけど、俺はさ……」なんて自分事として語ってくれるものにしたかった。インターネットでも、今はカスタマイズするっていうか、自分事にしていかないと最終的にのめり込めないと思うので。
堀込泰行(以下、堀込) そうですね。アゴタ・クリストフの『悪童日記』っていう名著がありますけど、シンプルな文章で構成されていて、簡素な言葉の羅列だけどものすごくリアリティのある描写になってるんですね。シンプルであるがゆえにリアルな効果を生んでいるというか。それをちょっと思い出したりして。
燃え殻 書きすぎないことをすごく意識したんです。書籍にするにあたって連載から大幅に加筆修正したんですけど、執筆の最後のほうは「この言葉も取ろう、ここも削ろう」ってシンプルにする作業を一生懸命してた気がします。その削った部分っていうのは読んだ人が個々で埋めてくれるんじゃないかなと思ってたんです。
例えば、彼女側の感情がほぼ書かれてないことも絶対批判的な意見があるだろうって思ったんですけど、彼女はこんなことを考えてたんじゃないかってことは読者の想像にお任せしようかなって。
堀込 それぞれの体験と照らし合わせて。
燃え殻 ブイは置いていくけど、そこまでの道はお任せしたほうが、僕が思ってるよりも広がるんじゃないかと。僕が固めてしまったらすごく小さいコアなものになっちゃう気がして。それによって「これは小説じゃなくて詩だ」って言われちゃうこともあったんですけど、それでもいいって思ったんです。行間を読んでもらう、行間で想像してもらう。行間部分は自分語りをしてほしいなっていうふうに思いました。
——受け手の想像に委ねる、要素を詰めすぎない、というのは楽曲制作にも通じるところがありそうですね。
堀込 僕はメロディができてから詞を乗っけるんですけど、比較的音数の少ないメロディなので、当てはまる日本語を探すだけでも苦労します。だから歌詞で物事をあまり事細かに語ることはできなくて。その中で説明的にしすぎると、短い文章が続くだけのすごくつまんない歌詞になってしまう。なので、言葉選びを大事にして、その羅列でイメージとか意味とか状況とか物語を作っていくっていうのは心がけてますね。
燃え殻 なるほど、わかります。
堀込 音楽の場合は字数が限られてるので、物語まで書くのはなかなか難しい。例えば「エイリアンズ」だったら、音の数が多いから比較的物語は作りやすいんですね。まあ実際は苦労して作ったんですけど。「燃え殻」は音数が少ないからもっと難しかった。はめられる言葉の数が少ないから、この中で彼と彼女の関係性を表現して、周りの情景を描いたりするのは……。
——音数に対しての言葉しか入れられないから、行間を読ませざるを得ないですね。
堀込 そうなんです。
燃え殻 できる限り絞ったのは自分も同じですね。それは、年に1、2冊しか小説を読まないという人に触れてもらいたいっていう思いが元からあって。最近、活字慣れしてる人の大事な1冊になるためには、最初から最後までで1つの曲みたいな流れ、リズム感の良さがないと難しいだろうなと思っていたから。そういえば昨日、紀伊国屋書店の人の話を聞いたんです。
堀込 ほう。
燃え殻 「小説コーナーどこですか?」と店員さんに聞くような方がけっこう買って行ってるそうなんです。そういう方々に届いているなら、とても嬉しいです。
対抗馬は海老蔵ブログ、松居一代?
堀込 自分でそういうふうにコンセプトを立てて、ちゃんと成功してらっしゃるっていうのはすごいですね。ある程度ドライな目線を持って、客観視しながら自分の作品を作れてるなんて理想的だなと思います。僕はなかなかできないので……。
燃え殻 えっ、すごくできてますよ!(笑)
堀込 もがきにもがいてっていう感じなので。
燃え殻 ええー。音楽を作る人の中でも一番できてるんじゃないかと僕は踏んでるんですけど……。
堀込 そしたらもっと売れてると思います(笑)。
燃え殻 いやいやいや(笑)。僕は1作出しただけなので、cakesで連載していたものが本になってどのくらい売れるのか見てみたいっていう感じだったんです。でも書店の人たちからしたら「インターネットから出てきた作家?」って怪訝に思われる鬼っ子でしょうし、ネットの人からは「調子乗ってんじゃねーよ」みたいな声も出るだろうし、全員から嫌われる要素しかない、どうしようって(笑)。
だから、自分が通りすがりの書店で無名作家の本を手に取るかシミュレーションしてみて、帯は連載を読んでくださった著名な方々のコメントがいいねという話になったんです。装幀に関しても目に留まるにはどうしたらいいか、かなり相談しましたね。
堀込 そうなんですか。そういうところもしっかり意見を出されたんですね。
燃え殻 はい、怖すぎて。普通に出版されたところで買う人の顔が見えなかったんです。今、「インスタ映え」っていう言葉があるじゃないですか。
堀込 ありますねえ(笑)。
燃え殻 新潮社というすごく格式ある出版社から出すのに、「表紙はインスタ映えするものにしたほうがいいと思うんですよね」とか言ったので、多分全員ドン引きしてたと思います(笑)。とにかく、ほかの平積みされる書籍との勝負っていうよりも、まとめサイトとかYouTubeとかとの時間の奪い合いだなと思ったんです。本をたくさん読んでいる読書家や書評家の方に対してアプローチしていっても、賞も実績もない無名の自分じゃ広がらないだろうし。対抗馬は(市川)海老蔵ブログや松居一代だなと勝手に思ってたんですよね。
堀込 ははは(笑)。
今のSNS社会と符合した「エイリアンズ」
——ネットを活用して作品をより広めるということで言えば、今年「エイリアンズ」がLINEモバイルのCMソングに使用されてかなり話題になってますよね。あの現象こそSNSの力が大きく作用している気がします。堀込さん自身はどう見ていたのでしょうか?
堀込 元々YouTubeとかでいろんな人が「エイリアンズ」をカバーしてくれてるのは見ていました。埼玉の女子高校生が歌ってたり、ギターのうまいおじさんが弾いてたり、同業者のミュージシャンの方がカバーしてくれたり。ありがたいし、どういうわけかけっこうウケるんだなと思っていて。
燃え殻 「エイリアンズ」ですよ! ウケますよ、それは(笑)。
堀込 とはいえ決してわかりやすい曲でもないし、カラオケで歌って気持ちいい曲でもないから。まあそんな曲をいろんな人がカバーしてインターネットという場所で表現してくれるっていうのはうれしかったです。ただ、その中で完結するくらいのものだろうと思っていたら、たまたまCMに起用されて……。
——のんさんが歌唱したことも大きな要因でしょうが、原曲を知らない若い世代にも浸透し、単なるCMタイアップの域を超えてネットで盛り上がったという印象があります。
堀込 あの曲はエイリアン“ズ”って言っておきながら、主人公が相手の彼女に対しても「君はエイリアン」って思ってる、という内容ですけど、みんな繋がってるようでいて繋がってないような、今のSNS社会と照らし合わせたときに符合する部分がちょっとあるのかな。17年前に出した曲が、意外と今の時代にも合ってるのかもしれないですね。
燃え殻 もう17年前かあ……。
構成:鳴田麻未 写真:大熊信(cakes)
次回は9月14日(木)公開予定
Line Mobile のCMソングとして起用され話題になった、堀込泰行のキリンジ時代の代表曲「エイリアンズ」が2017年夏、ラヴァーズverとして再生、デジタル配信と限定12インチアナログ盤の2形態でリリース決定!
アーティスト:YASUYUKI HORIGOME & THE NEW SHOES
タイトル: エイリアンズ (Lovers Version)
発売日:2017年8月9日(水) 追加プレス発売:2017年9月6日予定
Apple Music / LINE MUSIC / AWAなどのサブスクリプションサイトでも配信。
ハイレゾ配信:e-onkyo/mora
アナログ盤:Amazon