蝋燭姫(2) 鈴木健也
百合度★★★★★(5.5)
「蝋燭姫」は2巻で最終巻です。1巻の紹介はこちら。
2人の運命は平坦ではありません。やはり2巻はシビアな展開が…。
しかしフルウはスクワのことが好き。そしてスクワもまた…。
最終話を読んで私は泣きました。途中「魔法少女まどか☆マギカ」に勝るとも劣らない残酷なシーンがあるんで人によってはトラウマになってしまうかもしれませんがこの作品、名作でした。
スェイはスクワ姫を捕まえたら結婚して王位につく野心があることを告白。フルゥはそれを許さない、とスェイと歯向かうのですが、夜盗から姫を守れなかったことを指摘され、失意の底に落ちてしまいます。しかし助けにきたマロノーに、フルゥは姫のことを好きで好きでたまらないんでしょう?と言われ、改めて姫を救うことこそ自分の使命だと思い起こし、姫を助けに行きます。やはりフルゥは姫のことを誰よりも思っていて、他の男が結婚して身分を取りもどすことは断固反対のようですね。
助けにきたマロノーの精一杯の励ましで立ち直れたフルゥですが、元々このマロノーの強い気持ちは以前フルゥが伝えてあげたものなんですね。自分が他の者に与えた強さがまた戻ってきました。
馬を走らせてようやく姫の元へ辿りついたフルゥは、そこで底辺の労働をこなしながら暮らしていて痩せこけ変わり果てた姿のスクワと再会します。最初は気丈に振舞っていたものの、泣いてフルゥのことを抱きしめるスクワ。
フルゥはスクワを再び王位戻らせるためミフ公爵のところへ向かおうとしますがスクワはそれを制止し、修道院に戻ると言って聞きません。さらに「わたしね…初めて会った時からあなたのことが…嫌いだったの」と、出会った時にフルゥの肌の色が元々黒かったのに手ぬぐいで顔を拭かせようとして恥をかいたこと、修道院までついてきたフルゥのことを恥かしく思っていたことなどを語りだして衝撃の展開。
当然フルゥにそれが堪えないはずもなく、スクワの見ていないところでは声をあげて泣き出してしまいます。
ついに心中を語りだしたスクワですがそれはあまりに衝撃的でした。「雨降って地固まる」などと客観的に見れる程悠長な展開ではなく、スクワがフルゥのことを本気で嫌っていた様子が窺え、フルゥでなくとも思わず泣きたい気分になってしまいましたね。しかし相変わらずスクワの前では気丈に振舞っているフルゥ。
しかしそんなフルゥの頬に手をあて、洗濯日以来、嫌いどころか「好きになってしまったの」とまたまた衝撃発言を…!
その後はフルゥに自分から話しかけたり食べ物もらって喜んで、もっと欲しいと言い出しそれを拒むフルゥに「あなたけちんぼうなのねえ」と駄々を捏ねたり、たくさん持っているフルゥの荷物を自分も持つと手伝おうとしたり、つれない様子のフルゥに「わたしはフルゥのことを好きになって、フルゥも私のことが好きなら、お互いを好きな同士がこんなに近くに一緒にいるってすごく素敵なことだと思ったのに」泣き出して(!)しまったり、思っていたことをついに全部言えたスクワは、まるで別人になったかのように親しく接するようになりましたね。
そんなスクワに同意し、修道院に向かうことにするフルゥ。
道中、2人で水浴びをするシーンでは、本当にスクワは楽しそうですね。
しかしフルゥの胸のうちにはある決意が。昔、助けられた気高い狼が落ちぶれた姿をしているのを見て自ら殺してしまったこともあるというフルゥは、姫にどうしても気高い存在のままでいて欲しかったのでした。そしてフルゥは修道院に戻りたいというスクワを騙して、ミフ公爵の元へ連れて行きます。
味方になってくれ、スクワを擁立してくれるというミフ公爵の意向に賛同したフルゥですが、スクワは権力におもね、自分の身分のみが目当ての連中と行動したくないと、スクワに激しく抗議します。そして、そんな風に自分を扱うフルゥも連中と同じだったなんて!と悲観しますが、フルゥはスクワにあくまで姫としての気高さを求め、それが出来ないのであればと自害まで迫り、自らも剣をスクワに向けてしまいます。
スクワのフルゥに対する気持ちはほぼ恋心と言って良い程鉄板なのですが、今まで一心にスクワを慕い続けてきたフルゥがスクワを1人の人間として添い遂げ両想いになる気持ちになれず、あくまで姫として気高くあって欲しいというフルゥの気持ちは予想以上に強いもので、これは2人の関係にも大きな障害だったのでした。
しかし泣きじゃくりながら訴えるスクワの言葉がそれまで頑なだったフルゥの気持ちを動かします。
あなたがいたから私は変わってしまったの!一緒にいて笑って、泣くようになって、あなたと一緒にもっと生きてみたい。…そう思うようになってしまったのよ…。あなたがいたからじゃない、フルゥ。この言葉に心を動かされたのでしょうね。
「やめてください、そんな顔。それではまるでただの小娘のようではありませんか…」と言葉では言うフルゥですがその表情にはスクワへの新しい愛情が芽生えたように見えます。
しかしそんな中、敵のスェイがやってきてミフ公爵は殺され、さらにスクワを庇ったフルゥの腕も切られてしまい…。
スクワは王位を狙うスェイに連れ去られてしまうのですが、そんなスェイの前にフルゥが傷ついた姿ではあるものの、左手に剣を引きずり、口で傷口を縛って再び現れるシーンは、思わずこみ上げてくるものがありましたね。

このシーンはなんど見ても泣ける…。
もちろんそんな状態で一人だけではスェイに立ち向かう事は出来ないのですが、傷ついた腕をさらに犠牲にし、スクワとも力を合わせてついにスェイを倒すことが出来ます。
そしてその後スクワは傷ついたフルゥを救うため、フルゥを背負って修道院に戻ろうとします。

出血のせいで意識を失いかけるフルゥに、自分の口で溶かした雪を水にして口移しで飲ませ、自分を死なせまいと必死になっているスクワを見て、フルゥはようやく気付いた自分の気持ちを告白することが出来るのでした。

「私はあなたが大好き。泣き虫でよく笑う――ただのスクワが」
スクワも「わたしもよフルゥ。好き。あなたが大好きなの」と応え、ついにお互いの気持ちが結ばれます。
スクワに背負われ、お話を聞きながらフルゥが幸せを感じるところで本編は終わっていました。

お互い好きな気持ちが通じ合ったのにフルゥの命は長くなくて、大好きなスクワのお話を聞きながら絶命してしまう…悲しいけどこれ以上にない程美しい話…という風にも解釈できます。私も雑誌で最初一読した時はそんな風に読めてしまいました。雪の吹きすさぶ中、ラストシーンで2人が向かっている先には十字架が立っていて不吉な雰囲気が漂うエンドでしたし。
この作品、雑誌掲載時では結末に2通りの解釈の仕方がある作りになっていて、これはこれで面白いと私は思っていたんですが、単行本を買ったらあることに気付いて印象が変わりましたね。ヒントはカバーの折り返しに。解釈は2つありませんでした。結末はひとつです。
スクワはもう蝋燭姫ではなくただのスクワに。フルゥも狼ではなくただのフルゥに。しかしそんな素のままの自分に戻っても、2人で幸せに暮らすことが出来たんですね。
ラストがラストだっただけに雑誌掲載時には、凍てつくような寒さの中に作品世界が閉じ込められている印象があったのですが、単行本のカバーになった絵を見るとそんな印象も消え、何か幸せで暖かい気持ちになれますね。王宮でもてはやされる豪華な暮らしとか片腕とか、そんなものはたいしたものではないような気さえしてしまいます。
ヤージェンカはルルクスに指示されてスクワを守る任務を遂行していたようで(そばかすの女性も同様)、ルルクスは意外に悪い奴ではなかったんですね。
姫を逃走させたことで捕まって途中拷問も受けるヤージェンカですが、決して口を割らなかったのは訓練されていたこともあったのでしょうが、フルゥを守ろうという気持ちもあったからなのでしょう。ヤージェンカはフルゥのことを本気で好きだったようですが、そばかすの女性はヤージェンカのことが好きなようで、この2人も幸せになれるのでは…と思わせる結末でした。
しかし王位も捨て、ただの女になったスクワをフルゥも愛しく思えるようになり、スクワもかつて自分に恥をかかせて、今は片腕をなくして自分を守ることも出来なくなったフルゥのことを愛せるようになった展開が胸を打ちます。
作中で「イブはアダムの肋骨から作られた」という聖書の話なども使われていて、女性が粗末に扱われる厳しい世界が描かれていたんですが、そんな中でも女性が何も持たない相手の女性を愛すことが出来る力強さが表現されていましたね。
感無量。文句なしの名作でした。
このシーンはなんど見ても泣ける…。
もちろんそんな状態で一人だけではスェイに立ち向かう事は出来ないのですが、傷ついた腕をさらに犠牲にし、スクワとも力を合わせてついにスェイを倒すことが出来ます。
そしてその後スクワは傷ついたフルゥを救うため、フルゥを背負って修道院に戻ろうとします。
出血のせいで意識を失いかけるフルゥに、自分の口で溶かした雪を水にして口移しで飲ませ、自分を死なせまいと必死になっているスクワを見て、フルゥはようやく気付いた自分の気持ちを告白することが出来るのでした。
「私はあなたが大好き。泣き虫でよく笑う――ただのスクワが」
スクワも「わたしもよフルゥ。好き。あなたが大好きなの」と応え、ついにお互いの気持ちが結ばれます。
スクワに背負われ、お話を聞きながらフルゥが幸せを感じるところで本編は終わっていました。
お互い好きな気持ちが通じ合ったのにフルゥの命は長くなくて、大好きなスクワのお話を聞きながら絶命してしまう…悲しいけどこれ以上にない程美しい話…という風にも解釈できます。私も雑誌で最初一読した時はそんな風に読めてしまいました。雪の吹きすさぶ中、ラストシーンで2人が向かっている先には十字架が立っていて不吉な雰囲気が漂うエンドでしたし。
この作品、雑誌掲載時では結末に2通りの解釈の仕方がある作りになっていて、これはこれで面白いと私は思っていたんですが、単行本を買ったらあることに気付いて印象が変わりましたね。ヒントはカバーの折り返しに。解釈は2つありませんでした。結末はひとつです。
スクワはもう蝋燭姫ではなくただのスクワに。フルゥも狼ではなくただのフルゥに。しかしそんな素のままの自分に戻っても、2人で幸せに暮らすことが出来たんですね。
ラストがラストだっただけに雑誌掲載時には、凍てつくような寒さの中に作品世界が閉じ込められている印象があったのですが、単行本のカバーになった絵を見るとそんな印象も消え、何か幸せで暖かい気持ちになれますね。王宮でもてはやされる豪華な暮らしとか片腕とか、そんなものはたいしたものではないような気さえしてしまいます。
美しいものをみたんだ。ヤージェンカは最初から一番大切なものを分かっていたようですね。地位やお金ではなく、一途でひたむきなフルゥ自身が自分にとって一番の宝物だと気付いていたのでしょう。
命くらい張るさ。
一途で誰かのために必死でひたむきでまっすぐな…
ヤージェンカはルルクスに指示されてスクワを守る任務を遂行していたようで(そばかすの女性も同様)、ルルクスは意外に悪い奴ではなかったんですね。
姫を逃走させたことで捕まって途中拷問も受けるヤージェンカですが、決して口を割らなかったのは訓練されていたこともあったのでしょうが、フルゥを守ろうという気持ちもあったからなのでしょう。ヤージェンカはフルゥのことを本気で好きだったようですが、そばかすの女性はヤージェンカのことが好きなようで、この2人も幸せになれるのでは…と思わせる結末でした。
美しいものをみたことはあるか?一方フルゥも最初は同じような言葉を口にしていたのですが微妙にニュアンスが違って、決定的に違うところがあったんですね。フルゥが最初「好きで好きでたまらないんだ」と言っていたのは、スクワの気高く高貴な姿だったのでした。
そこに在るだけで美しく、自然に頭を垂れその方に付き従わずにはいられないような…
そういう美しさのことだ!
しかし王位も捨て、ただの女になったスクワをフルゥも愛しく思えるようになり、スクワもかつて自分に恥をかかせて、今は片腕をなくして自分を守ることも出来なくなったフルゥのことを愛せるようになった展開が胸を打ちます。
作中で「イブはアダムの肋骨から作られた」という聖書の話なども使われていて、女性が粗末に扱われる厳しい世界が描かれていたんですが、そんな中でも女性が何も持たない相手の女性を愛すことが出来る力強さが表現されていましたね。
感無量。文句なしの名作でした。