長野ニホンライチョウ、生息地で守る 環境省、天敵テン捕獲
絶滅が危ぶまれる国特別天然記念物のニホンライチョウを守ろうと、環境省は今夏、生息数が激減した南アルプスの北岳(三、一九三メートル)周辺で天敵のテン六匹を捕獲した。同省がライチョウ保護のため哺乳類を捕獲したのは初めて。捕獲に協力したライチョウ研究の第一人者で、信州大名誉教授の中村浩志さん(70)は「今後も続けて、個体数の減少を食い止めたい」と力を込める。 環境省と中村さんは二年前、標高三千メートルほどの高山帯に、風雨を避けられるライチョウのためのシェルターを設置。ひなの生存率を上げるのが目的だったが、シェルターを出てから成鳥に育つまでに大半が天敵に捕食された可能性が浮上。天敵の捕獲に乗り出した。 中村さんはシェルター付近に金属製のかご型わなを設置。餌でおびき寄せ、六月下旬から八月上旬に六匹のテンを捕らえた。テンはもともと、標高の低い里山の動物だが、中村さんによると、登山者が残したごみや残飯を目当てに山に登るようになった。今では山小屋周辺に居ついたとみられるという。 環境省によると、北岳周辺には一九八一年に約百五十羽のライチョウがいたが、二〇一四年には約二十羽に激減。キツネのふんからライチョウの羽根が見つかったこともあり、北アルプスなどではニホンザルなどが高山帯で、ひなや卵を食べる被害が相次いでいる。 天敵の捕獲は、岐阜、長野両県にまたがる乗鞍岳(三、〇二六メートル)でも同省が一六年から実施。空気銃などでカラスを捕らえようと試みている。
中村さんは「ひなを守るために捕食者の餌にならないようにする必要がある」と強調。九~十月に再び北岳に登り、キツネなどの捕獲を試みる。 ただ、ライチョウ保護が目的とはいえ、哺乳類の捕獲は生態系に手を加えることになるため、環境省は結果を検証した上で、他地域でも実施するかを決めることにしている。 ◆人工繁殖と両輪、餌の生育保全も国内に生息するライチョウは一九八〇年代に三千羽程度だったが、二〇〇〇年代に二千羽弱となり、減少に歯止めがかかっていない。このため環境省などは、本来の生息地である高山帯での個体数保全と、動物園などでの人工繁殖の両輪で対策を進めている。 高山帯での対策は北岳での天敵捕獲のほか、国内生息地の北限に当たる新潟県妙高市の火打山(二、四六二メートル)では一六年度からイネ科植物の除去に取り組む。火打山では、温暖化の影響で背の高いイネ科植物が高山地帯に侵入。ライチョウの餌になるコケモモの生育を脅かしている。 人工繁殖は一五年度から始まり、乗鞍岳で採取した卵を上野動物園(東京都台東区)と大町山岳博物館(大町市)、富山市ファミリーパークでふ化させ、現在はいしかわ動物園(石川県能美市)、那須どうぶつ王国(栃木県那須町)を加えた全国五カ所で成育を試みている。いしかわ動物園では今年、四個の受精卵を受け入れたが、ふ化せず卵の中で死んだか、ふ化後に死んだ。今年には、昨年生まれたつがいが第二世代の卵を産んでおり、順調に数が増えれば山に戻す予定だ。 (竹田弘毅)
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