小沢健二とSEKAI NO OWARI「フクロウの声が聞こえる」について(前編) #ozkn #sekainoowari

 本日9月6日(水)、小沢健二のシングル『フクロウの声が聞こえる』が発売となりました。
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小沢健二とSEKAI NO OWARI『フクロウの声が聞こえる』
 表題曲「フクロウの声が聞こえる」は、SEKAI NO OWARIとの共作です。
 小沢健二とSEKAI NO OWARI、どちらのファンにとっても意外な組み合わせだけに、不安や抵抗感を抱いていた(いる)人も多いでしょう。
 ただ、フジロックのステージで*1「これまでの僕の、これからの僕の全部がつまっている録音になっています! 何十万回でも聴いてください!」と小沢氏が自信満々に述べていただけあって、個人的には、すごく良い化学反応が起きていると思います。
 
 とはいえ、いずれのファンでも、この組み合わせがピンときていない人はまだまだいるでしょうし、とくに多くのセカオワファンのかたにとっては「小沢健二? フクロウ? なにそれ?」でしょう。いち小沢ファンの立場から、「フクロウの声が聞こえる」について解説します。
 小沢ファン目線での文章になってしまいますが、セカオワのファンのかたがたの参考にもなれば幸いです。いつか、小沢ファンとセカオワファンが一緒にある世界へ!
 

よりもまずは、この動画から

 まず、これから「フクロウの声が聞こえる」を聴く人には、34分の時間(と、できればWi-Fiの繋がる、大きめの画面で見られる環境)を確保して、まずはこの映像を観ていただきたいです。

小沢健二とSEKAI NO OWARI 『フクロウの声が聞こえる』短篇 Ozawa Kenji & Sekai No Owari “I Hear an Owl” Short
 
 この映像を観るだけで

  • どうしてこの組み合わせでコラボしたのか
  • どうしてこの曲「フクロウの声が聞こえる」で共作したのか
  • どうしてこういうアレンジになったのか

といったことが、すごく簡単に腑に落ちると思います。
 
 実際、僕もそうでしたし、同じ意見のかたをTwitter上で多く目にしました。もちろん個人的な好みなどはあるでしょうが、少なくとも、上に挙げたような疑問点はおおむね氷解するんじゃないかと。
 
 ネタバレにならない範囲で簡単に内容を紹介すると、両者の交流と今回のレコーディングに至った経緯、楽曲の聴きどころ、などなど。
 それに、映像的にもすごく見どころが多いです。飯島奈美さんの手によるコース料理は見ているだけでとても美味しそうだし、4種類のセットとそれに合わせた美術・衣装・メイクもめちゃくちゃ凝っている。
 密度が濃いので、一度見始めたら目が離せないと思います(逆に、密度が濃すぎて途中で疲れちゃうかもしれないけど)。
 僕は普段、曲を聴く前に聴きどころや裏話とかを知るのは野暮な気がしてるんですが、今回に限っては、この映像を観てから曲を聴いたほうが楽しめるだろうなと思います。
 
 少なくとも、小沢ファン(だけどセカオワをよく知らなかったり、組合せに違和感があったり、な人)にとっては、このコラボやアレンジを受けとめるにあたってすごく良い橋渡しになっている、そんな映像だと思います。
 ほら、「今夜はブギー・バック」のMVって、ほんとにこの4人(小沢&SDP)は普段から仲良く遊んでるんだろうな、って感じがすごく伝わってきますよね。今回の短篇もそれに通じるものがあるというか。この組合せで楽しく遊んだりレコーディングしてたら自然とこういう形になったんだな、って。
 
 そんなわけで、

  • 上の動画を観ていただいて
  • それからシングルを手に取っていただいて
  • ライナーに書かれている「聴きどころ」を確認しながら何度も何度もリピート再生して

 それだけでもう、すごく楽しめるんじゃないかと思います。
 

れまでの経緯

 というわけで、ここからは上の映像の内容を踏まえて話をしていきます。
 まず、「フクロウの声が聞こえる」に関するこれまでの経緯をざっとまとめてみましょう。
 リンクが貼られているものは、当ブログの過去の記事や僕のツイートです。
 

時期 できごと 備考
2015年2月4日 SEKAI NO OWARI、NY滞在時に小沢健二へコンタクトを取り、初めて一緒に遊ぶ 小沢はこの時期に「フクロウの声が聞こえる」を作曲
2016年5月25日~6月27日 小沢健二、「魔法的」ツアーで「フクロウの声が聞こえる」初披露 2曲目アンコールで、毎公演2回ずつ演奏。セカオワも観客として来場
2016年6月21,26日 小沢健二、ライブの歌詞に「虹色の戦争」の曲名を引用 当時、セカオワとの交流が全く知られていなかったため、小沢ファン界隈は騒然
2017年2月22日 小沢健二、19年ぶりのシングル「流動体について」発表 スペシャルサンクスにセカオワの名前あり
2017年6~7月頃? 小沢健二とSEKAI NO OWARI「フクロウの声が聞こえる」レコーディング 時期は「初日のSaoriの爆弾」の件から推測
2017年7月29日 小沢健二、FUJI ROCK FESTIVAL 2017にて「フクロウの声が聞こえる」披露 「魔法的」版にスカパラホーンズなどが加わったアレンジ
2017年8月下旬~9月頭? 小沢健二とSEKAI NO OWARI「フクロウの声が聞こえる」短篇映像収録 時期は「収録後72時間後4幕&1完パケ納品」から逆算
2017年9月1日 渋谷マルイに「フクロウの声が聞こえる」の広告が掲示 松本大洋によるイラストと、コラボ曲である旨が発表
同日夜 テレビ朝日「ミュージックステーション」の次回予告に「小沢健二と○○○」の出演発表
2017年9月4日 渋谷マルイの広告で、コラボ相手がSEKAI NO OWARIと発表 厳密には、3日22時半ごろに判明
同日昼 小沢健二とSEKAI NO OWARI「フクロウの声が聞こえる」短篇映像公開
2017年9月5日 シングル『フクロウの声が聞こえる』店着日
2017年9月6日 シングル『フクロウの声が聞こえる』発売日
2017年9月8日 テレビ朝日「ミュージックステーション」にて、小沢健二とSEKAI NO OWARI「フクロウの声が聞こえる」披露(予定)

たつの「フクロウの声が聞こえる」

 では、今回の「フクロウの声が聞こえる」とはそもそもどんな曲なのか。
 
 この曲が初めて披露されたのは、上の表にも書いたとおり、小沢健二氏の昨年5~6月のツアー「魔法的」です。
 このツアーは未発表の新曲を7曲も演奏するのが大きな目玉でした。中でもこの「フクロウの声が聞こえる」は、毎公演2回ずつ演奏されている猛プッシュっぷりで、「魔法的」ツアーを象徴する曲といっても過言ではないと思います。
 
 もちろんファンからの反響も大きくて、ツアー中から「早くシングルやアルバムで聴きたい!」といった声が多く上がっていました。「魔法的」ツアーの新曲はどれも粒ぞろいで本当に凄かったんですが、中でも「フクロウの声が聞こえる」と「流動体について」は1,2を争う人気だったんじゃないかと思います。
 ツアーの終幕から半年ちょっと経た今年2月22日に、小沢健二氏の19年ぶりのシングルがリリース。ここで「フクロウの声が聞こえる」が出るんじゃないかと期待していた人も多かったと思いますが、一発目は「流動体について」でした(いま考えると、このシングル『流動体について』のスペシャルサンクス欄にSEKAI NO OWARIの名前があったのが、今回のコラボの伏線になっていたわけですが……)。

流動体について

流動体について

 そして、さらに半年ほどの間を置いて、9月6日。満を持して「フクロウの声が聞こえる」がリリースとなりました。「魔法的」ツアーに行ったファンも行けなかったファンも、ずっとリリースを待ち望んでいた曲なのです。
 

シンプルで長くて力強い、魔法的&フジロックver

 ただ、今回のシングルに収録されている「フクロウの声が聞こえる」、実は「魔法的」ツアーで披露されたときと比べて、めちゃくちゃアレンジが違います。ちょっとしたバージョン違いとかそういう感じじゃなくて、もはや別の曲といってもいいくらい。メインの素材は同じでも、お茶漬けとパエリアくらい違う(?)。
 
 初披露の場となった昨年の「魔法的」ツアーと、今年7月のフジロックで披露されたバージョンは、バンドメンバーもアレンジもほぼ同じでした。メンバーに一十三十一さんやスカパラの面々が加わったことで、後者のほうがよりパワーアップしていた(小沢氏本人の言葉を借りるなら「ギアを一段上げ」た)印象。
 「魔法的」ツアーのライブレポートで僕が書いたこの曲の感想は、こんな内容でした。

 「晩ご飯の後 パパが」とか「クマさんを抱いて寝るから」とか、子育てを想起させるフレーズが多いです。この曲に限らず、今回の新曲の多くに通して言える特徴ですね。特に後者の「クマ」からは、母・小沢牧子さんのエッセイに書かれた「どんどん」のエピソードを連想しました(「どんどん」はゾウだけど)。
 歌詞は、父子の会話を描くイントロから、果てしなく大きなスケールの話にまで一気に駆け上がります。この、日常と宇宙と瞬間的に繋がる感じがとても小沢健二的だな、と思いました。

 
 シングル版との比較でいうと、アレンジはずっとシンプルで、だけどシンプルだからこそ力強い印象でした。
 それと、歌詞が一部カットされています。これはカップリング曲の「シナモン(都市と家庭)」も同様。元々は終盤に「凍えることなんてないから 寒かったら暖炉に火ともすから」というフレーズがありました。
 
 SEKAI NO OWARIと録音したシングル版はひとつの完成形だと思いますが、一方で、(「魔法的」ツアーの延長線上にある)フジロックのWHITE STAGEでのライブバージョンもまたひとつの完成形だと思うんです。なので、何らかのかたちでこちらのバージョンも今後聴きたいですね。聴けますよね……?

濃密で短くて口ずさみたくなる、シングルver

 で、今回の小沢健二とSEKAI NO OWARI名義によるシングル収録版。

フクロウの声が聞こえる(完全生産限定盤)

フクロウの声が聞こえる(完全生産限定盤)

 これまでにライブで「フクロウの声が聞こえる」を聴いていた人の大半はビックリしたと思います。
 もちろん一聴して「すごく良い!」と思った人もいるでしょうが、正直、個人的には「なんだこりゃ!」でした。そりゃそうです。お茶漬けのつもりで口に入れたらパエリアだったんだから。
 
 ただ、「こういうアレンジ」だとわかった上で2回目に聴いてみたら、意外にすんなり受け止められました。
 セカオワをほとんど聴いたことのない小沢ファンの目線だと、曲における聴き慣れない要素*2は基本的にセカオワ側の提案なんだろうな……と思い込んでしまうんですが、例の短篇映像でのやり取りを見るに、どうやらそういうわけでもない様子。むしろセカオワ側が「いや、ちょっとそれは……」となっても「やろうやろう!」と小沢氏が率先してどんどん大胆にアレンジしていったように見受けられます。
 スタッフクレジットを見ても、もちろん中心にいるのは小沢氏とセカオワの皆さんを合わせた5名なんだけど、服部隆之氏率いるフルオーケストラや、中村キタロー氏(ベース)、土方隆行氏(ギター)、木村誠氏(パーカッション)、白根佳尚氏(ドラム)と、意外に小沢氏の人選と思しきメンバーが多く参加されているのですね。
 それに、Nakajin氏が「ローズ(Rhodes?)にギターをぶっ刺したの初めてでしたよ」と言ってたり、DJ LOVE氏が初めてレコーディングでギターやMoog Theremini*3を演奏してたり、セカオワ的にも新境地開拓の部分がけっこうあったようで。
 
 だから、小沢ファンが聴いたら「セカオワ色の強いアレンジなのかな?」と思うように、もしかしたら、セカオワファンが聴いたら「あまりセカオワらしくないな」と思うのかもしれない。
 でも、それってすごくコラボの理想的な形ではないでしょうか。
 誰にでも想像がつくレベルで共演するよりも、絶対にお互いの単独作では出てこないような化学反応を起こしているほうが、コラボの醍醐味を感じます。
 
 そういえば、23年前に小沢健二とスチャダラパーが一緒につくった「今夜はブギー・バック」もそんなコラボだった気がします。両者の代表曲とされている「ブギーバック」ですが、あの曲に小沢健二らしさやスチャダラパーらしさがあるかというと、むしろ「らしくない」、異色作だったと思うんです。

小沢健二 featuring スチャダラパー - 今夜はブギー・バック(nice vocal)
 
 「フクロウの声が聞こえる」が今後どのように広がっていくのかわかりませんが、少なくとも、優れたコラボ曲特有の凄みがあるというか、突き抜けたアレンジになっていると思います。
 
 これは完全に個人的な感想ですが、今回の「フクロウの声が聞こえる」、何回リピートして聴いても全っ然イヤにならないんですよ。
 僕はどんなに好きな曲でも、同じ曲をリピートするのは苦手なんです。曲を消耗してしまう感じがするというか。
 でも、こと「フクロウの声が聞こえる」に関しては、どんなに繰り返し聴いても全然イケる。むしろ、聴き終えたあとに「もう1回!」とすぐおかわりが欲しくなる。
 「魔法的」ツアーのときはけっこう長尺の曲だった気がする(体感で6,7分くらい)んですが、今回は4分59秒。密度の濃すぎる編曲だけど聴き疲れしない尺、といったところが、この無限にリピートしてしまえる理由なんでしょうか。
 小沢氏がフジロックで「何十万回でも聴いてください!」ととんでもないことを仰ってましたが、たしかにこれは何十万回でもいけそう。
 

回予告

 ほんとうは、最初に紹介した短篇映像の細かい部分の話題*4や、例の「Uh, uh」のガイド、カップリング曲「シナモン(都市と家庭)」の説明なども用意したかったです――が、それをやるにはもうちょっと時間がかかりそうなので、ひとまず今回はここまで。
 できるだけ早めに、続きを書きたいと思います。

*1:この時点ではセカオワとの共作だと明かされていなかったですが

*2:具体的にはあのRPGのバトル曲のようなイントロとか、「Uh, uh」とか、「Saori!」とか

*3:テルミンを元にした楽器。ライナーには「Moog Theremini as premiered in Mahoteki 2016」とあるので、「魔法的」ツアーのステージでHALCAさんが使っていたものと同一?

*4:NYで5人が遊んだ場所とか、会話の中で明言されていなかった部分の補足とか