子育て中の夫婦が、離婚を思い悩む最大の理由の一つは養育費です。
養育費を貰う側、支払う側の双方にとって頭の痛い問題です。
- 養育費の相場は?
- 養育費を計算する方法は?
- 養育費の支払いはいつまで続く?
以上の疑問は、夫婦のどちらも共通して疑問に思うことだと思います。
それに加えて、支払う側であれば以下の疑問が頭に浮かぶでしょう。
- 養育費から逃れる方法はないのか?
- 再婚しても支払わなければいけないか?
一方で、養育費を請求する側であれば以下の疑問が頭に浮かぶでしょう。
- 養育費を確実に払わせる方法は?
- 相場より高い金額を請求する方法は?
- 養育費が支払われない場合の対策は?
本記事では、以上の疑問を全て解決できる情報を盛り込んでいます。
その結果、離婚を思い留まるのも良し、離婚準備を進めるのも自由です。
あなたと子供の将来を考える上で、ベストな答えにたどり着くことを祈っています!
目次 [表示]
離婚時の養育費で知っておくべき知識
本記事は以下のテーマに沿ってわかりやすく解説していきます。
- 養育費の実態
- 養育費と面会交流権の関係
- 養育費として認められる用途
- 養育費請求の権利者
- 養育費は誰に発生するか
- 養育費の相場
- 養育費を自動計算する方法【重要】
- 養育費をなるべく多く請求する方法
- 養育費の支払い期間
- 養育費の支払い方法
- 養育費から逃れる可能性
- 養育費を払わせる方法(公正証書)【重要】
- 離婚の養育費は再婚時にどうなる?
- 養育費を支払ってもらう工夫
- 養育費未払い時の対策
養育費支払いの実態(A)
養育費の支払いの実態を以下の順に紹介します。
- 養育費の相談相手
- 養育費の取り決め状況
- 養育費の取り決めをしない理由
- 養育費の受給率
- 養育費の取り決め方法
- 養育費の実態(まとめ)
厚生労働省が「全国母子世帯等調査」の結果を公表しています。
その結果を読み解けば、養育費の取り決めに関する注意点を深く理解することができます。
但し、調査の報告結果は多岐に渡りその分量も膨大です。
そのため、本記事では養育費に関する上記の要点だけを抜き出して解説します。
なお、調査報告の全てを閲覧したい方は厚生労働省の公式ホームページに移動してください。
養育費の相談相手(A-1)
上図は、養育費の主な相談相手を集計したものです。
母子家庭の場合は、以下の結果になりました。
- 誰かに相談した人は54.4%(①)
- 相談していない人は45.6%(②)
注目すべきは、親族に相談した43.9%(③)と同じぐらい、誰にも相談していない人(45.6% ②)が多いという事実です。
父子家庭の場合は、母子家庭よりも収入が安定していることが推測できるので、相談していない人が69.3%(④)いることも理解できないわけではありません。
もしかすると、あなたも誰にも養育費について相談しないまま離婚を決断しようとしているかもしれません。
養育費はお金に関わることなので、親・親族であっても相談しずらいことは想像がつきます。
また、養育費の取り決めによって子供の生活にしわ寄せがなければ、相談せずとも問題はないでしょう。
では、実際のところ離婚した夫婦は離婚についての取り決めをしているのでしょうか?
養育費の取り決め状況(A-2)
上図は、母子世帯を対象に、養育費の取り決めの有無を離婚の方法別に整理したものです。
日本では、協議離婚により離婚する夫婦がとても多いです。(上図①)
協議離婚とは夫婦の合意の元に離婚届を役所に提出して離婚を成立させることです。
一方で、調停離婚・審判離婚・裁判離婚とは、家庭裁判所による調停・裁判を経て離婚を成立させる方法です。
調停や裁判の期間が半年以内に終了する場合もあれば、1年~2年以上の長丁場になる場合もあります。
調停や裁判の負担が大きいことを考えれば、夫婦の話し合いで離婚を成立させる協議離婚の手軽さは魅力的です。
しかし、手軽に離婚が成立する協議離婚ならではの弊害もあります。
その弊害とは、離婚条件の話し合いが十分でないままに離婚してしまうという弊害です。
本来は、財産分与や慰謝料などについて話し合って離婚を成立させるべきなのに、離婚を成立させることを優先させるあまり、養育費の取り決めをおざなりにしてしまうのです。
その証拠に、協議離婚では養育費の取り決めをしている割合が30.1%と小さいのに対して、その他の離婚では74.8%と高い割合を記録しています。(上図②)
なぜその他の離婚では、養育費について取り決める割合が多いのでしょうか?
その理由は、家庭裁判所で離婚条件について話し合うことが一般的だからです。
特に子供がいる場合は、養育費について話し合うこと家庭裁判所が促す傾向があります。
なお、父子家庭の場合には養育費の取り決めをする割合は、離婚の方法に関わらず低い傾向にあります。(下図③)
これまでの調査結果を総括すると、以下の傾向ががわかります。
誰にも相談せずに協議離婚した結果、養育費の取り決めをしていない人が大多数
この結果を受けて、これから離婚準備をするあなた方は何に注意すればいいのでしょうか?
実はまだこの段階では、詳しいことは何もわかりません。
なぜならば、養育費の取り決めをしなかった理由がわからないからです。
よくよく考えれば、養育費の取り決めをした方が良いことは誰でも理解できると思います。
それにも関わらず、養育費の取り決めをしていないのは何故なのでしょうか?
養育費の支払いを受けなくても、十分豊かな生活をしていける家庭が多いとは思えません。
そこで次に、養育費の支払いを受けていない理由について見ていきます。
養育費の取り決めをしない理由(A-3)
上図は、母子世帯の母が養育費の取り決めをしない理由です。
- 相手に支払う意思や能力がないと思った(48.6% ①)
- 相手と関わりたくない(23.1% ②)
- 取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった(8.0%)
- 取り決めの交渉がわずらわしい(4.6%)
- 相手に養育費を請求できるとは思わなかった(3.1%)
- 現在交渉中又は今後交渉予定(1.0%)
- 自分の収入等で経済的に問題がない(2.1%)
- 子供を引き取った方が、養育費の負担をすると思っていた(1.5%)
- その他・不詳(7.9%)
相手に支払う意思や能力がないと思ったり、相手と関わりたくないという理由が全体の7割を超えることがわかります。
しかし、これは良く考えれば不思議な結果だと思います。
母子家庭で「自分の収入等で経済的に問題がない」と回答しているのは2.1%です。
つまり、自分の収入だけでは子供を育てるのは十分ではないと認識しているということです。
それにも関わらず、相手の支払う意思や能力、関わりたくないという理由で養育費を諦めています。
ここで沢山の疑問が湧いてきます。
- 子供の生活よりも父親の支払わない意思を尊重してよいのでしょうか?
- 父親の稼ぐ能力が低いからといって養育の義務から解放して良いのでしょうか?
- 父親と関わりたくないからといって子供の豊な生活を犠牲にして良いのでしょうか?
- 取り決めの交渉を諦めてまで早く離婚する必要性はあったのでしょうか?
- 取り決めは面倒です。でも、その分のお金を自力で稼ぐ方が面倒では?
以上の質問全てに対して、自信をもって回答できないのであれば養育費の交渉は行うべきだと考えます。
さて、これまでは母子家庭のケースをみてきましたが、父子世帯ではどうでしょうか?
- 相手に支払う意思や能力がないと思った(34.8%)
- 相手と関わりたくない(17.0%)
- 取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった(1.5%)
- 取り決めの交渉がわずらわしい(3.6%)
- 相手に養育費を請求できるとは思わなかった(4.8%)
- 現在交渉中又は今後交渉予定(-%)
- 自分の収入等で経済的に問題がない(21.5% ③)
- 子供を引き取った方が、養育費の負担をすると思っていた(8.5%)
- その他・不詳(8.1%)
男性の場合は、「自分の収入等で経済的に問題がない」と回答した割合が母子家庭よりも多いです。
しかし、念のため補足しておきますが、収入がある限り母親には養育費の支払い義務はあります。
母親から支払われる養育費は、もしかすると月々数万円かもしれません。
でも、給料が月々数万円上昇するのは大変だと感じる人は多いと思います。
養育費は夫婦で支払うべきだという意識は忘れないでおきましょう。
さて、養育費の取り決め状況、養育費の取り決めをしない理由をみてきました。
しかし、本当に大事なのは養育費の取り決め状況ではありません。
本当に大事なのは、実際に養育費が支払われているか?ということだと思います。
次に、養育費の受給率をみていきたいと思います。
養育費の受給率(A-4)
上図は、母子世帯の母の養育費の受給状況をまとめたものです。
この図で注目して頂きたいのは、上図の赤文字太枠点線部分です。(①、②、③)
まず注目すべきは、現在も養育費の支払いを受けているのは19.7%だという事実です。(①)
随分、少ない割合だと思いませんか?
更に驚くべきは、養育費の取り決めをしているにも関わらず、約半数が現在は養育費を受給していないという事実です。(②、③)
繰り返しますが、養育費の取り決めをしているのに養育費を受給していない人が半数いるのです。
なぜこのような事態に陥ってしまうのでしょうか?
次に、養育費の取り決めをしても養育費の支払いが滞る状況を読み解くカギを紹介します。
養育費の取り決め方法(A-5)
上図は、母子世帯の母の養育費の取り決め状況を表しています。
養育費の取り決めをしている母子世帯のうち、27.7%が文書なしと回答しています。(②)
つまり、口約束だけで養育費の支払いを約束したつもりになっている割合が3割弱存在しているということです。
口約束でも契約は成立しますが、父親が支払いを止めた場合は裁判で争う必要があります。
さらに、裁判の場では契約があったことを「あなたが」証明する必要があります。
しかし、口約束を録音しているわけでもなければ、養育費の取り決めをしたことを立証することは難しいでしょう。
つまり、養育費を口約束だけで取り決める場合には、養育費の支払いが滞ることを覚悟しなければいけないのです。
しかし、養育費の支払いが滞っていることを、口約束だけの責任にするわけにはいきません。
なぜでしょうか?
ここで思い出してほしいのですが、養育費の取り決めをしている母子世帯のうち、約半数が養育費を受給していません。
一方で、口約束で養育費を取り決めている人が3割弱です。
つまり、養育費の取り決めを文書で取り決めている人の中にも養育費を受給していない人が存在するのです。
なぜ、文書で養育費について取り決めたのに、養育費を受給しないという状況に陥るのでしょうか?
ここから先は、ハッキリとした統計結果がないので推測になりますが、「文書」にも様々な種類があるということです。
- メモ書き
- 離婚協議書
- 離婚協議書(公正証書)
- 調停調書 etc
実は、メモ書きや離婚協議書の場合には、養育費の未払いを回収するためには、裁判を起こす必要があります。
養育費を受給するために、裁判を起こすのは大きな負担になります。
一方で、離婚協議書(公正証書)であれば養育費の未払いを回収するために裁判を起こす必要はなく、強制執行することができます。
但し、離婚協議書を公正証書にする際に、強制執行に関する文言を入れないと強制執行できないので注意が必要です。
公正証書とは一体どのようなものか気になった方は多いと思います。
公正証書については、後ほど詳しく解説する予定です。
養育費の実態(まとめ)(A-6)
さて、養育費の実態について要点をまとめます。
- 養育費の相談を誰にもしない人が約半数
- 協議離婚では養育費の取り決めをしない傾向が強い
- 養育費の取り決めをしない理由の多くは夫婦の都合
- 養育費の受給率は約2割(母子家庭の場合)
- 離婚の取り決めをした場合でも受給率は約5割(母子家庭の場合)
- 養育費は口約束では受給しずらい
- 契約書があっても養育費を受給できていないケース有
つまり、養育費の支払いを求める場合には、以下の点に気を付ける必要があります。
- 養育費の支払いは親権の有無に関わらず夫婦の義務
- 養育費の支払い交渉は粘り強く行うべき
- 養育費の合意ができるまで離婚を急がない
- 養育費の取り決めは可能な限り公正証書にまとめる
さて、これまでは養育費の実態における最近の動向についてお伝えしました。
ここからは、もう少し最近の養育費の動向を解説していきます。
養育費と面会交流権の関係(B)
離婚問題を難しく感じてしまうのは、離婚問題の一つ一つが独立していないからです。
例えば養育費の場合は、面会交流権と密接な関係があることが知られています。
面会交流とは、子供が親権を持たない親と会う権利のことです。
日本では、母親が親権をもつ一方で、父親が養育費を支払わず、子供とも会わないケースが最も一般的です。
しかし、子供にとっては養育費の支払いがないことも、父親と面会しないことも理想的な状況とかけ離れています。
親権をもつ母親の立場からすれば、養育費も支払わないのに、可愛い子供に会うなんて不届きは許さないと感じるでしょう。
一方で、父親の立場からすれば、養育費を支払わなければ、子供に会わせてほしいと主張しずらいかもしれません。
国の立場からしても、貧困の母子家庭が増えることは、生活保護世帯が増えることを意味します。
社会保障を圧迫する状況を改善するための取り組みが始まりました。
国の取り組みの大前提として、民法第766条が改正され、平成24年4月1日から施行されました。
民法766条第1項を以下に引用しますが、赤文字の箇所に注目して下さい。
父母が協議の上離婚するときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
【民法766条第1項】
「父又は母と子との面会及びその他の交流」は、面会交流権といわれる部分です。
「子の監護に要する費用の分担」は、養育費についての記述です。
民法改正される以前は明文化されていなかった「面会交流権」と「養育費」が明文化されたことは大きな変化です。
しかし、民法が変わってもどうせ離婚夫婦の実態は変わらないでしょ?と疑問に感じる方もいるはずです。
実は、現状では面会交流と養育費について、どの程度改善する効果があったかわかりません。
しかし、具体的な取り組みも始まっています。
その具体的な取り組みの一つは、離婚届をみれば一目瞭然です。
上図は、離婚届の一部を抜粋したものです。
離婚届けには、面会交流権と養育費の分担について「取決めをしている」、「まだ決めていない」に当てはまるものにしるしをつけるように指示されます。
そして、注意書きには以下の文言が印字されています。
未成年の子がいる場合に父母が離婚をするときは、面会交流や養育費の分担など子の監護に必要な事項についても父母の協議で定めることとされています。
この場合には、子の利益を最も優先して考えなけえればならないこととされています。
【引用:離婚届】
「まだ決めていない」にチェックをつけても、離婚が認められないわけではありません。
しかし、未成年の子がいる場合には、面会交流と養育費を定めるべきというメッセージを離婚届から感じることができます。
そのため、養育費と面会交流権について話しあわなければいけないことに気付く人も一定数いると思います。
ここで思い出してほしいのは、養育費の取り決めをしない理由を調査した厚生労働省の調査結果です。
以下に母子家庭の調査結果を再掲しますが、赤文字部分に注目して下さい。
- 相手に支払う意思や能力がないと思った(48.6% ①)
- 相手と関わりたくない(23.1% ②)
- 取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった(8.0%)
- 取り決めの交渉がわずらわしい(4.6%)
- 相手に養育費を請求できるとは思わなかった(3.1%)
- 現在交渉中又は今後交渉予定(1.0%)
- 自分の収入等で経済的に問題がない(2.1%)
- 子供を引き取った方が、養育費の負担をすると思っていた(1.5%)
- その他・不詳(7.9%)
養育費について勘違いしている全体の4.6%の方達に注意喚起することが期待されます。
また、協議離婚の場合に養育費の取り決めをしていると回答した333(30.1%)(下図②の左側)がどれだけ増加するかも注目すべきです。
離婚する時に民法の条文を確認する人は少ないと思いますが、離婚届は必ず目を通すはずです。
本サイトの見解をいえば、離婚届けに記載されている以下の文言を以下のように太字で強調しても良いと思います。
「面会交流や養育費の分担など子の監護に必要な事項についても父母の協議で定めることとされています」
さらにいえば、太文字にするだけではなく、もっと直接的な表現にしても良いとすら思います。
例えば「父母の協議で養育費と面会交流を定めないことが、子供の貧困の原因の一つです」といった具合です。
さて、これまでは養育費についてあまりじっくりと説明されない近年の養育費のトレンドについて紹介してきました。
ここからは、養育費の現実的な話題について順に説明していきます。
養育費として認められる用途(C)
養育費のやり取りでトラブルになるのが、養育費の用途です。
「それって、養育費として支払わなければいけないの?」
このような不信感が支払う側にあると、気持ちよく養育費を支払えなくなります。
しかし、養育費の対象となる範囲はとても広いのが特徴です。
養育費の範囲は「子供が社会人として自立するまでに必要となるすべての費用」です。
具体的には、以下の項目が養育費の対象になります。
- 衣食住の経費
- 教育費
- 医療費
- 娯楽費
- 小遣い
- 交通費
養育費請求の権利者(D)
意外と盲点になっているのは、養育費を請求する権利は子供にあるということです。
そのため、もしも夫婦が離婚前に養育費を受け取らない約束としても、子供の請求権が失われるわけではありません。
ですから、親が養育費の請求を放棄したとしても、本来は子どもの権利であることを根拠に改めて請求することができます。
但し、一旦放棄したものを改めて請求することが認められるのは、「著しく大きな不利益が子供に生じている場合」です。
この著しく大きな不利益が何を指すのかということや、受け取っていない養育費をいつの分から請求できるのかの判断は、裁判所でも判断が別れるようです。
養育費は誰に発生するのか(E)
子供を養育する義務は、親権の有無に関わらず発生します。
つまり、離婚して別れた元専業主婦の妻であろうと、親権を奪われた夫であろうと子供を扶養する義務があるのです。
養育費の相場(F)
上図は、母子世帯・父子世帯の養育費を示した図です。
母子世帯の1世帯平均月額の養育費は、43,482円です。(上図①)
しかし、43,482円はあくまで平均です。
子供の人数が多くなればなるほど養育費の金額は大きくなります。
- 子供1人(35,438円)
- 子供2人(50,331円)
- 子供3人(54,357円)
- 子供4人(96,111円)
さて、以上が養育費の相場です。
しかし、ここまで説明しておいて恐縮なのですが、養育費の相場を知ること自体には意味はありません。
なぜならば、養育費は夫婦の収入格差を元に算出されるからです。
例えば年収1億円の夫が、離婚後に低所得者になった妻と子供に対して、月額4万円の養育費の支払うのは十分な義務をはたしていると思いますか?
そこで次に、養育費の計算方法を紹介していきます。
養育費を自動計算する方法(G)
養育費の算定は、子供の年齢・人数・支払う側の年収・受け取る側の年収に応じて決まります。
巷では、算定表なるものを利用するのが一般的です。
しかし、インターネット上で必要な数値を入力すると自動算定してくれる計算機を公開している方がいますので、そちらを参考にしてください。
但し、支払う側の年収が2,000万円を超えていたり、再婚相手との子供がいる場合には、こちらの計算機を利用してください。
なお、計算機を利用する際に、「年収」の金額にどの数字を入れて良いか自信がない方もいると思いますので補足しておきます。
「年収」の値を入力する際に、月給手取り×12の金額を概算で入力するのは正しくありません。
年収には、税金を引かれる前の金額を入力しましょう。
手元に源泉徴収票があれば「支払い金額」が年収に相当します。(以下画像の赤枠部分)
なお、自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」が年収に相当します。
さらに、いつ時点の年収を適用すればいいのかと言う点についても補足しておきます。
養育費の算定において、いつ時点の年収を適用するか明確な決まりはないようです。
しかし、年収が確定している昨年度の年収を用いることが多いようです。
サラリーマンであれば、昨年度に比べて年収が劇的に上昇する可能性は少ないので昨年度の年収でも問題ないでしょう。
しかし、昇進などにより年収の大幅な上昇が見込める場合には、いつ時点の年収を適用するか交渉することになると思います。
なお、仮に低い年収を元に養育費を算定した結果で合意したとしても、将来的には増額した年収ベースの養育費を請求される可能性が高いです。
なぜならば、養育費算定時の前提事項の変更に応じて養育費の請求額には変更が認められるからです。
逆にいえば、年収が下がれば一度決めた養育費の金額を減少させることも認められています。
支払いが長期間におよぶ養育費においては、養育費の金額は変動することは往々にしてあります。
なお、養育費の金額が変動するケースについては後ほど説明します。
養育費をなるべく多く請求する方法(H)
養育費の金額について最も重要であろう事柄を説明します。
それは、上記で説明した養育費の金額はあくまで目安だということです。
つまり、養育費の算定表に従わなくても、お互いの合意さえあれば、算定表の結果より少なくても多くても問題ありません。
但し、養育費の算定表から大幅に逸脱した養育費の取り決めは、協議離婚でのみ成立するのが一般的です。
離婚調停や離婚裁判では、算定表から大幅に逸脱した養育費の取り決めがされることはまずありません。
なぜならば、養育費の算定表はよくできているからです。
つまり、算定表より高い養育費であれば、支払う側は生活が厳しくなります。
また、算定表よりも低い養育費であれば、受給する側の生活が厳しくなります。
養育費は、長期間にわたりやり取りが発生するものですから、どちらか一方に無理があると続きません。
そのため、算定表から大きく逸脱した金額で養育費が決定しそうな時には支払う側・受給する側ともに注意すべきです。
養育費の支払い期間(I)
支払い期間は、お互いの取り決めで決めることができます。
養育費の算定表に従わなくても、お互いの合意さえあれば、算定表の結果より少なくても多くても問題ありません。
子供がいる状態で離婚した夫婦のパターンとしては、以下の3パターンが多いようです。
- 20歳の誕生日まで
- 成人式を迎えるまで
- 大学卒業の22歳まで
養育費の支払い方法(J)
支払い方法についても、決めておきましょう。
養育費は、定期金として負担するのが一般的です。
ですから、毎月の○○日までのように具体的に取り決めるのが良いです。
しかし、負担する側の同意があれば、一時金として請求しても構いません。
養育費から逃れる可能性(K)
ここからは、「養育費の支払いから逃れることは可能か?」という問題を考えてみます。
もしあなたが支払う側であれば、文面通りの意味で読み進めてください。
一方で、もしあなたが受給する側の立場であれば、養育費の支払いから逃れられる可能性はあるかという視点で記事を読み進めて下さい。
結論からいうと、養育費の支払い能力があるにも関わらず養育費の支払いを逃れるのは難しいです。
なぜならば、唯一養育費の支払いを逃れる方法として以下3つの方法がありますが、いずれも現実的ではないからです。
- 財産を隠す
- 収入を隠す
- 行方を隠す
財産を隠す(K-1)
財産を堂々と隠せるのであれば、自己責任で対応してください。
しかし、財産を隠すのは、お勧めしません。
なぜならば「隠した財産は結局使えない」からです。
養育費の支払いを逃れることと天秤にかけた時に、メリットがある解決策とはいえないでしょう。
収入を隠す(K-2)
現実的な方法は、「収入を隠す」ということでしょう。
一番簡単な方法は、勤め先を隠すのが手っ取り早い方法です。
しかし、共通の知人もいるでしょうし、転職先を隠し続けるのは難しいと思います。
但し、もしも自営業や法人オーナーであれば、わざと収入を抑えることにより、養育費を抑えることができるでしょう。
「そこまでするか?」と思う方もいらっしゃると思います。はい、いるのです。
もしも悪意のある収入隠しの手段に出られた場合には、経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
但し、弁護士への相談料や調査費用と比べて、実のある成果があるかは事前に良く考える必要があります。
行方を隠す(K-3)
もっともハードルが高いのは、行方を隠すという方法でしょう。
養育費を請求しようにも、相手がどこにいるかわからなければ、請求しようがありません。
以上説明した通り、養育費の支払いから逃げる行為は「ここまでするのか?」というぐらい手間がかかります。
そして、行方をくらましてまで養育費の支払いから逃げるのであれば、一生涯にわたり親子の関係性を絶つ覚悟が必要でしょう。
養育費を払わせる方法(公正証書)(L)
養育費を支払わせる最も確実な方法は、離婚協議書を強制執行認諾約款付の公正証書に残すことです。
公正証書があれば、養育費未払い時には、財産や給料の差し押さえを強制的に行うことが可能です。
一方で、公正証書を作成していなければ、裁判所で申し立ての手続きをする必要があります。
離婚後に仕事に都合をつけて裁判所に向かうのは、かなりの負担になるはずです。
弁護士に代理を依頼すると、それなりの費用も必要です。
そのため、養育費の取り決めは可能な限り公正証書を作成しておきましょう。
なお、公正証書作成時には養育費のみならず、面会交流権や財産分与、慰謝料などについて取り決めるのが一般的です。
離婚条件全般について、公正証書で取り決める方法については、以下の記事を参照してください。
さて、これまで説明した内容は「離婚前」に必要な情報です。
ここから先で説明する情報は、離婚準備においては必要な情報ではありませんので、時間に余裕がある方のみご覧ください。
また、養育費について強く興味をもたれたあなたは、離婚時のお金のことには興味があるはずです。
ちなみに、離婚時のお金のやり取りで最も高額になるのは、財産分与です。
以下の記事では財産分与の考え方について、本記事と同様に詳しく解説しています。
また、財産分与の中でも最も高額になり、離婚後の生活に大きな影響を与えるのは「不動産」です。
もしあなたがマイホームを所有し住宅ローンを支払い続けているのであれば要注意です。
思わぬ離婚トラブルに巻き込まれないためにも、以下の記事は必ず目を通してください。
離婚の養育費は再婚時にどうなる?(M)
公正証書は、常に万能というわけではありません。
養育費は基本的に元夫婦で協力して賄うものです。
そのため、経済的状況の変化により養育費は変動します。
例えば、以下のケースでは養育費の受取額が減少します。
- 支払う側の収入が減額
- 支払う側が転職を繰り返し、職場がわからない
- 支払う側が再婚して子供が生まれた
- 受け取る側が再婚して世帯収入が上がった
一方、養育費の増額を求めることが可能なケースもあります。
- 子供の進学先に応じた教育費の増加
- 養育している親の失業や転職による収入の減少
- 病気や怪我による医療費の大幅増加
養育費を支払ってもらう工夫(N)
養育費を支払ってもらえる可能性を高める工夫について知っておきましょう。
実は、子供と養育費を支払う側の交流頻度が高いほど養育費がスムーズに支払われているという事実があります。
ですから、以下の点を注意しましょう。
- 子供の前で夫を褒める。感謝の気持ちを伝える
- 子供から父に「いつも養育費ありがとう」と伝える
- 支払う側の両親に払ってもらう(支払う義務は無し)
つまり、養育費を支払う側の「報われている感」を積極的に醸成していく必要があるのです。
養育費未払い時の対策(O)
ここからは、養育費が支払われない場合の対応について紹介してきます。
養育費が支払われない場合には、以下のようなプロセスを踏むことなります。
- 話し合い
- 内容証明による催促
- 公正役場での手続き(STEP③-1)
- 家庭裁判所での手続き(STEP③-2)
- 地方裁判所
話し合い(O-1)
養育費が支払われない場合の基本は、「話し合い」です。
お金を催促するのは、請求する側としても嫌な気持ちになるかもしれませんが、話し合いですまなかった場合の方が、よっぽど面倒なことになります。
全身全霊をかけて養育費の支払いをお願いしましょう。そして、なぜ養育費を支払わないのかを見極めましょう。
お金があるのに支払わないのだとすれば、この先のSTEPに進む価値があるのですが、
もし、相手が本当にお金を持っていないのであれば催促しても意味がありません。
なぜならば、裁判所も借金してまで養育費を支払えとは命令しないからです。
また、離婚の原因がDVの場合は、相手と直接会ってはいけません。代理人となる弁護士を雇うことをおすすめします。
内容証明による催促(O-2)
もしも、お金があるにも関わらず養育費の支払いを渋っていると判断できる場合には、「内容証明郵便による催促」を実行しましょう。
内容証明郵便とは、「いつ誰に」、「どんな内容の手紙を出したのか」を郵便局が証明してくれるものです。
内容証明郵便による催促事態には、法的拘束力はありません。
しかし、内容証明郵便を利用すれば、「出した」、「受け取ってない」と揉める必要が一切なくなります。
内容証明郵便という見慣れない郵便物が届くことで、話し合いに応じるケースも多いようです。
公正役場での手続き(O-3)
話し合いによる手続きや、内容証明郵便による催促に失敗してしまった場合には、2つの手立てがあります。
もしも、離婚時に養育費についての取り決めを、「強制執行認諾約款付の公正証書」にしていた場合には、地方裁判所による強制執行で差し押さえを実行することが可能です。
家庭裁判所での手続き(O-4)
もしも、公正証書を作成しておらず、離婚時に調停で養育費の約束を定めていない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てるところから始める必要があります。
まずは、調停により養育費について正式に取り決める必要があるのです。
そして、その約束が破られたことを確認してから、支払いを勧告したり(履行勧告)、命令する(履行命令)ことになります。
履行勧告とは
履行勧告とは、家庭裁判所が支払い状況を調査し、相手に支払うように助言・指導・勧告することです。
但し、法的な強制力はありませんので、相手が従わなければ効果はありません。しかし、裁判所から勧告がくれば、一般人は強いプレッシャーを感じるでしょう。
つまり、履行勧告自体の強制力に期待するよりは、履行勧告に従わなかったら次のステージ(履行命令、強制執行)に発展するかもしれないとプレッシャーをかける意味合いが大きいです。
そのため、支払い能力があるのであれば、この時点で養育費を支払ってくれる可能性が高いと思います。
なお、履行勧告に必要な費用は0円です。
履行命令とは
履行命令とは、養育費の支払い期限を家庭裁判所で設定した上で、相手に支払いを命令するものです。
もしも、命令に違反すれば最高10万円の制裁金(罰金)を支払わせることができるのですが、養育費自体を支払わせる法的な強制力はありません。
履行勧告・履行命令の違い(参考)
ここで、履行勧告・履行命令の違いを整理しておきます。
比較点 | 履行勧告 | 履行命令 |
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制度内容 |
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条件 |
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手数料 |
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効力 |
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地方裁判所(O-5)
履行勧告・履行命令でも養育費が支払われない場合には、地方裁判所による強制執行で取り立てます。
この時点で、債務名義と呼ばれる強制力のある約束が記載された文書があることが必要です。
債務名義の例としては、「強制執行認諾文言付きの公正証書」、「調停調書」、「判決書」、「和解調書」などがあります。
これまでに紹介したプロセスを踏んだ方であれば、以上の書類を用意できていると思いますので安心して下さい。
具体的な手続きとしては、これらの債務名義を根拠にして、「強制執行の申し立て」を地方裁判所に行うと、地方裁判所は「強制執行(差し押さえ)の実行」を行います。
強制執行の内容
強制執行で差し押さえることの出来る財産は以下の通りです。
- 給与・退職金(手取り額の2分の1まで)
- 預金口座
- 家具
- 車
- 不動産
- 自営業者の売掛金
将来分の養育費についても差し押さえ可能な点には、注目すべきでしょう。
強制執行の注意点
これまで見てきた様に、強制執行まで活用すれば本来支払い能力がある相手に対して、養育費の支払いを求めることは「ほぼ」可能でしょう。
なぜ、100%支払いを受けることが可能ではなく、「ほぼ」なのかを説明したいと思います。
知っておくべき強制執行の注意点は2点です。
- 相手が財産を全て申告するとは限らない
- 財産開示制度を利用できない場合がある
相手が財産を全て申告するとは限らない(注意点①)
そもそも、強制執行は相手に財産があることを前提にしています。
しかし、財産開示請求により、相手が正直に全ての財産を報告する保証はどこにもありません。
もしも相手が正直に財産を申告しなかった場合には、取れる保証がありません。
但し、サラリーマンであれば、勤め先が判明していることも多いですし、銀行口座情報(銀行名・支店名)を知っていることも多いでしょうから、通常は問題にないでしょう。
財産開示制度を利用できない場合がある(注意点②)
もしも、相手が財産を公表しない場合には、地方裁判所に申し立てて「財産開示制度」を利用します。
しかし、ここに落とし穴があります。
それは、債務名義が公正証書の場合は、財産開示制度を利用することができないという点です。
養育費の支払いを逃れるために、相手が転職したり、銀行口座を新規で作成することだって十分に考えられます。
そのような相手に対して、財産開示制度を利用できないのであれば、相手の財産の所在や状況を自分で調べなければいけないということです。
以上のような場合には、相手は養育費の支払い逃れを故意に行っている可能性が高いといえましょう。
ここまで養育費の支払い問題が複雑化してしまった場合には、弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
強制執行は自力で手続き可能か?
強制執行は、申立書1通でできるものではないので、弁護士に依頼するのが一般的です。
しかし、どうしても自分でしたいという方は出来ないわけではありません。その場合には、東京地方裁判所の民事執行センターが書式を用意しているので、そちらを参照してください。
まとめ
今回は、養育費の相場や計算方法、養育費取り決め時の注意点などを紹介しました。
離婚する際に話し合っておくべきお金は他にも、「財産分与」、「慰謝料」、「婚姻費用(別居中の生活費)」などがあります。
これらの中でも、すべての夫婦で必ず議論する必要があるのは「財産分与」ですから是非とも以下の記事を確認してください。