公庫の融資姿勢
日本政策金融公庫(以下、公庫と呼ぶ)は、100%日本政府が全額出資する金融機関です。名だたるメガ大家さんたちも、不動産投資をスタートしたばかりの頃は、この公庫を活用した方も多いです。我が家でも、私名義と妻名義で融資をしてもらっています。
自営業者や主婦など、属性がそこまで良くなくても融資してくれることから、これから賃貸業を始めたい人には、うってつけの金融機関と言えます。不動産賃貸業にも積極的に融資をしており、築古ボロ物件にも15年〜20年・固定金利で1〜2%とけっして悪くない条件で融資をしてくれていました。
しかしながら、2017年4月以降、公庫の融資基準のハードルが上がりました。
期間は10年(長くても15年まで)、金利も2%前後に上がっています。以前から取り引きがあり、確定申告を2期終えていれば15年前後でも検討してくれますが、はじめて取引する人で賃貸業の実績がない人には、10年前後と厳しい条件になっています。
これは金融庁が不動産向け融資を絞るよう警鐘を鳴していることから、政府直轄の公庫融資にも影響が出るのは、自然な成り行きと言えます。木造のボロ物件で、キャッシュフロー(手残り)をひねり出す戦略の投資家にとっては、若干使いにくくなりました。
公庫の融資基準
公庫のHP内に掲載されている「基本理念」には以下のように書かれています。
「国の政策の下、民間金融機関の補完を旨としつつ、社会のニーズに対応して、種々の手法により、政策金融を機動的に実施する」
基本は、民業圧迫につながるような融資はしません。つまり都銀・地銀・信金など他の金融機関で借り入れている融資を、公庫で借り換えするというような融資は絶対に実行してくれません。
私がヒアリングしたかぎりでは、公庫の審査基準は主に以下の2点です。
- 購入物件で収支が回るかどうか
- 自己資金の有無
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購入物件の収支が回るかどうか
木造など耐用年数超えの物件にも積極的に融資付けをしてくれます。しかし融資期間が10年〜最大でも15年前後という前提で考えると、キャッシュフローがそこまで大きく取れるわけではありません。
しかしながら、融資期間が短縮されるということは、返済が早く終わるということです。土地値物件を購入して、10年間を稼働率高く経営できれば、出口において売却益が期待できます。短い融資期間をプラスと捉えるのかマイナスと捉えるかで、取るべき戦略が変わってきます。
公庫での融資審査の一番のポイントは、10年〜15年でも返済比率が極端に上がりすぎず、収支が回るかどうかです。ここを公庫の担当者は重点的に審査・評価してきます。おのずと高利回りの物件を探してこなくてはいけないということです。
自己資金の有無
このように融資期間が短縮されつつある公庫を如何に不動産投資で活用できるのかが、今回のテーマです。特に、投資初心者が公庫活用で、キャッシュフローをどのように出すのかが焦点になります。
その鍵は、やはり自己資金の有無が大きいと言えます。所有期間中のキャッシュフローを出すのであれば、ある程度の手元キャッシュの投入は必要になってくるということです。300万円の物件なら100万は自己資金、500万円の物件なら150万円は自己資金など、手元現金を温存しておくことが必要になります。
公庫には無担保枠が2000万円程度ありますが、抵当権を切れず無担保で購入したい人には、自己資金の投入は必須になります。私が行った電話ヒアリングでも「700万とか1000万円などある程度大きな借り入れであれば、担保入れは必要になります」とおっしゃっていました(ここは支店や担当者により変わるかもしれません)
自己資金を2割〜3割投入することで、キャッシュフローは格段に出やすくなります。それにより物件を無担保で購入できれば、次の物件を買う時に共同担保として差し入れることができます。預貯金の温存というのは、そういう意味でも大切になってきます。
新設法人への融資
今回、私が電話でヒアリングしたのは、公庫を活用した新設法人への融資基準についてです。まず新設法人への融資審査の中では、すでに個人で不動産賃貸業を営んでいる場合は、個人を関連会社として評価対象とします。法人の実績がない状態なので、これは当たり前と言えば、当たり前ですね。
また35未満の若者・女性や、55歳上のシニアの方には、「女性、若者/シニア起業家支援資金(新企業育成貸付)」という制度があります。これは新設法人への融資においても、代表者がこの基準に合致していれば、適用可能とのことでした。
(公庫HPより抜粋)
そして新設法人への融資審査においても個人と同様の審査を行います。つまり「物件収支が回るか」「自己資金の有無」「個人所有物件の経営状況」の3点です。
これから法人を活用して、公庫を活用する戦略を検討している人は、自己資金を投入して所有期間中のキャッシュフローを確保することが第一です。そして短期返済で債務超過にならないよう法人経営をハンドリングし、共同担保を増やしていくような戦略がいいのではないでしょうか。
共同担保が増えて、自己資金も貯まっていけば、次は鉄骨造やRCなどより大型の物件購入に進める可能性も出てきます。これらは地銀・信金・ノンバンクあたりを活用していきます。融資基準が厳しくなってきた公庫ですが、虎視眈々と公庫をうまく活用した経営をしつつ法人実績を積んでいくことが、今求められているのだと思います。