右の人は華奢
今年の忘年会シーズンには、あちこちの場所で、若手男性社員によるwithBが繰り広げられると思うといたたまれない。ネクタイを緩め、Yシャツのボタンを外して上半身裸になるという手軽さが、忘年会の風土と合致してしまう。高畑充希にしろ、芦田愛菜にしろ、ブルゾンちえみの真似は極めてインスタントに行われているし、たとえば自分がよく知る会社のいくつかを想像してみても、あのポジションを担いそうな女性は確実にいる。「まさか○○先輩がブルゾンを! ウケる!」という盛り上がりに溢れるのだろうが、実はブルゾン役はさほどのリスクを背負っていない。髪をかきあげて表情をそれっぽくして体をクネクネさせるだけだ。むしろ、リスクは具体的に脱がされるwithB役にあるのではないか。
withBといえば「筋肉質なイケメン2人」というイメージだろうが、人間のイメージというものはなかなか適当なもので、こちらから見て右の黒髪の杉浦大毅(以下、「右の人」で統一)の体つきはなかなか華奢である。私たちは、文字を左から読む習性のままに、画面の左を先んじて見るくせを持つから、金髪で筋肉質の徳田浩至(以下、「左の人」で統一)に目がいく。無論、その前にセンターに立つブルゾンに目がいっているので、右の人には目がすぐには行き着かない。「ブルゾン→左の人→右の人」との順序で把握されるから、右の人は直視よりもイメージで把握される。一番普通なのに彼に異物感が残るのはそのポジションゆえなのだ。
左の人の「将来の夢」は「有名人」
そもそもwithBが2人とも左の人みたいだったら、さすがに存在感が出すぎてしまい、「ブルゾンちえみwithB」より「ブルゾンちえみ&B」が似合うようなトリオ感すら出てしまっただろうし、2人とも右の人みたいだったら、男2人を余裕で飼い馴らすブルゾンという設定は弱まったはず。左の人は、法政大学時代にアメリカンフットボール部の主将を務め、全日本大学選手権決勝の甲子園ボウルに出場したほどの実力の持ち主。小学校の卒業文集の「将来の夢」欄に「有名人」と書いた左の人は、甲子園ボウルで味わった大歓声を再び浴びるためにお笑い芸人の道を志したのだという。シンプルな野心だが、そのシンプルな野心は、「自由に喋ってはいけない」というwithBの前提で抑制されている。
最近ではブルゾン抜きの状況で笑いをとることも増えてきたが、主体的に笑いをゲットした時、左の人は本当に満足げな表情を浮かべている。右の人はそうでもない。ブルゾンちえみwithB自体、なかなか急造のグループで、ネタに格段のオリジナリティがあるわけではない。ここ数年流行ってきた要素をいくつも盛り込んでみた強引さを払拭できてはいない。ドラマに出演し、24時間マラソンを走り、数多のCMに出演と、とても早いスピードで諸々をやり遂げた感のあるブルゾンちえみだが、今後はwithBそれぞれのキャラの取り扱いがポイントになってくるのだろう。元から野心のある左の人を発散させるのか、いじられ尽くすことでキャラが開花したEvery Little Thingのギタリスト・伊藤一朗のように、右の人の個性の掘り起こしに移行していくのか、判断を迫られている。
背中の文字の書体や太さを統一したほうがいい
彼らの背中に書かれる文字の書体、その不徹底が気になる。ネタのオチとして使われる、withBの背中に書かれた文字は普段ブルゾン自身が書いているそうなのだが、5月に放送された『金曜ロンドンハーツ』でのwithBに対するドッキリでは、忙しすぎるブルゾンに書く時間がないという設定だった。致し方なく自分たちで「35」「億」と書くものの、本番でブルゾンが始めたのは別のネタで困ってしまう……というドッキリ。終了後、ブルゾンのせいにはせず、「忙しいちえみさんに甘えていたところもあった」などと語る姿が絶賛された。
背中の文字を常にブルゾンが書いているという設定は、「男2人を余裕で飼い馴らすブルゾン」を徹底するのに有用だ。ならば、とにかく、背中に書かれる文字の書体や太さを統一したほうがいいと思う。基本的には書道で習ったような楷書体で書かれているが、例えば左の人が受けたインタビュー記事の写真、その背中に記されている「感謝」の文字は、いつもと明らかに書体が違っていた。「感」という漢字の下にある「心」の2画目のハネがない。これは、いつもの「35億」にある「心」とは違う。これはいけない。withBはいつもブルゾンの管理下にあるという設定を徹底すべきだ。
withBをやらされるリスクを秋のうちに
24時間テレビのマラソンでゴールしたブルゾンを出迎える2人の体に書かれた文字が、日頃、ブルゾンが書いているとされている書体のままだったらどうしようとヒヤヒヤしていたのだが、いつもとは異なるゴシック体に近い書体で一安心。急造のグループだからこその齟齬が生じる前に、ディテールを徹底したほうがいいように思える。右の人がTwitterのプロフィール欄に「書道・毛筆3段、硬筆4段」と入れているが、これも外した方がいい。
いずれにせよ、カギを握るのは、左の人が元来持っている目立ちたがり精神よりも、右の人である。でも、彼が根っからのお坊ちゃんで美容マニア、なんて情報も既に繰り返し放たれているから、どうやって持続していくのだろうとの興味は湧く。ブルゾンちえみwithBは過渡期にある。忘年会でwithBをやらされないために、昼食で一緒になってしまった上司との会話に彼らの存在を持ち出し、今、彼らが過渡期にある、と熱弁し、そう簡単に取り扱える存在ではないと伝えておくのはどうか。忘年会でブルゾンちえみをやりそうな人は、おおよそ平野ノラでも大丈夫だと思う。withBをやらされるリスクを秋のうちに摘み取っておきたい。
(イラスト:ハセガワシオリ)
メディア分析ラボ 第9回「ワイドショーと芸人」
日時:2017年9月8日(金)19:30~21:00 (開場19:00)
パネリスト:中沢明子、武田砂鉄
会場:Sansan株式会社セミナールーム
アクセス:東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル13F
参加費:1,000円(税込) ※領収書の発行はありません
定員:30名程度
http://mediabunsekilabo09.peatix.com/
鈴木邦男✕武田砂鉄『言論の覚悟 脱右翼篇』発売記念トーク&サイン会
日時:2017年9月20日(水)19:00~20:30(開場18:30)
出演:鈴木邦男、武田砂鉄
会場:東京堂ホール(神保町、東京堂書店6階)
入場料:1000円
予約は下記フォームより
http://www.tokyodo-web.co.jp/hall/
文月悠光×武田砂鉄「生き延びるための言葉教室」
日時:2017年10月6日(金)19:00~21:00
出演:文月悠光、武田砂鉄
会場:NHK文化センター青山教室
受講料:会員3369円、一般4050円
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1133379.html