田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
経済を安定化させ、雇用や生活の水準を改善していく役目を、政府と日本銀行は担っている。いまの日銀は、経済の安定化を、物価安定目標(インフレ目標)を対前年比2%の水準を達成することで果たそうと考えている。なぜならば、日本経済の長期停滞は、物価下落(デフレ)の継続にその真因があると、政府と日銀は考えているからだ。政府はそれを財政政策で支えるのが通常の政策のあり方だ。
ただし、物価安定目標が導入されてから4年以上経過したが、いまだに物価水準は0%近くの低位置のままだ。その原因は、主に2014年4月導入の消費増税による消費低迷が現在も持続していることにある。これは先ほどの政府の財政政策の責務を果たすことに失敗したともいえる。もちろん消費増税はそれから2回連続して延期され、その政治的成果は評価すべきだ。だが、残念ながら財政政策の規模は、第2次安倍政権初年度にあたる2013年度を除けば、一貫して緊縮財政的なものである。他方で金融緩和政策は積極的なスタンスを崩さず、それが雇用などを中心に経済状況の改善に貢献していることは明瞭である。つまり財政政策のスタンスを緊縮型から拡大型に転換すれば、日本経済の状況はよりよくなる。
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また、2015年から本格化してきた新興国経済の不安定化、ギリシャ危機、イギリスの欧州連合(EU)離脱ショック、なによりもアメリカの金融政策が不透明化したことも大きい。今年に入り、世界経済の撹乱(かくらん)は一息ついていたが、最近の北朝鮮の核・ミサイル問題によって一気に不透明感を増している。
先月末の日本の領土上空を通過した北朝鮮のミサイル発射、そしてその後の核実験で、日本の株価は下落、そして為替レートは円高に振れた。円高は、企業の収益構造をふたつの経路から悪化させる。ひとつは、輸出にとって不利に作用する。また企業のバランスシートをみると資産にある外貨建て資産の価値を低下させ、他方で負債側にある円資産の価値を上昇させる。そのため企業のバランスシートが悪化して、設備投資や働く人たちへの報酬に悪影響を及ぼす。株価の低下ももちろん企業の資産価値を低下させることで同じ影響を及ぼすだろう。
ただし、前回の連載でも書いたが、現時点ではまだ「北朝鮮リスク」が日本経済に破滅的な影響を及ぼすほどではない。現時点で株式、為替など資産市場の不安定化は、ある程度は予想の範囲内でもあり、しばらくすればリスク発生前の水準に戻る可能性が大きい。ただしこれはあくまで楽観的な予測であり、実際には「北朝鮮リスク」がどうなるか、中長期的にみていく必要がある。
この原稿を書いている段階でも、韓国国防省は北朝鮮がさらなるミサイル発射を準備していると、韓国の国会で報告している。実際にミサイル発射が繰り返され、半島情勢が危機感を深めていけば、「北朝鮮リスク」による経済危機の可能性も高まっていく。