政府は「残業代ゼロ法案」と「時間外労働の上限規制」を一本化する方針
2015年4月に国会に提出された労働基準法改正案(いわゆる「残業代ゼロ法案」)について、政府は時間外労働時間の上限規制に関する労働基準法改正案と一本化して秋の臨時国会に提出する意向を示している。
2015年法案には、労働基準法における労働時間規制の対象からはずした(「適用除外」の)働き方を新たに生み出す「高度プロフェッショナル制度の創設」と、実際の労働時間にかかわらず一定の時間働いたものと「みなす」働き方である「裁量労働制の拡大」が含まれており、労働団体や野党などが長時間労働につながるなどとして強く反対しているが、これを「働き方改革」における「長時間労働の是正」に向けた「時間外労働の上限規制」の法案と一本化することにより、成立をねらっているものだ(「高度プロフェッショナル制度」と「裁量労働制」の解説、および政府による一本化の方針については下記を参照)。
●残業代ゼロ法案と時間外労働の上限規制、“混乱が生じないよう”一本化するとの言い訳は私達を愚弄するもの(上西充子) - Y!ニュース(2017年8月5日)
労働政策審議会の労働条件分科会で、労働者代表委員は一本化に反対を表明
この労働基準法改正案の一本化に向けて、公労使三者構成による労働政策審議会の労働条件分科会が高頻度に開催されている。
8月30日の第138回分科会では厚生労働省より、2015年の労働基準法改正法案と、時間外労働の上限規制の法案とを一本化した労働基準法改正案として国会に提出したい意向が示された。労働者代表委員は、高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大、さらに法案の一本化に対して、反対の意見を表明した。
●労働政策審議会労働条件分科会にて、労働基準法改正法案の議論がスタート! ~分科会終了後に報告集会を開催~ (「連合ニュース」2017年08月30日)
続く9月4日の第139回分科会においても、労働者代表委員は、高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大、さらに法案の一本化に対して、反対の意見を表明。他方で使用者代表委員は高度プロフェッショナル制度の導入と裁量労働制の拡大、法案の一本化に賛成の意見を表明。労使の意見は平行線をたどった。
しかしこの4日の分科会の終了予定時間になって荒木尚志分科会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)がまとめを行い、次回9月8日の分科会に、一本化した労働基準法改正の法案要綱を示すことを事務局(厚生労働省)に求めた。
「一本化で一致」と伝えられたが・・・
この4日の分科会について、時事ドットコムニュースは「法案一本化で一致」と伝えた。
●法案一本化で一致=「残業代ゼロ」と上限規制-労政審(時事ドットコムニュース2017年9月4日)
労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会は4日、労働基準法の改正案で「働き方改革」の柱である残業時間の上限規制と、高収入の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」導入などを一本化することで一致した。
しかし上記の2本の連合ニュースが伝えるように、労働者代表委員は一本化を了承してはいないし、高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大についても同意していない。一本化した法律案要綱の次回提出を荒木分科会長が事務局に求め、労働者代表・使用者代表のいずれに対しても、それに対して意見を求めないまま分科会が閉じられた、というのが実際だ。
筆者はこの4日の分科会を傍聴したが、荒木分科会長のまとめ方には強い疑問を抱いた。その点について、以下に述べておきたい。
荒木分科会長の「まとめ」発言
筆者の傍聴メモによれば、分科会終了間際における荒木分科会長の発言は、次のようなものであった。太字は筆者が疑問を持った点であり、順に説明したい。
(注)下記の傍聴メモは、その場で聞き取ってパソコンに打ち込んだ範囲のものであるため、不正確な点を含むことや欠落があることはあらかじめご了承いただきたい。いずれ正式な議事録がこちらに公開される予定だが、次回の8日の分科会までには公開されないだろう。
●荒木分科会長
まとめたい。継続審議中の労基法改正案は、当分科会の報告・建議をもとにしている。2015年に諮問している要綱について、裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度については反対意見が付されていたが、(1)法案全体としては公労使一致して妥当という意見が出されている。この点については改めて確認しておきたい。(2)当時意見が一致しなかった時間外労働の上限規制とインターバルについては、本年、道筋がつけられた。
(3)(2015年と2017年の)2つの建議の内容は全体として、健康確保して、労働者の多様な選択肢を用意するものと理解することができる。労働者代表委員からは一本化に反対という意見が述べられたところだが、一方で、(2015年法案にあった)中小企業における月60時間超の時間外労働の割増賃金の見直し(猶予措置の廃止)と年休の確実な取得については盛り込むべき、という意見。(4)法案としてではなく、政策論として、裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度に反対という意見と理解することができる。
(5)多様な働き方について、諸施策の関連性を考えると1つの法案に整理することも1つの考え方。いずれもその内容については政策論として各部会で検討すべきもの。
この労働条件分科会においては、裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度については、制度導入に反対する意見が述べられたと共に、(6)仮に制度導入された場合についても懸念点が述べられたところだ。具体的には対象が拡大する懸念、本旨の徹底ができるか、高度プロフェッショナル制度の健康確保措置が不十分ではないか、という意見。これらの点については、公益委員からも理解する旨の意見があり、使用者代表委員からも一定程度の理解が示された。
以上の経緯を踏まえると、政府におかれては、この分科会における議論の経過と労働者代表委員の懸念を踏まえた上で、次回、法案要綱を示していただきたい。
2015年法案に労働者代表委員は賛成していたのか
この荒木分科会長の発言の太字部分について、順に検討しよう。まず「(1)法案全体としては公労使一致して妥当という意見が出されている」という発言について。
2015年の法案の諮問は2015年2月17日に行われ、同年3月2日に答申が出されている。
答申の内容は下記の通りだ。

確かに1では「おおむね妥当と考える」とあるものの、2には労働者代表委員から下記の通り、企画業務型裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設について、いずれも「認められない」と明記されている。
労働者代表委員から、要綱第一の五の企画業務型裁量労働制について、みなし労働時間制のもとに長時間労働に対する抑止力が作用せず、その結果、長時間労働となるおそれが高まる労働者の範囲が拡大することとなることから対象業務を追加することは認められない、要綱第一の六の特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)について、既に柔軟な働き方を可能とする他の制度が存在し、現行制度のもとでも成果と報酬を連動させることは十分可能であり現に実施されていること及び長時間労働となるおそれがあること等から新たな制度の創設は認められない、との意見があった。
では、労働者代表委員が「認められない」とする企画業務型裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設を含んだ法律案要綱が、なぜ「おおむね妥当と考える」と答申されるのか。
法律案要綱がつくられる前段階では、労働条件分科会において法案に盛り込まれるべき内容が検討される。この2015年法案の場合、その期間は2013年9月27日の第103回分科会から2015年2月13日の第125回分科会までの長期に及んでいる。その検討の最後に分科会の報告がまとめられ建議が行われるが、その段階でも、企画業務型裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設に労働者代表委員が反対であることは、下記の通り明記されていた。
2015年2月13日建議「今後の労働時間法制等の在り方について」より(抜粋)
3 裁量労働制の見直し
裁量労働制について、企業における組織のフラット化や、事業活動の中枢にあるホワイトカラー労働者の業務の複合化等に対応するとともに、対象労働者の健康確保を図り、仕事の進め方や時間配分に関し、労働者が主体性をもって働けるようにするという制度の趣旨に即した活用が進むよう、以下の見直しを行うことが適当である。
なお、労働者代表委員から、企画業務型裁量労働制の対象業務に新たな類型を追加することについて、みなし労働時間制のもとに長時間労働に対する抑止力が作用せず、その結果、長時間労働となるおそれが高まる労働者の範囲が拡大することとなることから認められないとの意見があった。
(中略)
4 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を設けることが適当である。
なお、使用者代表委員から、高度プロフェッショナル制度は、経済活力の源泉であるイノベーションとグローバリゼーションを担う高い専門能力を有する労働者に対し、健康・福祉確保措置を講じつつ、メリハリのある効率的な働き方を実現するなど、多様な働き方の選択肢を用意するものである。労働者の一層の能力発揮と生産性の向上を通じた企業の競争力とわが国経済の持続的発展に繋がることが期待でき、幅広い労働者が対象となることが望ましいとの意見があった。
また、労働者代表委員から、高度プロフェッショナル制度について、既に柔軟な働き方を可能とする他の制度が存在し、現行制度のもとでも成果と報酬を連動させることは十分可能であり現に実施されていること及び長時間労働となるおそれがあること等から新たな制度の創設は認められないとの意見があった。
つまり、企画業務型裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設は、労働者代表委員の反対を押し切って建議に盛り込まれ、それを受けて法律案要綱に盛り込まれたものである。
強い反対が労働者代表委員から繰り返し述べられ、最後まで反対が貫かれていることは、報告が取りまとめられた2015年2月13日の第125回分科会の議事録における労働者代表の新谷委員の総括意見からも確認できる(下記はその冒頭部分)。
○新谷委員
それでは、労働側としまして、日本に働く雇用労働者5,500万人を代表する7人の労働者代表委員を代表しまして、私から総括的な意見を申し上げたいと思います。
今回の労働時間法制の見直しについては、本日も含めまして、一昨年の9月以降23回にわたる論議をしてまいりました。途中、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2014」を受けての論議再開後でも、11回と多数にわたる回数を費やしてこの論議を行ってきました。
本日、事務局から最終的な報告案の提出に至ったわけですけれども、端的に申し上げて、今必要とされる 実効的な長時間労働抑制策 が盛り込まれていない反面、長時間労働を生み出す懸念が多い「高度プロフェッショナル制度の創設」や「裁量労働制の対象業務の拡大」といった規制緩和策ばかりが盛り込まれた内容となっています。要するに、必要なものが入っておらず、要らないものが入っているということです。23回にわたります議論の中で随分と労働側として主張してきた内容が盛り込まれていないということから言えば、昨年12月末の分科会にて中間的な総括意見を申し上げた際と同様、私ども7人の委員は徒労感を禁じ得ず、非常にむなしさを感じています。
すなわち、報告書には、我々が1年半にわたって論議し求めてきた、 すべての労働者を対象にした「労働時間の量的上限規制」や「休息時間(勤務間インターバル)規制」 といった 実効的な長時間労働抑制策 が盛り込まれていない一方で、反対してきた「高度プロフェッショナル制度の創設」や「裁量労働制の対象業務の拡大」といった労働時間規制の緩和策だけはしっかりと記載されているということです。1年半にわたって議論してきた結果がこうした内容であるがゆえ、労側としては、今回報告書の主要論点に反対意見を書かざるを得なかったということは極めて遺憾であります。また、労働側の意見を押し切る形でこういう報告書がまとめられたということについても、同じく極めて遺憾である旨を申し上げておきたいと思います。
そのように「極めて遺憾」な状況であるにもかかわらず、反対意見を付しつつ報告書の作成に同意し、さらに反対意見を付しつつ法律案要綱の諮問に「おおむね妥当」と同意した背景には、そうせざるを得なかったという状況と、その中でも「三者構成である労働政策審議会の持つ重み」を今後も重視していきたいという労働者代表委員の思いがあった。
そのことは、同じ2015年2月13日の新谷委員の総括意見の、まとめ部分の発言から伺うことができる。
○新谷委員
最後に、この労働政策審議会の進め方について、1点申し上げておきたいと思います。
雇用・労働政策の在り方を検討するというのは、ILOの三者構成原則に従って、政府に加えて労働者の代表と使用者の代表、この三者の中で実質的な協議の場を持つというのがILOの精神であると思います。そして、これはグローバルスタンダードです。
しかし、今回の「高度プロフェッショナル制度の創設」や「裁量労働制の拡大」、「フレックスタイム制の精算期間の延長」を(ママ)いった労働時間の規制緩和策は、いずれも政府で閣議決定をされた内容です。しかも、その閣議決定の前段で産業競争力会議という、政府の委員と民間議員、経営者の代表で構成され、労働者の代表が1人も入っていない会議体の中で政策の基本的な枠組みを議論し、それを閣議決定した上で、その枠組みに基づいて労働政策審議会で議論するというやり方が取られました。
私は、こうした雇用・労働政策の基本方針、大きな枠組みを、労働者の代表が1人も入っていない会議体の中で議論し、閣議決定した上で、その枠組みに基づいて労働政策審議会で議論するという今のやり方については、非常に違和感を覚えるところであります。こうしたやり方については極めて残念であるということを重ねて申し上げておきたいと思います。
そうした中、我々がこの場にギリギリ立ちとどまって労政審での議論に臨んでいるのも、三者構成である労働政策審議会の持つ重みを感じているからこそであります。
今後、事務局においては、今回の報告書に基づき法律案要綱の審議に入っていくと思います。私どもしても、本日以降、労働政策審議会の重みを十分受けとめながらその審議に加わってまいりたいと思いますので、この横書きの報告書のとおりに縦書きの法律案要綱を作成していただくよう真摯な検討をお願いしまして、私どもの総括的な意見とさせていただきます。
労働政策審議会にかける前に産業競争力会議で議論し閣議決定で方向性を決めてしまう、そのようなやり方は、当時もあったし、今も続いている。そのような進め方に強く異議を唱えつつ、「三者構成である労働政策審議会の持つ重み」を重視するがゆえに、「ギリギリ立ちとどまって労政審での議論に臨んでいる」、それが当時の労働者代表委員の立ち位置であったことが理解できる。
そのような経緯を踏まえると、
2015年に諮問している要綱について、裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度については反対意見が付されていたが、(1)法案全体としては公労使一致して妥当という意見が出されている。この点については改めて確認しておきたい。
という今回の荒木分科会長のまとめの場での発言は、当時の経緯を軽んじた発言のように筆者には聞こえた。「法案全体としては公労使一致して妥当という意見」の一言では片づけられない「重み」を、この発言は果たして背負ったものであったのだろうか。
昨日4日のこの労働条件分科会では荒木分科会長が、次回8日における法律案要綱の提出を事務局に促したわけだが、それは当時と同じように労働者代表の反対意見を押し切って行った判断である。その際の発言として、この発言は、軽すぎるのではないか。
「時間外上限規制とインターバルについては、本年、道筋がつけられた」と言えるのか
第2に、「(2)当時意見が一致しなかった時間外労働の上限規制とインターバルについては、本年、道筋がつけられた」という荒木分科会長の発言について。
確かに時間外労働の上限規制については、2017年3月28日の「働き方改革実行計画」において罰則付きで時間外労働の上限規制を導入することが盛り込まれており、勤務間インターバル制度についても努力義務の形での法制化が同計画に盛り込まれた。そしていずれも労働政策審議会の労働条件分科会における検討を経て6月5日に建議「時間外労働の上限規制等について」が出され、「働き方改革実行計画」に沿った内容が記載されるに至っている。
しかし、それをもって「当時意見が一致しなかった時間外労働の上限規制とインターバルについては、本年、道筋がつけられた」というのは不適切と筆者は考える。
なぜなら2015年の建議と法律案の諮問に対する答申に至る過程で労働者代表委員が求めていたのは、「すべての労働者」を対象とした労働時間の量的上限規制と休息時間(勤務間インターバル)規制の導入であったからだ。
そのことは先に参照した「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」の答申(2015年3月2日)にも次の通り明記されている。
なお、労働者代表委員からは、長時間労働による労働者の健康被害の予防とワーク・ライフ・バランスの確保を図るため、実効的な労働時間法制を整備すべきであり、とりわけ、すべての労働者を対象に労働時間の量的上限規制及び休息時間(勤務間インターバル)規制を導入すべき、との意見もあった。
それに対し、今回創設がもくろまれている高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の労働時間に関する規制をすべてはずすというものであるため、新たに設けられる時間外労働の上限規制も当然のことながら適用されない。また、裁量労働制の適用対象者も労働時間は「みなし労働時間」が設定されるため、実質的に時間外労働の上限規制の対象外となる。
つまり高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大は、たとえ時間外労働の上限規制が設けられてもその対象外となる労働者を新たに設けるものであり、とても「道筋がつけられた」と評価できるものではない。むしろ、労働時間の量的上限規制の「抜け穴」を拡大するものである。
健康確保措置は十分なのか
第3に、「(3)2つの建議の内容は全体として、健康確保して、労働者の多様な選択肢を用意するものと理解することができる」という荒木分科会長の発言について。
高度プロフェッショナル制度の健康確保措置がきわめて不十分であることは、これまでその創設に反対する側から繰り返し指摘されている。
8日に諮問される予定の法律案要綱には、「4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を与える」という健康確保措置が、選択肢の1つではなく義務化された規定として盛り込まれる予定と報道されているが、たとえこれが義務化された規定として盛り込まれたとしても、1週間のうち2日を休日とし、残りの5日は1日24時間働かせ続けても法律の条文上は違法とはならないというものでしかない(下記の記事を参照)。
●1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいい?~残業代ゼロ制度の笑えない「健康確保措置」(佐々木亮) - Y!ニュース(2015年2月20日)
これではとても、健康確保ができる内容とは言えない。
「政策論」としての意見とは?
第4に、「(4)法案としてではなく、政策論として、裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度に反対という意見と理解することができる」という荒木分科会長の発言について。
これは、「法案としてではなく、政策論として」という発言の意味がそもそも分からない。労働者代表委員は、高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大に反対である旨を繰り返し主張しているのであり、それは当然ながら、これから諮問される予定の法律案要綱にそれらを盛り込むべきではないという主張である。
それを「法案としてではなく、政策論として」とはどういう意味なのか。もし、法案として成立した場合にどのように濫用を防ぐかが検討されるべきという観点での発言であるなら、労働者代表委員の意見を誠実に受け止めていない発言と言わざるを得ない。
「(6)仮に制度導入された場合についても懸念点が述べられたところだ」という発言についても同様であり、労働者代表委員は制度導入を容認していない。
「働き方関連法案」の一本化は妥当か?
最後に、「(5)多様な働き方について、諸施策の関連性を考えると1つの法案に整理することも1つの考え方。いずれもその内容については政策論として各部会で検討すべきもの」という発言について。
文脈上、この発言は、時間外労働の上限規制と高度プロフェッショナル制度の創設、裁量労働制の拡大を一本化した労働基準法案に盛り込むことのみならず、その労働基準法改正案とその他の「働き方改革」にかかわる法案、合計7つの法案を「働き方改革」関連の法案として一本化することを容認する発言と思われる。
●残業代ゼロ、残業上限規制、同一労働・賃金 「働き方法案」一括審議へ(東京新聞 2017年8月24日)
ここでみてきた労働基準法の改正案以外の「働き方改革」関連の他の法案については、その内容にかかわる労働政策審議会の検討においては、おおむね労働者代表委員の同意が得られている。しかし、この労働基準法改正案の一本化については、ここに見てきたように強い反対が労働者代表委員から表明され続けている。
さらにこの4日の労働条件分科会でも、労働者代表委員の村上委員より、このような複数の法案の一本化は、国会における慎重な審議を阻害するものとして、反対の意見が表明されていた。
にもかかわらず、労働者代表委員の反対意見に耳を貸さない形で、「1つの法案に整理することも1つの考え方」という見解を荒木分科会長は示したのだ。
分科会長の役割とは
以上、9月4日の労働政策審議会・労働条件分科会における荒木分科会長の「まとめ」発言への疑問を列挙し、検討してきた。
荒木分科会長がこのような強引な「まとめ」発言を行ったのは、安倍政権が秋の臨時国会への「働き方改革」関連の一括法案を提出するというスケジュールをにらんでのことだろう。逆算して、次の分科会には法律案要綱の諮問が必要と、事務局側から求められているのだろう。
しかし、分科会長の役割とは、労使の委員の間に鋭い意見の対立があるにも関わらずそれがないかのように整理することではないはずだ。折り合える地点を模索することと、折り合えたかのように偽装することは同じではない。
次回の分科会は早くも9月8日に開催が予定されており、そこでは法律案要綱が諮問される。強引な幕引きが図られることがないよう、注視したい。
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