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現在、世田谷文学館にて開催中の「山へ! to the mountains 展」(7/15~9/18)へ取材という名目で伺いました。京王線の芦花公園駅から徒歩3分の世田谷文学館は、1995年に東京23区初の近代総合文学館として開館したそうです。私個人としては、2回目の訪問となりました。 受付にて学芸員の方にご挨拶して展示をくまなく拝見しました。今回の「山へ! to the mountains 展」は、1合目から10合目(頂上)まであり、全ての展示に「山 × ○○」とタイトルが付いていました。しかも〝登山届〟なるものまで展示されて、さぁ登ろうか! という気持ちになります。
1合目「山 × 漫画」坂本眞一
名作、新田次郎の小説「孤高の人」を原案に、現代の加藤文太郎を創造して、同名のタイトルで描いた迫力ある骨太な山岳漫画です。その原画が21枚ほど展示してありました。登山漫画のオススメはまたの機会に、こちらの連載で紹介したいと思っています。
2合目「山 × 先駆者」小島烏水「アルピニズムの芽吹き」
小島烏水は、日本山岳会の創設にあたり欧州の近代登山を日本に広めた人物です。「日本アルプス」全四巻や原稿及び校正紙が展示されてました。まさに先駆者(パイオニア)の名にふさわしい方でした。
3合目「山 × 文学」深田久弥
深田久弥氏は、当店のある鎌倉にも居住したこともあり、鎌倉文士のひとりとされています。じつは鎌倉は海のある街と思われますが、三方は山に囲まれており、山岳作家の方も多く居住していました。パネルには著者の作品から抜粋された文章が展示されており、ガラスケースには「山と高原」に連載していた「日本百名山」の貴重な草稿がずらりと並んでおりました。
活版印刷の時代ですから原稿用紙に〝採字済〟のハンコがあり、この原稿は活字を集めて組版済みです! という意味合いでしょうか。ムフフ、活版印刷好きにはたまりません。
「例えば、骨董なども良いものを見る数が多ければ、多いほど鑑賞の眼が肥えるそうだが、風景もまた同様だ」
4合目「山 × 写真」岡田紅陽・田淵行男・白籏史朗・白川義員
四名の山岳写真家による20点あまりの写真展示。モノクロ写真の持つ迫力と美しい山々の稜線は、見る者の言葉をなくしてしまいます。岡田紅陽という方を知らなかったので調べてみたら、わたしたちの身近に誰でも知っている、とても有名な作品があります。現在の千円紙幣の裏にある逆さ富士は岡田紅陽氏の作品「湖畔の春」の写真を元に描かれたそうです。日本の象徴「富士山」が常にお財布にある! ように商売も頂上めざしてがんばっていきたいものです。
5合目「山 × 地質」
今回の展示のなかでは一番地味な展示のように思えますが、いや待てよ。地質や鉱石といった地質学的分野の奥深さは並大抵のものではありません。山だけでなく平地をも含め、地球的規模の科学的学問分野の興味は尽きることがありません。岩にこだわるクライマーだけでなく、ぜひ、皆さんもこの分野に挑戦してほしいものです。
6合目「山 × 植物」田辺和雄
「山とお花畑」 3巻セットは、開店当初からずっと店内にありました。見切りをつけて古書市場に持って行こうと何回も思ったのですが、この花森安治の装丁が大変素敵で、手放せずにおりました。田辺和雄氏の経歴や著書本の展示から見る植物への愛情がひしひしと伝わってきます。
7合目「山 × 建築」吉阪隆正
ル・コルビュジエの3人弟子のひとり、吉阪隆正(他、前川國男、坂倉準三)。私はそれまで、この山岳建築なる言葉を知りませんでした。なので、夏休みの課題工作のような模型を前に、これらの展示を拝見した時は、驚愕して「すげぇ~」と、おもわず声を上げてしまいました。四季を通じて厳しい気象条件や自然環境のなか、高度な意匠や技術を持って建てられた山小屋、ヒュッテ、温泉ロッジ、駅舎などの山岳建築の数々。ぜひ、ご覧になって、私同様に唸っていただきたいです。
8合目「山 × 日常」田部井淳子
「山で学んだことは、普段の生活で活かせること」。田部井淳子さんの持ち物や使い方などを読んでみると「暮らしの手帖・登山版」のような、そんな女性の細かな気遣いやオシャレがうかがえます。彼女の着ていた装備などは既製の登山グッズではなく、カーテン生地で手作りしたズボンや車のカバーで作った手袋など、お手製のものばかり。驚きの連続でした。
9合目「山 × 仲間」深田久弥
最近はお客様の自宅に蔵書の買い取りで伺うと、年配の方ほど〝書斎〟という部屋がありました。いや、まだお持ちの方もいるのですが、この深田久弥さんも「山の作家」らしく、山岳書の蔵書で床が沈むほどあったそうです。そこで、奥様が大工に頼んで庭先に作った書庫「九山山房」。山友がその貴重な文献をあさりに訪れたそうです。男の部屋という感じが好感が持てました。
10合目頂上「山 × 写真」石川直樹
「今、この瞬間に人々はあらゆる環境で多様な暮らしを送っている」
そう、今、これを書いている今も。世界中のいろいろな人々は暮らしている。山というのはスポーツで頂上を目指すだけのものではなく、元々は猟師や修験者が拓いた山が多くあります。山の幸をありがたくいただき、山の神に感謝する。石川直樹さんの写真集「国東半島」よりおよそ22点が展示されていました。山で暮らす人々、動物、自然、そして祈り。
最後に。
山は登山だけでなく、信仰や暮らし、遊びや狩猟の場として、人間の生活と深く関わっています。例えそれが身近な名もなき山でも。今回の展示では山に関する多様な面がいくつも紹介されています。山を知るためにも、自分で興味ある分野からアプローチして山の楽しさを探してみるのもいいでしょう。いままでの山とはまた違った一面が見えてくるように思います。
ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょう。
「山へ! to the mountains 展」は、9月18日(月・祝)まで。
その前々日の9月16日&17日には世田谷文学館内にて「セタブンマーケット2017」が開催されます。古書店、雑貨店、飲食店に加え、アウトドア関連のお店が多数出店するそうです。もちろん、わたくし、ブックスモブロも鎌倉から出店いたします。アルプはもちろん、串田孫一、畦地梅太郎、辻まこと、レビュファなど山岳関係から博物系など持っていきますので、お時間ある方は、ぜひ冷やかしにいらしてください。
(文=荘田賢介/books moblo)
世田谷文学館
東京都世田谷区南烏山1-10-10
TEL:03-5374-9111