昔の話をしてみようと思う。
随分と昔の話になる。
私が中学生だった頃の話だ。
私は、とある習字教室に通っていた。小学生の頃から通っている教室だった。私は毎週土曜日の午後に、その教室に通っていた。
私はそこで、筆と硬筆(いわゆる鉛筆)の書き取りをしていた。手本を見ながら、それを紙に写していき、都度先生に見せて指導をもらう。そんなことを、毎週していた。
ただ、この一見単純な作業、それなりに体力が要る。手本の通り、或いはそれ以上のものを書こうとすると、かなりの試行錯誤が必要だ。
気が付くと、たいてい夕暮れ時になっていることが多かった。
教室には、私の他にも何人か、私と同じ中学校の生徒が通っていた。そこで、教室の先生は、帰る方面が同じ人は、なるべく揃って帰るように促していた。
そこで、私と同じ方面に帰っていた女の子がいた。身長は低めで、とても顔立ちの整った女の子だった。彼女と同じ方面に帰る人は、私以外誰もいなかった為、私達は大抵、帰るときは二人で帰っていた。
帰る間、彼女と私との間には特におもしろい会話もなく、文字通り、ただ一緒に帰るだけの関係だった。
その当時、彼女にはとある噂があった。クラスの中のサッカー部の男の子が好きとか、実はお互い好きで付き合っているとか、そんな噂だ。
ただ、しばらくするうちに、その男の子と別れた、という噂が出始めた。その男の子が、よくつるんでいた同じサッカー部員に対して「彼女、俺のこと好きじゃないから」みたいなことを話していたのを聞いたことがあったので、付き合っていたかはともかく、彼女の心がその男の子から離れていたのは、どうも事実のようだった。(周りをごまかすための嘘であった可能性もあるが…。)
ただ、そんな噂と一緒に、その女の子が私に対して好意を抱いているという噂も流れていた。
しかし、私と彼女との関係は、習字教室から一緒に帰る関係から、進展することはなかった。
その当時、私はとにかくストイックに部活動に励んでおり、また異性に対する恋についてもよくわかっていなかった。(残念なことに、今でもよくわからない。 )
ただ、ぼんやり、彼女のことは、かわいい女の子だよなぁ、と他の女の子にはない感情はあったと思う。
何度か、直接聞いてみようかな、と思うことはあった。実際その男の子の子と付き合っているか、とか、実際私のことどう思うか、とか。
ただ、実際に聞くことはなかった。その行為が彼女に対して失礼なのではないかと思ったからだ。
そんなこんなで月日は経ち、卒業式。ついに私達の関係は、ほんとうに、全くなにも進展しなかった。ただ、実は私は彼女のことを少し意識していた。
この卒業式の日(実は別の日かもしれない。よく思い出せない…。)、私はとある別の女の子から告白をされた。ただ、私は、その子のことを、半ばよくわからない形で振ってしまった。告白してきた女の子からすれば、OKなのかNGなのかわからないような感じだったと思う。逃げるように振ってしまった。
もし、このときに告白されたのが、習字教室を一緒に帰った彼女であったならば、私は喜んで受け入れていたと思う。今にした思えば、私は彼女のことを好きだったのかもしれない。
その後、私達は別々の高校に進み、習字教室も卒業したため、その後彼女との接点はなくなった。彼女の家の場所は知っていたので厳密には皆無というわけではないが、お互いに会うことはなかった。
当時の噂は、どこまで本当だったのだろうか。いずれにしても、私のようなヘタレ男と付き合わなかったのは正解かもしれない。
ただ、私は今でもたまに、彼女のことを思い出す。
彼女は今、元気だろうか。幸せに暮らしていることを願うばかりだ。