【寄稿】トランプ政権はどう反応すべきか 北朝鮮核実験
ジョン・ニルソン=ライト博士、ケンブリッジ大学および英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)
北朝鮮が6回目となる劇的な核実験を実施したことで、北東アジア情勢は再び緊迫し、朝鮮半島で戦争が始まる懸念が高まっている。
今回の実験の規模は、マグニチュード(M)6.3の地震に匹敵した。つまり、北朝鮮の核兵器の破壊力が一気に増したことを示唆している。
2016年9月の前回実験の5~6倍の規模で、広島に投下された原爆より7倍の威力をもつ可能性がある。
しかし、水爆実験に成功したという北朝鮮の自慢について、真否を判断するにはまだ早すぎる。北朝鮮は過去にも同じような主張を裏付けのないまましているからだ。しかし、爆発が実際にどういう性質のものだったかはともかく、北朝鮮の核兵器の破壊力が相当拡大したことは疑いようもなさそうだ。
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なぜ北朝鮮は核兵器を追求するのか
核実験を続ける北朝鮮の動機は一貫している。北朝鮮は1960年代から核兵器保有を目指してきたし、その根本には、政治的自律と国威と軍事力への欲求がある。
それに加えて、最高指導者の金正恩氏は、米国からの先制攻撃の可能性に備えた問答無用の抑止力を確保したいと願っている。それは金氏が最高指導者になってからミサイル実験を一気に加速化させた理由の、大きな要因だ。真新しい「自家製」の核弾頭を視察している様子だという、最新の自慢写真も、それで説明できる。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を7月に2度実施した北朝鮮が、すでに米国を核兵器で攻撃できるのかどうか、そこまで技術力が進歩しているのかどうかは、まだ専門家の間でも見解が分かれる。しかしある意味で、その技術力論争は、もはや無意味だ。
再三のミサイル発射や核実験による示威効果の結果、米国が北朝鮮への直接攻撃を検討する可能性は非常にあり得ないものとなった。北朝鮮からの攻撃に対する報復はまた別だが、それは自分たちにとって自殺行為だと北朝鮮政府幹部は分かっているはずだ。
2011年12月に最高指導者となって以来の金氏の行動を見ると、合理的に行動する人に思える。ただし、近親者や政府幹部の処刑や粛清を厭わないという、きわめてエゴイスティックで残酷な行動形式の持ち主ではあるが。
父・金正日氏よりも計算高く、巧みにリスクをとっている正恩氏は、ドナルド・トランプ米大統領を挑発して小ばかにしながらも、軍の近代化という自らの目的実現によって自分の国内評価、自分の正当性を高めようとしている。軍の近代化という正恩氏の目標は、平壌の住民を中心に、国内では幅広く支持されているようだ。
米国はどう対応すべきか
周辺地域を不安定にさせているのは何よりも北朝鮮だが、それに加えてもしかするとより一層心配な不安定化要因は、ドナルド・トランプ氏の性格や思考法だ。
米国大統領は繰り返し、ことさらに、米国が北朝鮮を先制攻撃する可能性を示唆し続けている。そんなことをすれば、日本や韓国の住民に壊滅的な被害を与える。特に北朝鮮の通常兵器と核兵器の射程圏内にいるソウル市民約1000万人にとっては、とんでもないことになる。
つまり究極的に言って、米国が北朝鮮に軍事的に対応するというシナリオは、日韓という米国のアジア地域における二大同盟国にとって「終末」のシナリオにほかならない。加えて、韓国に配備されている米軍2万8500人の命も危険にさらすことになる。
それだけに、ジェームズ・マティス国防長官とH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、最終的な防衛手段以外の軍事行動に断固として反対していると言われる理由は、よく理解できる。
トランプ大統領が好戦的に軍事行動の可能性をちらつかせるのは、交渉の戦術なのかもしれない。北朝鮮がこれ以上、挑発行動に出ないよう警告するための。あるいは、いら立ちを募らせている中国指導部に決定的かつ懲罰的な経済圧力を北朝鮮にかけさせるための(たとえば、北朝鮮に不可欠な原油供給を直ちに断つなど)。
しかしこうした狙いがあるのだとしても、奏功はしていないようだ。北朝鮮は今年4月以来、追加制裁に備えて原油の備蓄を始めている。そして中国指導部は、北朝鮮へのいら立ちを募らせていると報道はされるものの、すでに相手が原油を備蓄しているのなら、象徴的もしくは実際的な経済的武器として原油を制限したとしても、即効性はないと判断したのかもしれない。
大統領が不合理でもなければ、あえて直情的に動くのでもないと前提し、しかも米政府の利益のためにソウルを犠牲にするつもりもないとするならば、この状況で最もあり得る危機対応は、北朝鮮への制裁強化を追求していくことにほかならない。
スティーブン・ムニューシン財務長官は、北朝鮮と商取引のある第三国が米国市場に入れないようにして罰する内容の、新提案を起草中だ。確かにこれは劇的で、北朝鮮からの今回の挑発に相応な反応と言えるかもしれないが、効果に乏しくむしろ逆効果になる危険もある。
米国からの一方的な制裁は実施しにくく、中国などから厳しい報復的貿易制裁を受ける可能性がある。中国はこれまで、北朝鮮に対する幅広い追加経済制裁に反対してきたし、たとえ米国の措置が実行できたとしても、北朝鮮指導部に有意義な影響を与えるようになるには時間がかかる。
経済制裁や軍事行動には深刻なリスクが伴い、かつメリットは限定的なものでしかないという状況を思えば、依然として外交と対話が現在の危機解消にとって最善の方法だ。
国連や個別の国々は北朝鮮の行動を強力に非難し続けるべきだが、北朝鮮との何らかの対話構築のため、可能性を積極的かつ柔軟に模索するのは、世界に不可欠な超大国として、未だに米国の責任なのだ。
話をしなければ、戦略的緊張が続く可能性が残されてしまう。そうすれば今から数週間後か数カ月後、制裁や政治的瀬戸際政策で北朝鮮を大人しくさせられず、その失敗にいらだつトランプ大統領がついに、行動に出てしまうかもしれないのだ。金正恩氏が理解する「たった一つのこと」は軍事力だと信じているらしいトランプ氏が、その信念に従って。
そのような状況になれば、双方が相手の意図を読み違えて、核戦争のレベルにまでエスカレートし得る紛争に、うっかり突入してしまいかねない。合理的な意図にもとづくものではなく、偶発的な計算ミスによって。
つまり、北朝鮮にこれ以上の挑発を続けることの(外交的かつ経済的)コストを指摘し、かつ温和な対応によって得られるメリットを知らしめるためには、忍耐強い交渉が残された方法だ。
トランプ大統領は、対話は「融和政策」だと述べたが、それは間違っている。軍事紛争を回避し、終末時計の針が(少なくとも今のところは)危険なほど真夜中に近づかないようにするためには、対話が最善の方法なのだ。
ジョン・ニルソン=ライト博士は、英シンクタンク「チャタムハウス」(王立国際問題研究所)北東アジア担当上級研究員、およびケンブリッジ大学日本政治東アジア国際関係講師
(英語記事 North Korea's nuclear tests: How should Trump respond?)