生産性大国ノルウェーは幸せなのか?

経済的豊かさと過ごしやすさのジレンマ

2017年9月4日(月)

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西部の漁業都市ベルゲンにある魚市場。氷の上に並ぶタラバガニは1kgあたり1万4000円。やはり物価は高い
 

 「この国はとにかく人が少ない。だからサービスには人手をかけられず、おもてなしは期待できない。それに加えて、あらゆるモノがとても高く付く。日本とは大違いだね」

 8月上旬、「特集 独り負け ニッポン漁業」の取材でノルウェーに1週間ほど滞在した。北極圏の街・トロムソの取材で1日を共にした、政府系漁業団体のノルウェー人スポークスマンの言葉が今もなお頭に残っている。

 ノルウェーの人口は約500万人。同じ国土面積を持つ日本(1億2558万人)のたった25分の1しかいない。当然、スーパーに行っても店員はレジに1人か2人が待っているだけ。

高い生産性を支えるのは高い物価?

 そして、確かにノルウェーでは全てが高かった。ポテトチップスが1袋で500円。マクドナルドのセットは1500円。レストランでランチを頼もうものなら、1人2~3千円の出費は覚悟しなくてはならない。水やパンなど最低限の必需品くらいは安く売っているかと思うと、そんなに甘くない。500mmのペットボトル一つ買おうにも300~400円程度は必要となる。

 人が少なく品物やサービスが高い。それは生産性を求める数式の上ではよく見える。経済協力開発機構(OECD)のデータから、国内総生産(GDP)を労働参加者数で割って、2015年の労働生産性を求めた。ノルウェーは約11万7000ドルと加盟国35カ国中4位。20位で7万8000ドルの日本をはるかに上回る。

 ノルウェーよりランキング上位のアイルランド(1位、約16万4000ドル)とルクセンブルク(2位、14万6000ドル)はどちらも小国で金融機関の集積国。ノルウェーは3位の米国(11万9000ドル)ともさほど違いは無い水準。国内にこれと言った大企業や金融機関を持たないノルウェーが、これだけ高い生産性を保っていることはまさに驚異的だ。

 生産性は単純化すると付加価値÷人手で求められる。冒頭のコメントにあったようにノルウェーでは、とにかく人手をかけない。100万匹のサーモンを育てる養殖場をたった2人で管理。100席以上ある空港のカフェでも、2~3人の店員で回している。IT(情報技術)などで効率化を進めている側面もあるが、純粋に人がいない。人手が足りないから、サービスが不十分な点は我慢してくれと言ったスタンスだ。従って、先ほどの生産性を求める式の分母が小さくなる。だから生産性の数値を効率よく稼げている。

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「生産性大国ノルウェーは幸せなのか?」の著者

武田 健太郎

武田 健太郎(たけだ・けんたろう)

日経ビジネス記者

2008年東京大学教育学部卒業、日本経済新聞社に入社。「NIKKEIプラス1」を担当後、証券部で金融マーケットや企業財務を取材。CFA協会認定証券アナリスト、AFP(日本FP協会認定)。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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