来年度、どれだけの予算が必要か、各省庁ごとに財務省に要望を提出する「概算要求」です。要求総額はおよそ100兆円。それを賄うのは私たちが負担する税金。今の大人では支払いきれず借金も重ね、子どもたちにもつけ回しをしています。そうやって絞り出される100兆円。どんな政策に使うべきでしょうか。
(経済部記者 野口佑輔)
質問1 月額5000円 いる? いらない?
中学生までの子どもがいる家庭には児童手当が支給されています。夫婦に子ども2人で年収960万円以上の“豊かな”家庭にも、今は子ども1人に月額5000円の手当が支給されています。
予算のやり繰りを担う財務省は来年度、この5000円の手当を廃止しようとしています。あなたは賛成ですか、反対ですか?
質問2 診療所や介護施設の報酬カットは?
街の診療所に支払う診療報酬や、介護施設に支払う介護報酬の改定が来年度予定されています。財政がこれだけ厳しいのですから、医師にも我慢してもらい報酬を切り詰めるべきでしょうか?
過疎地では医師不足が問題になっていますし、介護人材の人手不足のために給与アップが必要とも言われていますが、どう思いますか?
質問3 幼稚園や保育所の無償化は?
未来を担う子どもたちのために幼稚園や保育所を無償化・実質的に負担ゼロにしようという構想があります。
ただ、それには巨額の費用が必要ですので、国は増税や新たな社会保険をつくりサラリーマンや企業から費用を徴収することなども検討します。あなたは協力できますか?
予算編成スタート
国の来年度予算案の編成作業は、各省庁の要求が出そろって本格的に始まります。今、挙げたような賛否が分かれる課題も含め、予算をつけるのかつけないのか。制度を作るのか作らないのか。12月下旬までのおよそ4か月、官邸、財務省、各省庁、それに与党の思惑がぶつかりあいながら着地点を探り、政府案を組み上げていきます。
概算要求は、各省庁が来年度実行したいあらゆる政策を積み上げたものです。
その総額が100兆円。今後、財務省が1つ1つ必要かどうか査定し、今年度で言えば最終的には97兆円くらいに絞り込まれていきます。
予算要求から見える国の課題
ほかにはどんな政策があるのか、各省庁の主な要求を見てみます。
防衛省は北朝鮮による弾道ミサイル攻撃に対応するため過去最大の5兆2551億円の予算を要求。地上配備型でイージス艦と同様の能力がある、新型の迎撃ミサイルシステムなどの導入を検討しています。
国土交通省は全国で多発している大雨などの災害に備え、公共事業の増額を要求。今年度の当初予算より16%多い6兆238億円を要求しています。
厚生労働省は2020年度末までに待機児童をゼロにするという目標を達成するため、保育所の整備費用として1142億円を要求。来年度からの3年間で22万人分の保育の受け皿の確保を目指します。
文部科学省は経済的な理由で大学などへの進学を断念する若者を出さないよう、返済する必要がない「給付型奨学金」の制度を本格的に実施する費用として105億円を要求。
今、何が課題でどういう政策が必要なのか。政府の問題意識が見えてきます。
財政余力はすでに限界
ただ、すべての政策を実行できるわけではありません。国の財政状況はそんな大盤ぶる舞いが許される状況では到底ありません。
今の日本の財政は巨額の借金に頼らなければ、政策を実行できない状況にあるのはご存じのとおり。今年度の当初予算を見ますと、国の歳入はおよそ97兆円。そのうち私たち現役世代が負担している「税収」は57兆円。全体の59%にとどまっています。借金にあたる「国債」に頼る分は、全体の35%。これは将来の子どもたちが返済することになります。そしてその借金は、毎年、毎年、積み上がり、現在1000兆円を突破しています。先進国で最悪の水準です。
膨らみ続ける社会保障費
さらに、この先を展望すると借金頼みの状況からどうやったら抜け出すことができるのか、妙案が見当たりません。最大の理由が社会保障です。今年度は32兆円。国の予算の実に3分の1を占めています。しかも2025年には、いわゆる“団塊の世代”の人たちすべてが75歳以上の高齢者となります。医療費や介護費が加速度的に膨らんでいくのが見えています。
では、それを見据えてどう対応していくのか。来年度の予算編成作業では、冒頭に挙げた児童手当の廃止や、診療報酬、介護報酬の引き下げ、新たな税や社会保険の導入などが検討されているのです。
こうした案に賛成する人もいると思いますが、当然、厳しい反発も予想されます。あちらを立てればこちらが立たずという状況です。バランスを取りながら最善の“落としどころ”を見つけるせめぎあいが、このあと年末まで続くことになります。
問われる財政再建の取り組み
私たちの“暮らし”を維持するために膨大な予算が必要なのは明らかです。各省庁がどうしても必要だと要求して積み上がったのが今回の100兆円です。しかし、積み上がる一方の借金を見ていると、今のまま財政のやりくりを続けることができるのか、厳しい見通しを示す専門家も次第に増えています。
日本の財政状況をすぐに好転させる特効薬が見当たらないからこそ、地道な財政再建の積み重ねが問われています。これから年末までの4か月間の予算編成作業を、きっちりと取材していきたいと思います。
- 経済部記者
- 野口佑輔
- H23入局
高知局をへて経済部
現在 財務省を担当