私はヘタレだ、私は滅茶苦茶弱いんだ。
だから、自分が怒られたり苛められるだけじゃなくて、全く関係のない他人がそうなっているだけで、それをもう、見ているだけで、いや目の前に居もしないのに、そういうニュースを聞くだけでも、しんどくなるんだ。
どこかの中学生が、大勢の前で往復ビンタをくらった、だとか。
そういう話を、知ってしまっただけで気持ちが暗くなるんだ。
そして、そのネット記事に対して、悪いガキは殴られて当然だとか、そういうコメントが並ぶのをみると、もう、陰鬱たる思いにかられて、この世に絶望して、生きるのが嫌になる。
殴ることが教育だと、本気で信じている人達は、そういう人達で集まって、殴り合いながら、どこか違う宇宙で仲良く暮らせば良い。
私は、目立たない生徒だった。
先生に殴られるどころか、真面目で、遅刻も居眠りもしたことがない。
悪くもなく、かといって賢いわけでもなく、つまらない生徒だった。
だから殴り合いながら暮らす民族の中でも、きっと目立たず殴られずに暮らせるんだろう。
だけど、嫌だ。私は、その宇宙には行きたくない。
同じく、大人しい私の娘も。誰に怒られたり困らせることをしない我が子ではあるが、出来るだけ、誰かが殴られるのを見せずに、育てたい。
少なくとも、音楽を演奏する場では、人が傷ついたりするのを見せたくない。
私は、ヘタレだと思う。
そして私は、いつも、娘に「逃げて良いよ」と言ってきた。
自転車なんか乗れなくて良いという私の優しさは優しさじゃないのか - 珍獣ヒネモスの枝毛
けれど、娘は、自転車に乗れるようになった。
一人でペダルをこぎながら、時折こちらに目配せする彼女は、とても誇らしげで、楽しそうなのだった。
逃げずに頑張った先に見える景色が、輝いているのも事実だ。
ママはヘタレで弱虫すぎて、何が優しさか、よくわからなくなるんだ、ごめんね。