交通弱者守れ 住民自ら高齢者送迎 岩手県花巻市
2017年08月24日
過疎化が進む農村で、高齢者の交通手段の確保が課題になる中、“交通弱者”を守る取り組みが各地で広がっている。岩手県花巻市高松第三行政区では、地域で車を確保し、住民が運転手として高齢者の希望する場所に無料で送迎する、自主的な取り組みが注目を集めている。
同行政区は山に囲まれた農村地帯。2016年の高齢化率は43.5%と全国平均の27.3%を大きく上回る。15年ほど前に路線バスが廃止されてから、公共交通機関はない。タクシーを呼んでも時間がかかる。
川村せつさん(70)は、夫、幸雄さん(75)の付き添いで月2回利用している。10キロ離れた北上市の県立病院に通院するためだ。せつさんは「知り合いが運転してくれるので、安心して気軽に使える」と感謝する。
きっかけは一人の高齢者の声だった。「病院に行きたくても行けない。タクシーは高い」。地域の暮らしを守る目的で立ち上がっていた、ふるさとやさわ元気村協議会の議題に上がった。他の高齢者に聞いてみると、同様の悩みがあることが分かった。
そこで考え出したのが、住民による送迎サービスだった。制度は16年11月に開始。車1台をリースして、運転手として住民5人を確保した。利用者は、利用3日前までに連絡し、都合の付く人が運転する仕組み。
免許証を持たないせつさんはスタート時から利用する常連だ。「家族や親戚を頼っていたが、農繁期などで忙しい時期はお願いしづらかった。助かっている」と話す。
運転手の1人、藤本牧子さん(64)と川村さん夫妻は昔からの顔なじみ。病院に行くまでの世間話も楽しみの一つだ。
同協議会の神山儀悦会長は「高齢者が使いたい時間に応じており、公共交通機関以上の便利さを提供できている」と成果を話す。
送迎サービスの費用は農水省の農山漁村振興交付金を活用。1年間で300万円が支給され、車のリース代や燃料代、運転手の賃金などに充てる。運転手には1時間800円が支給される。利用者の負担はない。
一方で、農水省の交付金は18年春に期限を迎えることから、市の補助制度の活用や一部有償化なども視野に検討している。神山会長は「事業を維持できる仕組みづくりが課題。行政は支援制度を充実させてほしい」と訴える。
地方の公共交通機関は縮小を続けている。国土交通省によると、3大都市圏以外の15年度の乗り合いバスの輸送人員は14億6800万人で10年前と比べて1億3600万人減少。それに伴い不採算路線からの撤退が各地で起こっている。
一方で、車を自分で運転できない高齢者は増え続けている。警察庁によると、認知症による免許取り消しは16年は1845件(前年比373件増)、自主返納は16年で34万5313件(前年比5万9799件増)だ。
国土交通省によると、行政や住民、NPO法人などが連携した高齢者移動の支援は全国的に広がっている。住民ボランティアの他、タクシー会社や福祉事業者による送迎などさまざまな取り組みが行われている。
国も高齢者の移動支援に力を入れる。国交省の有識者検討会は6月、高齢者が自家用車に依存せず移動手段を確保する方策について中間取りまとめを公表。過疎地域でのタクシー運行を維持するため、タクシーの貨物輸送を可能にすることや、自治体主体の自家用車を使った有料送迎制度の拡大など、規制緩和を検討すべきとしている。(久慈陽太郎)
福祉サービスを研究する岩手県立大学の宮城好郎教授の話
交通が不便な地域でのデマンドタクシーの運行など、行政が高齢者の移動支援をする動きは広がっている。一方で、利用料の高さ、高齢者が使いづらい運行形態などで利用者が伸びず事業を継続できなかった例もある。高齢者の要望や支える側の意見も取り入れ、地域の特性に合わせた仕組みを構築する必要がある。
交付金活用 車1台リース 運転手5人運用
同行政区は山に囲まれた農村地帯。2016年の高齢化率は43.5%と全国平均の27.3%を大きく上回る。15年ほど前に路線バスが廃止されてから、公共交通機関はない。タクシーを呼んでも時間がかかる。
川村せつさん(70)は、夫、幸雄さん(75)の付き添いで月2回利用している。10キロ離れた北上市の県立病院に通院するためだ。せつさんは「知り合いが運転してくれるので、安心して気軽に使える」と感謝する。
きっかけは一人の高齢者の声だった。「病院に行きたくても行けない。タクシーは高い」。地域の暮らしを守る目的で立ち上がっていた、ふるさとやさわ元気村協議会の議題に上がった。他の高齢者に聞いてみると、同様の悩みがあることが分かった。
そこで考え出したのが、住民による送迎サービスだった。制度は16年11月に開始。車1台をリースして、運転手として住民5人を確保した。利用者は、利用3日前までに連絡し、都合の付く人が運転する仕組み。
免許証を持たないせつさんはスタート時から利用する常連だ。「家族や親戚を頼っていたが、農繁期などで忙しい時期はお願いしづらかった。助かっている」と話す。
運転手の1人、藤本牧子さん(64)と川村さん夫妻は昔からの顔なじみ。病院に行くまでの世間話も楽しみの一つだ。
同協議会の神山儀悦会長は「高齢者が使いたい時間に応じており、公共交通機関以上の便利さを提供できている」と成果を話す。
送迎サービスの費用は農水省の農山漁村振興交付金を活用。1年間で300万円が支給され、車のリース代や燃料代、運転手の賃金などに充てる。運転手には1時間800円が支給される。利用者の負担はない。
一方で、農水省の交付金は18年春に期限を迎えることから、市の補助制度の活用や一部有償化なども視野に検討している。神山会長は「事業を維持できる仕組みづくりが課題。行政は支援制度を充実させてほしい」と訴える。
ますます必要 支援の手
地方の公共交通機関は縮小を続けている。国土交通省によると、3大都市圏以外の15年度の乗り合いバスの輸送人員は14億6800万人で10年前と比べて1億3600万人減少。それに伴い不採算路線からの撤退が各地で起こっている。
一方で、車を自分で運転できない高齢者は増え続けている。警察庁によると、認知症による免許取り消しは16年は1845件(前年比373件増)、自主返納は16年で34万5313件(前年比5万9799件増)だ。
国土交通省によると、行政や住民、NPO法人などが連携した高齢者移動の支援は全国的に広がっている。住民ボランティアの他、タクシー会社や福祉事業者による送迎などさまざまな取り組みが行われている。
国も高齢者の移動支援に力を入れる。国交省の有識者検討会は6月、高齢者が自家用車に依存せず移動手段を確保する方策について中間取りまとめを公表。過疎地域でのタクシー運行を維持するため、タクシーの貨物輸送を可能にすることや、自治体主体の自家用車を使った有料送迎制度の拡大など、規制緩和を検討すべきとしている。(久慈陽太郎)
地域に合う方策を
福祉サービスを研究する岩手県立大学の宮城好郎教授の話
交通が不便な地域でのデマンドタクシーの運行など、行政が高齢者の移動支援をする動きは広がっている。一方で、利用料の高さ、高齢者が使いづらい運行形態などで利用者が伸びず事業を継続できなかった例もある。高齢者の要望や支える側の意見も取り入れ、地域の特性に合わせた仕組みを構築する必要がある。
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ため池 総点検 防災強化へ再整備急げ
地震や豪雨で決壊するため池が続発している。釣りなど娯楽中の死亡事故も続く。政府は農業用水の確保に欠かせぬため池の再整備を急ぎ、防災機能と安全性を高める必要がある。
ため池は、西日本を中心に全国に約20万カ所ある。主に雨の降水量が少ない地域で農業用水を確保するために人工的に造られた。洪水調節や土砂流出を防止する効果に加え、生物の生息・生育の場所の保全、地域の憩いの場の提供など、多面的な機能もある。2ヘクタール以上の農地をカバーするため池は約6万カ所あり、このうち7割が江戸時代以前に造られた。取水施設などでの老朽化が進んでいる。
多くは地元の水利組合や土地改良区、農家などが管理する。農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが起きている。
農水省の調査によると、下流に住宅や公共施設のあり、決壊すると大きな被害が予想される「防災重点ため池」は、1万カ所を上回った。近年は都市化や混住化が進み、事故の危険性が増している。安全性が確認できない3391カ所に対する詳しい調査を地方公共団体が行うが、整備を急ぐ必要がある。
最近10年のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震で決壊や流失している。7月の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内のため池108カ所の1割に当たる11カ所が流出・決壊した。こうしたため池の復旧を急ぐとともに、耐震性を高め、洪水防止策を強めるなど、安全性の強化を急ぐことが肝要だ。
ため池を抱える地域では、農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成も容易ではない。政府がしっかり支援すべきだ。農水省は農村地域防災減災事業(508億円)に含まれているとするが、心もとない。現場のニーズに応えられるように予算を確保し、改修工事などをしやすくしたい。また、補助率を高めるなど農家負担を減らす方法も改修を後押しするはずだ。
ため池での死亡事故は増加傾向にある。2016年度は26件で32人が亡くなった。60歳以上の高齢者が多く、例年水利用が多くなる5月から9月にかけて多発している。
ため池を管理する土地改良区や個人は、安全管理に対する意識を高めるとともに、監視を強める必要がある。死亡事故には、釣りなどの娯楽中の事故も多い。夏休み期間の子どもたちが危険な箇所に立ち入らないように注意喚起したり、安全柵を設置したりする対策も進めるべきだ。また、管理作業中の事故も多い。高齢者の作業は特に注意する必要がある。
農山村は人口減少と高齢化が進んでいる。ほったらかしにしたままのため池はないか。地域のみんなで点検し、必要な整備を急ぐことが大事だ。政府は、こうした取り組みを全力で支援すべきである。
2017年08月27日
本物の信州そば 長野県飯綱町
長野県の飯綱町ふるさと振興公社が販売する、つなぎを入れない十割そばの乾麺。信州そばの舌触りと、こくとうま味が堪能できる。公社は耕作放棄地を活用してソバを栽培。その自家製そば粉を使用する。
うまさの秘訣は実の核の部分の中心粉、周囲の二番粉、外側の三番粉を適切な割合でブレンドすること。公社直営のそば店のそば打ち名人が、混合比率を指南した。長野市の食品会社が特許製法で製麺する。乾麺だが、そば湯がおいしく飲める。
1袋2人前・200グラムで450円。同公社直売所で販売する。全国発送も可能。問い合わせは同公社、(電)026(253)5153。
2017年08月30日
テンサイシストセンチュウ 国内初、長野で確認
農水省は1日、重要病害虫のテンサイシストセンチュウを、国内で初めて、長野県原村で確認したと発表した。海外では、アブラナ属の作物などに大きな影響を及ぼしている。同省は長野県と連携し、まん延を防ぐため発生地域の農家に土壌を移動しないよう呼び掛ける他、発生地域の圃場(ほじょう)の土壌消毒を進める。同害虫が付着した作物を食べても人の健康に影響はない。
同村でアブラナ属の野菜を栽培する農家が、生育不良の株について、専門家に調査を依頼。同省名古屋植物防疫所が1日に確認した。
同害虫は欧州諸国で被害が多く、テンサイでは防除していない場合、収量が25%減少したという。症状として生育の遅れや黄化、しおれ、枯死がある。地下茎部はひげ根が異常に増えて奇形になる。
国内の一部地域で発生が確認されているジャガイモシストセンチュウと同様に、土壌を介して広がる。侵入経路は確認できていないが、同省植物防疫課は「海外から輸入した資材に付いていた可能性もある」と話す。
海外ではセンチュウの密度を減らす対抗植物を使った対策も取られている。日本でも同様の効果を得られるか検討する。同省は調査結果を基に、来週にも有識者らで対策検討会議を開く。
発生を受けて長野県は1日、病害虫発生予察特殊報を発表し、生産者に警戒を呼び掛けた。発生地域の土壌の移動を制限する他、使用した農機具や車両の洗浄の徹底、栽培残さの圃場外への搬出を避けるよう求めた。他の圃場の土を持ち込まないよう徹底する。
県は「国の専門家の指示の下、JAなどと連携しまん延防止に全力を挙げる」(農業技術課)とし、週明けにもJAや地元行政と防除対策や発生状況の確認について会議を開く予定だ。
<ことば> テンサイシストセンチュウ
アブラナ属のキャベツやブロッコリーなど、フダンソウ属のテンサイなどに寄生して病害を引き起こす。根に寄生した雌は卵を内包して直径0・6~0・9ミリほどのシスト(包のう)になる。シストは乾燥や低温に強く、長期間土壌に生存できる。アジアや欧州など世界中に分布する。
2017年09月02日
前原民進党が船出 農政でも選択肢掲げよ
民進党の新代表に前原誠司氏が決まった。巨大与党にどう対抗するのか、その一点が問われる。25日召集見通しの臨時国会や10月の衆院3補選を控える中、党勢の立て直しは待ったなしだ。前原氏は党代表選後、「新たな選択肢を示し、国民への使命を果たす」と抱負を語った。新代表が農村に出向いて施策を練り上げ、農政でも選択肢を提示すべきだ。
旧民主党による2009年の政権交代で、原動力の一つは農業者戸別所得補償制度だった。安倍政権の下で10アール当たり1万5000円だった交付金額は7500円に減額され、18年産からの米生産調整見直しに併せ廃止される。民進党は同制度の復活を農政の主要政策に据えている。政策転換への不安が農村部で広がる中、農家の支持を得る狙いとみられる。
安倍政権は農家の高齢化や後継者不足を踏まえ、担い手に施策を集中する農業の構造改革路線に大きくシフトした。農林水産業の成長産業化が旗印だ。農協改革や農地法見直しなど一連の規制改革や、企業の農業参入の促進も構造政策の一翼を担うものと位置付けている。
民進党は、こうした安倍政権の農政への対抗軸を力強く打ち出すべきだ。戸別所得補償制度の復活一本やりでは、多様化する農業経営者をカバーできない。安倍農政への農村の不満が高いにもかかわらず、野党第1党への支持が広がらないのは、そこに要因がある。
自民党は野党時代、総理経験者らと若手が組み、全国各地の農村部などを行脚するミニ集会「ふるさと対話」を展開した。故・加藤紘一氏らが提案したもので、党として組織的に現場に赴く姿勢が農村部の支持を固め直す力になった。本紙農政モニター調査結果で明らかな通り、加計学園問題などで安倍政権の支持率が低迷しても、農業者の政党支持率は自民党が民進党を大きく上回る。
前原氏は代表選で党再建の旗として、「オール・フォー・オール(みんながみんなのために)」を掲げた。格差是正や生活者の不安解消を目指す理念を表現したものだ。農業は国民の命を育む食料を生産し、国土や環境を守っている。農政でも「オール・フォー・オール」の観点で施策を打ち出せば、対抗軸になり得よう。併せて、JAなどの協同組合や農業団体が担っている農業振興や地域社会での役割についても語るべきだ。
内閣改造後初の大型地方選となった8月27日投開票の茨城県知事選は、自民、公明両党が推薦する新人候補が、県医師連盟や県農政連の推薦を得た現職知事などを破り当選した。保守分裂選挙で与野党激突の構図とは異なるが、野党系候補が一本化したなら、現職知事の得票が与党推薦の新人候補を上回った可能性があった。「オール・フォー・オール」の考えは、党内のみならず野党勢力の結集へ重要な旗印となるのではないか。
2017年09月02日
曇天を切り裂く一閃
曇天を切り裂く一閃(いっせん)のようなゴールだった。多くのファンを魅了したに違いない▼サッカーW杯ロシア大会のアジア最終予選で日本はオーストラリアを破り、6大会連続のW杯出場を決めた。過去の予選で2敗5分け。未勝利の強豪チームに勝っての価値ある切符である。試合終了のホイッスルと同時に飛び上がる選手たち。その笑顔がとても誇らしかった▼道のりは厳しい試合の連続だった。昨年9月の初戦でUAEに敗れ、まさかの黒星発進。なにせ予選初戦敗退チームのW杯出場確率はゼロである。今回の試合に負ければ悲劇への階段を下ることになりかねない。トラウマのように24年前の「ドーハの悲劇」が頭をよぎる▼その呪縛(じゅばく)を解き放ったのは20代の若武者たち。ゴールを決めた22歳のFW浅野拓磨選手と21歳のMF井手口陽介選手は、悲劇とは異次元の舞台を走り回った。体力に勝る豪州の選手に気後れすることなく向かっていく。「決闘」という言葉を好んで使うバヒド・ハリルホジッチ監督の哲学が伝わった。どんな危機的状況でも、悲観してはいけない。新時代を切り開く「若者力」があれば、“消滅”に近づく集落や押されっぱなしの日本農業をも変えられるはず▼ロシア大会は来年6月14日に開幕する。今から、待ち遠しい。
2017年09月02日
地域の新着記事
豪雨から2カ月 被害膨大 復旧足踏み 進まぬ現地調査 農地や農道 人員不足で着工遅れ 福岡県朝倉市
九州北部豪雨の発生から2カ月。被災した福岡県朝倉市では、農地や農道などの復旧の遅れを懸念する声が強まっている。工事を進める上で必要な市の調査が難航しているためだ。早期復旧に向けて国は災害査定を簡素化したが、被害件数が膨れ上がる一方で人手が不足し、市の対応が追い付かない。その後に続く国の査定遅れにもつながる。復旧の遅れに農家は焦りを募らすが、懸命に調査を続ける市の担当者も疲労の色を濃くしている。
水田や果樹の園地などに大きな被害が出た朝倉市。農地・農業用施設で被害報告があったのは8月31日時点で1600件に達し、5年前の豪雨災害の1190件を既に上回った。今後も増える見通しという。一方、これまでに調査を終えたのは全体の4割に満たない600件にとどまる。
被災箇所の復旧工事で国庫補助を得るには、市町村が1件ごとに被害状況を調査し、必要な費用などをまとめた報告書を作成、国による災害査定を受ける必要がある。
農水省は1月、大規模災害で被災した農地や農業用施設を対象に、これらの作業を簡素化するルールを決め、今回の豪雨災害で初めて適用した。書類だけで行う「机上査定」を査定対象の9割まで認めるなどの内容だ。机上査定であれば、市町村が用意する資料も比較的少なくて済むという。
だが市は懸命の調査を続けているものの、思うように進んでいない。職員3人に加え、ОBや県などの職員の協力も得て計12人で対応するが、調査には1カ所当たり最低3人必要で、4班体制が限界。市農林課は「終日作業が連日で、これ以上は難しい」と明かす。
60アール栽培する柿の多くで園地流失などの被害に遭った日野調栄さん(67)は「崩れた農道は多くが手付かずのまま。早く復旧工事を始めてほしいが、今後の見通しが立たず心配している人は多い」と話す。
市は被害調査を急ぎ、九州農政局は25日から農地・農業用施設の災害査定を同市など県内で実施していく。同様に豪雨被害が発生した大分県内では、4日から国が査定を始める方向だ。
2017年09月03日
美・断面 野菜や果実アクセサリー人気
岐阜県郡上市の雑貨店「curi8(クリエイト)」に並ぶ、本物の野菜や果実を使ったアクセサリーが人気だ。作っているのは店長の稲葉みゆきさん(35)。オクラやパプリカ、レンコン、イチゴ、シイタケなど20種類以上を使い、ネックレスやピアスに加工する。「一つ一つ違う、野菜ならではの断面の模様を楽しんでほしい」と話す。
野菜や果実を薄く切り、独自の手法で乾燥させた後、透明な樹脂を何重にも塗る。使う青果物は、スーパーや直売所で大きさや色、鮮度を見て選ぶ。1日の生産数は多くて20個ほど。手伝いを1人頼んだが、生産が追い付かないという。
2017年09月03日
かんきつ 「紅まどんな」 果皮抽出物に育毛効果成分 愛媛県など確認
愛媛県産かんきつ「紅まどんな」(愛媛果試第28号)の果皮抽出物に、育毛に不可欠な外毛根鞘(がいもうこんしょう)を守る効果があることを、県産業技術研究所などが確認した。共同研究した製薬メーカーの東洋新薬は、育毛剤での活用を検討している。急速に人気が高まっている品種だけに、県はブランド力に乗じた商品展開につながるとの期待をかける。
かんきつ果皮には毛母細胞の活性化など育毛作用があり、これまでも育毛剤に利用されてきた。今回は「紅まどんな」を使った新たな試験で、毛母細胞の元(幹細胞)を供給する外毛根鞘の保護作用は、これまで報告されていなかった。福岡県で開かれた和漢医薬学会学術大会で、初めて発表した。
ヒトの外毛根鞘細胞に「紅まどんな」の果皮抽出物を添加、培養後、DNAやタンパク質を損傷させる活性酸素種が低減することを確認。また、毛髪の伸長を促し、抗酸化機構を活性化させるFGF―7遺伝子の発現が促進されることも確認した。
県は2013年に同社と協定を結び、ミカンや伊予カン、「清見」などに含まれる有用成分を分析。今年4月には県産かんきつ「媛小春」の成分に、肌の潤いを高める可能性があると発表している。
県産業技術研究所は「ブランドかんきつを使った企業の商品開発に協力することで、認知度向上をさらに進めたい」と強調する。
2017年09月01日
ソバ30ヘクタールに挑戦 「千葉在来」ほれ込む 試作で自信 遊休地利用 千葉県八街市 28歳の野菜農家2人
千葉県八街市の20代後半の野菜農家2人が今年、ソバ30ヘクタールを栽培する。昨年試作して自信を付け、酪農家の牧草栽培の後作と遊休農地や不耕作の荒地開墾などで、昨年の3ヘクタールから一挙に広げた。市内に増える遊休農地の大規模利用と、「千葉在来」という県産のおいしいソバにほれ込んだことがきっかけだ。
2人は市川慎悟さん(28)と菅原啓介さん(28)。市川さんは県立農業大学校を卒業後に、菅原さんは大卒で就職して営業を経験した後にいずれも自家就農した。露地とハウスで市川さんはニンジン、サトイモ、葉物野菜などを有機栽培。菅原さんはヤマトイモ、ニンジン、ショウガ、エダマメなどを栽培する。
2人は数年前に知り合ったが、地域は市街地化が進む一方で遊休農地が目立っていた。担い手として農地を保全できないかと考えたが、野菜栽培では手が足りない。穀類なら広い面積が可能なことから、インターネットで北海道のソバ栽培などの情報を集めて、昨年「常陸秋そば」を3ヘクタール試作した。
そばの食べ歩きをするうちに、「千葉在来」という千葉市内で長く作り続けられて、一時は廃れそうになった品種の復活に取り組むグループの生産者に出会った。「千葉在来」の種子も入手できた。「千葉在来」は生産量が少なく、そば店でも1年分のそば粉が確保できないことも分かった。
昨年2人で栽培して、北海道の大型機械を駆使した栽培の仕方を学ぶなどして自信を付けた。大規模な作付けを計画して国の制度資金・青年等就農資金を農林中金を通して借り入れて、播種機などを新しく装備した。今年は「常陸秋そば」と「千葉在来」を各15ヘクタール栽培する。
野菜作りの合間のソバ作りは夏の8、9月と、収穫時の11月に集中する。これまでに農地の整地を終え、8月末から9月初めの4、5日間で播種し終える計画。8月29日には、2人は播種機と整地機(パワーハロー)をそれぞれ装備した100馬力のトラクターを並べて作業の打ち合わせをした。「播種前に土壌を軟らかくして、パワーハローで上から土壌を締めることが、倒伏しないソバ作りでは大事」などと話した。
今後提携する酪農家で、ソバ栽培後のデントコーン栽培が順調にいけば他の酪農家にも広がる可能性があり、ソバ栽培が増えることを期待する。
2人は「秋ソバの他に春ソバ作りも視野に入れ、今後さらに遊休農地を活用して面積を広げたい」と話している。
キャンペーン「若者力」への感想、ご意見をお寄せ下さい。ファクス03(3257)7221。メールアドレスはwakamonoryoku@agrinews.co.jp。フェイスブック「日本農業新聞若者力」も開設中。
2017年09月01日
市街地や庭先、野良猫も… マダニ感染激増 最多の勢い秋も警戒を
各地でマダニによる感染症の被害が相次いでいる。今年の発症報告数は統計上の最多を更新する勢いで、今月27日にも死者が発生した。専門家によると、生息数が拡大している恐れがあり、マダニを運ぶ野生動物の分布拡大が関連しているとの見方もある。マダニの活動が活発な時期は秋まで続き、農作業など屋外での活動に注意が必要だ。
野生動物原因も 分布拡大
東海地方のある県では今年、農地や山間地だけでなく住宅地の庭先でかまれる事例が相次ぐ。これまでは病害のなかった場所で、今年はかまれた人が出ている。地元のJA担当者は「ハクビシンやアライグマといった住宅地にもすみつく動物の分布が広がったためではないか」とみる。JA管内では昨年、ハクビシンやアライグマの捕獲数は前年に比べそれぞれ3倍増えており、獣類がマダニを運んだとみられる。
JAによると、山間地に住む人や農作業をする農家は肌の露出を避けた服装をして、休憩場所では地面に直接座らないなど対策をとってきた。
一方、住宅の庭先で家庭菜園をしたり、公園に出掛けたりする人は半袖や半ズボンの人も多く、マダニを防御する服装ではないことが多いのが現状という。家庭用殺虫剤はあるが農作物には使えないため、JAは「かまれないように服装などでの対策指導を基本にしている」という。
SFTS66人
マダニの感染症は、原因となるウイルスや細菌を保有するマダニにかまれると感染する。国立感染症研究所によると、ウイルス感染症の「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の発症報告数は20日時点で今年66人となり、統計がある5年間で最多となった。
SFTSは発熱や嘔吐などの症状が出て、致死率は約2割に及ぶ。有効なワクチンはなく、治療方法は対症療法しかない。統計のある2013年以降、発症報告数は西日本を中心に毎年60人前後で推移し、今年は今月上旬の時点で既に例年を上回った。
SFTSの死者は相次ぐ。今月、宮崎市の70代女性が死亡した他、7月には感染した動物にかまれて発症する事例も。野良猫にかまれて感染したとみられる西日本の50代女性は、昨年SFTSを発症し死亡した。
細菌による日本紅斑熱も増えている。発症すると、発熱や発疹の症状が出る。治療法はあるが、今月に愛媛県四国中央市で60代男性の死亡例がある。日本紅斑熱も報告数は増加傾向にあり、今年20日時点で168人に上り、過去最多の昨年(273人)に迫るペースで推移する。
肌露出は危険
同研究所ウイルス第一部の西條政幸部長は「感染症の認知度が高まってきていることも感染報告数の増加につながった」と指摘する。
同研究所によると、病原体を保有するマダニ数の推移を示すデータはないが、「野生動物の増加に比例してマダニの数も増え、病原体を持ったマダニも増えている可能性がある」(昆虫医科学部)とみる。
マダニは秋まで活発に活動する。同研究所は「草が生えている場所ややぶに生息しており、ズボンや靴に付着して上ってくる恐れがあると認識することが重要」(昆虫医科学部)と指摘する。
マダニがいそうな場所に入る際は肌の露出を避けて長袖、長ズボンを着用し、袖口は軍手や長靴の中に入れる。忌避剤の「ディート」や「イカリジン」の成分の入った虫よけスプレーを使用するのも有効だ。また、マダニを対象とする家庭用殺虫剤が市販されている。同研究所は、かまれた場合は医療機関で適切な処置を受けるよう呼び掛ける。(隅内曜子)
2017年08月31日
地区別に5種類 30万部のヒットに 東京農業版るるぶ発刊 東京都
東京都は、旅行ガイドブック・るるぶ特別版「東京の農林水産業」を発刊した。都内を5地区に分けて各15万部、計75万部を用意し、都庁や市町村庁舎、観光案内所や都営地下鉄の駅などで無料配布している。制作したJTBパブリッシングは「地域版のるるぶは多数あるが、特定の業種に特化したものは珍しい」と話す。
2年前、「東京の農林水産業をテーマに地域をPRする無料情報誌を作ろう」(農業振興課)という話が持ち上がった。ただ、行政主導で作っても読者に読まれる紙面を作るのは難しいと判断。全国の県や市と連携した情報誌の制作経験を持つ、JTBパブリッシングが製作する情報誌「るるぶ」に制作を依頼した。
完成したのは「23区」「南多摩」「北多摩」「西多摩」「東京の島々」の計5地域版。各16ページ、フルカラーだ。
写真や文字レイアウトなど見やすさを重視し、イベントや店舗情報を多数掲載。すぐに捨てられないよう、裏表紙に東京ワインや練馬大根ドレッシングなど地元産の商品が当たるプレゼントの応募コーナーを掲載するなど工夫を凝らした。
紙面に登場する農家や特産作物の情報は、都がJAと協力して同社に提供した。
3月から配布を開始したところ、都には「他の地域版も欲しい」といった電話での問い合わせが多数寄せられている。7月末時点で約30万部を配布した。
都では、外国人観光客向けに今回制作した五つの地域版を一つにまとめた情報誌を英語や中国語(繁体字・簡体字)、韓国語の4カ国語分、来年3月ごろまでに制作する予定だ。
都農業振興課の松川敦課長は「観光客がガイドブックのように持ち歩いて活用してもらえる情報誌を目指した」と期待する。
2017年08月31日
完全復旧 程遠く… 排水性悪化 土壌改良 懸命に 台風10号・水害から1年 ― 北海道
昨年8月、北海道に大きな被害をもたらした台風10号の襲来から、29日で1年がたった。大雨で河川が氾濫し、作土が流失した圃場では、今も復旧作業が続く。だが、工事の完了は7月末で7割に満たない。土を運び込み復旧を終えた圃場も、排水性が悪く、栄養分が不足するなど、完全復旧には程遠い状況だ。一層の支援が求められている。
2017年08月30日
杉の葉 揉捻・発酵 紅茶に 林家と連携、商品化 埼玉の茶農家
狭山茶の産地、埼玉県入間市豊岡の増田園本店の増田恒治さん(69)は、杉の葉を発酵させた「杉の紅茶」を開発し、販売を始めた。杉の葉を使った茶は他にもあるが、杉の若葉を発酵させて揉捻(じゅうねん)機でもみ、さらに発酵させて紅茶にした商品は全国でも珍しいという。自店舗で販売する他、増田さんが経営する「カフェ茶蔵(さくら)」でも提供している。
増田さんは茶園2ヘクタールを経営。生葉の生産から荒茶製造、仕上げ茶加工まで行っている。杉葉紅茶の開発を思い付いたのは、飯能市で林業やカフェを営む萩原信一さん(41)から、「杉の葉を使った茶を作ってほしい」と依頼があったことがきっかけ。スギ花粉のエキスが花粉症の免疫療法として注目されていたことから協力を決めた。
原料は萩原さんが摘む柔らかい杉の若葉。手摘みのため、10人以上で摘んでも1日10キロ程度しか取れない。ロットが大きい緑茶用の製茶機械では大量に製造できないため、紅茶に切り替えた。
長年、紅茶を製造している増田さんは、その技術を杉にも応用。若葉を発酵させてから揉捻機でもみ、さらに発酵させることで10キロの杉葉から3キロの紅茶ができた。
入れ方は通常の紅茶のリーフティーと同じ。「杉の紅茶」は無色で少し酸味があり、ほのかな杉の香りがするのが特徴だ。増田さんは「経営するカフェのメニューに取り入れたので、ぜひ味わってほしい。花粉症の効果についても研究を重ね、検証していきたい」としている。
問い合わせは増田園本店、(電)04(2962)3987。
2017年08月30日
[活写] 新名物 もえよ
長野市で活動する地域おこし協力隊の若者が作る、木炭の土台に山野草を植えた盆栽「炭盆(すみぼん)」が、地域の新名物として期待を集めている。
作り手は同市の信級(のぶしな)地区で遊休農地の活用などに取り組む浅野知延さん(35)。木炭に穴を開け、ナンテンやエゾマツの苗を植え込んでいる。炭が水分を保つため、適度に水を与えれば1年以上持つ。
浅野さんは昨年6月から同地区を担当し、唯一炭を焼く稲作農家、関口近夫さん(82)が趣味で作る炭盆を知って商品化を発案。二人で改良して4月に売り出した。
浅野さんが、関口さんの木炭と50種の植物でさまざまな炭盆を作り、首都圏のイベント会場などに出店。これまでに約200個を売った。浅野さんは「地区の目玉商品にしたい」、関口さんは「見た人に信級の景色を感じてほしい」と話す。価格は2800円から。(木村泰之)
2017年08月29日
総菜、外食店、介護施設も・・・ O157警戒
食中毒を引き起こす腸管出血性大腸菌O157の感染が、全国で相次いで発生している。埼玉県や群馬県内の総菜店で購入したポテトサラダを食べた人が感染。横浜市の焼き肉店や滋賀県の料理店、津市の介護老人保健施設でも、利用者の感染が確認された。O157は夏場を中心に例年発生しており、レストランなどを経営する農家も警戒を強める。今年は残暑が厳しくなると予想されており、注意が必要だ。
感染が急増不安じわり
今月、埼玉県と群馬県の同じ系列の総菜店で購入したポテトサラダを食べた人が、O157に感染した。患者は25日時点で、埼玉県で13人。群馬県でも3人からO157が検出された。うち5歳の女児が一時意識不明の重体となるなど、状況は深刻だ。
この総菜店を運営する群馬県太田市の「フレッシュコーポレーション」は、同県高崎市の食品加工工場からポテトサラダを仕入れ、各店舗でハムやリンゴを混ぜて販売していたという。現段階で工場や店から菌は見つかっておらず、原因は調査中だ。
横浜市では7月30日に焼き肉店「安楽亭あざみ野店」で食事をした10代女性と80代男性が、下痢などを訴えて入院。O157が検出された。
滋賀県では25日までに、米原市の料理店が調理した仕出し弁当を食べた20代の女性3人が下痢の症状などを訴え、うち2人と同店従業員の男性からO157が検出された。津市でも、介護老人保健施設の利用者が下痢などの症状を訴え、感染が確認されている。
調理の心得 消毒・殺菌 徹底を
O157は、毒素を産生し病気を引き起こす大腸菌の一つで、一部の牛が内臓に保菌している。少ない量でも発症し、感染すると激しい腹痛を伴う下痢や発熱、血便を引き起こす。重症化すると死亡する場合もある。特に、乳幼児や高齢者は発症しやすい。加熱が不十分な肉を食べたり、感染した肉を扱った箸などで他の食品をつかんだりして感染することがある。
日本食品衛生協会の食品衛生研究所・微生物試験部の甲斐明美部長は、「気温の高い夏はO157を含め、細菌性の食中毒が発生しやすい」と、対策徹底を呼び掛ける。
調理者の手洗いや健康管理はもちろん、症状がなくても定期的に検便して感染を調べる必要がある。調理場では消毒・殺菌を徹底し、野菜は100度で5~10秒湯通しし、肉や卵などは75度で中心部まで1分以上加熱する。消毒液を使った後は清潔な水で洗うことが必要だ。
農家カフェ注意怠らず
食中毒には、カフェやレストランを開く農家も細心の注意を払う。
山梨県甲州市で桃を栽培する傍ら自宅リビングでカフェを営む堀川清美さん(53)は「食中毒はどこでも起こり得るから怖い」と言う。
カレーライスや桃パフェなどを提供、多いときで1日30人が来店する。食中毒を警戒し、カレーは作り置きをせずに注文が入ってから作り、余ったら廃棄する。調理器具は使う度に殺菌。「こう蒸し暑いと、食材の傷みも早い。冷蔵庫も加熱も過信しない」と話す。(隅内曜子)
2017年08月26日