交通弱者守れ 住民自ら高齢者送迎 岩手県花巻市

 過疎化が進む農村で、高齢者の交通手段の確保が課題になる中、“交通弱者”を守る取り組みが各地で広がっている。岩手県花巻市高松第三行政区では、地域で車を確保し、住民が運転手として高齢者の希望する場所に無料で送迎する、自主的な取り組みが注目を集めている。
 

交付金活用 車1台リース 運転手5人運用


 同行政区は山に囲まれた農村地帯。2016年の高齢化率は43.5%と全国平均の27.3%を大きく上回る。15年ほど前に路線バスが廃止されてから、公共交通機関はない。タクシーを呼んでも時間がかかる。

 川村せつさん(70)は、夫、幸雄さん(75)の付き添いで月2回利用している。10キロ離れた北上市の県立病院に通院するためだ。せつさんは「知り合いが運転してくれるので、安心して気軽に使える」と感謝する。

 きっかけは一人の高齢者の声だった。「病院に行きたくても行けない。タクシーは高い」。地域の暮らしを守る目的で立ち上がっていた、ふるさとやさわ元気村協議会の議題に上がった。他の高齢者に聞いてみると、同様の悩みがあることが分かった。

 そこで考え出したのが、住民による送迎サービスだった。制度は16年11月に開始。車1台をリースして、運転手として住民5人を確保した。利用者は、利用3日前までに連絡し、都合の付く人が運転する仕組み。

 免許証を持たないせつさんはスタート時から利用する常連だ。「家族や親戚を頼っていたが、農繁期などで忙しい時期はお願いしづらかった。助かっている」と話す。

 運転手の1人、藤本牧子さん(64)と川村さん夫妻は昔からの顔なじみ。病院に行くまでの世間話も楽しみの一つだ。

 同協議会の神山儀悦会長は「高齢者が使いたい時間に応じており、公共交通機関以上の便利さを提供できている」と成果を話す。

 送迎サービスの費用は農水省の農山漁村振興交付金を活用。1年間で300万円が支給され、車のリース代や燃料代、運転手の賃金などに充てる。運転手には1時間800円が支給される。利用者の負担はない。

 一方で、農水省の交付金は18年春に期限を迎えることから、市の補助制度の活用や一部有償化なども視野に検討している。神山会長は「事業を維持できる仕組みづくりが課題。行政は支援制度を充実させてほしい」と訴える。
 

ますます必要 支援の手


 地方の公共交通機関は縮小を続けている。国土交通省によると、3大都市圏以外の15年度の乗り合いバスの輸送人員は14億6800万人で10年前と比べて1億3600万人減少。それに伴い不採算路線からの撤退が各地で起こっている。

 一方で、車を自分で運転できない高齢者は増え続けている。警察庁によると、認知症による免許取り消しは16年は1845件(前年比373件増)、自主返納は16年で34万5313件(前年比5万9799件増)だ。

 国土交通省によると、行政や住民、NPO法人などが連携した高齢者移動の支援は全国的に広がっている。住民ボランティアの他、タクシー会社や福祉事業者による送迎などさまざまな取り組みが行われている。

 国も高齢者の移動支援に力を入れる。国交省の有識者検討会は6月、高齢者が自家用車に依存せず移動手段を確保する方策について中間取りまとめを公表。過疎地域でのタクシー運行を維持するため、タクシーの貨物輸送を可能にすることや、自治体主体の自家用車を使った有料送迎制度の拡大など、規制緩和を検討すべきとしている。(久慈陽太郎)
 

地域に合う方策を


 福祉サービスを研究する岩手県立大学の宮城好郎教授の話

 交通が不便な地域でのデマンドタクシーの運行など、行政が高齢者の移動支援をする動きは広がっている。一方で、利用料の高さ、高齢者が使いづらい運行形態などで利用者が伸びず事業を継続できなかった例もある。高齢者の要望や支える側の意見も取り入れ、地域の特性に合わせた仕組みを構築する必要がある。

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