中国

中国で大炎上した「慰安婦スタンプ」と「日本軍コスプレ」

表現の自由か、不謹慎か…

日本の「終戦の日」は8月15日だが、中華圏における対日戦勝記念日は、日本が連合国と降伏文書を交わした翌日・9月3日である。ゆえに中国人が「あの戦争」に思いを馳せてしんみりするのは毎年8月末から9月にかけての時期となる。

ゆえに毎年の夏の終わりを迎えるたびに、中国では世論がなんとなくピリピリし、ネット上では正義感ぶって自警団的な行動を取るユーザーの言動も活発になる。ゆえに不用意な言動が拡散・炎上する事例も多くなる。

 

今年もまた、3件ほど大規模な炎上事件が発生した。いずれも「炎上」を受けて当局が動き、当事者がきついお灸を据えられている。今回の記事では各事件の概要を紹介したうえで、騒ぎの背後にある問題点を分析してみることにしよう。

慰安婦の顔を「スタンプ」に…

今夏、中国では8月14日から中国人慰安婦のドキュメンタリー映画『二十二』が封切られ、公開17日間で興行成績が1.6億元(約26.8億円)を突破するなど、この手の映画としては異例のスマッシュ・ヒットを記録している。これは1980年生まれの若手映画監督・郭柯が監督をつとめ、2014年時点で中国全土に生存していた元慰安婦22人への聞き取りをもとに制作した作品だ。

私は現時点で未見なのだが、『二十二』は中国製ドキュメンタリーにありがちな説明的なナレーションを排し、歴史映像の切り貼りや再現映像なども使わず、元慰安婦の証言をそのまま流して現在の生活の様子を追ったストイックな内容だという。

戦争を知る世代がいよいよ減りつつある昨今は、この手の映画を作る最後のチャンスである。いわんや政治的なプロパガンダ色が薄い制作方針であるなら、映画芸術として意義ある試みではあるだろう。

映画『二十二』宣伝ポスター。映画サイト『時光網』の評価は8.6点と非常に高く、単なるプロパガンダ映画ではない名作のようだ。

いっぽうで中国人は商魂たくましい。近年、映画やアニメがヒットすると、その映像や画像を無断で切り貼りしたチャットソフト向けのスタンプ(日本でいう「LINEスタンプ」に相当)がすぐに制作されることとなる。日本と違い、中国では実写の人気動画や写真がチャットソフトのスタンプに(多くは勝手に)加工され、販売・使用される例も多い。

そこで映画『二十二』についても、あるスタンプ製作会社がさっそくスタンプを作って販売を開始した。作中の画面からキャプチャーした元慰安婦の老婆の顔写真の下に、「本当にやるせない気持ちで」「言葉が出ない」といった作中の証言と思われるセリフを貼り付けた、カジュアルな「慰安婦スタンプ」を制作してしまったのだ。

「慰安婦スタンプ」の一部。友達から送られてきたら、どういう「返し」をすればいいのか悩みそうだ

だが8月22日、共産党青年団機関紙『中国青年報』がチャットソフトQQにこのスタンプが流れていることを、不謹慎であるとして問題視する記事を掲載。やがて、スタンプの製造元である上海似顔絵科技有限公司の幹部層の多くが、みな日本で留学や勤務経験があるといった話(注.上海のITスタートアップにはそういう人が多い)までネット上に流れて大炎上事件に発展した。