8票の衝撃
「無効票は8票」——。その声にどよめきが広がった。
これが2017年9月1日、民進党代表選のハイライトだ。その数字を突きつけられた、新代表の前原誠司さん(55歳)は、選出後の第一声でこう言わざるを得なかった。
「難しい船出だ」
「8票」は国会議員の無効票である。それが意味するのはこういうことだ。
無効票がこれだけでるのは極めて異例のこと。
民主党政権時代に外務大臣などを務めた前原さんに、官房長官などを務めた枝野幸男さん(54歳)に、事実上NOを突きつけた「離党予備軍」が国会議員に8人いる……。
国会議員から離党者が相次ぐなか、さらに危機は広がるというわけだ。
実は収穫はあった
野党第1党でありながら、世間的な関心が高まらなかった選挙だが、実は得られた収穫は決して少なくはない。
両候補の論戦を通じて、浮かび上がったのは「民進党」という政党のアイデンティティーだ。
彼らは保守派の前原、リベラル派の枝野と色分けされていたが、実際は論戦を通じて共通点を作り上げていた。
大きく3点にまとめることができる。
保守・リベラルというレッテル貼りではわからない共通点
第一に目指すべき社会像である。これは選挙後に両者ともBuzzFeed Newsの取材に対し、ほとんど同じように答えた。
「自己責任型の社会ではなく支え合う社会を目指すことにおいて、私たちは一致していた」
前原さんが最後の演説で多くの時間を割き、「親から子への格差が受け継がれていく社会を変えたい」と語ったことが重要なポイントになっている。
中学2年で父を自死でなくした自死遺族である前原さんは、格差が受け継がれていくことへの危機感を体感的にわかっている。
不平等な社会ではいけない、という点において彼らに差はない。
第二に社会の多様性の尊重である。例えば同性婚を認めていこうという動き、社会的な少数者への目配り、あるいは障害者政策を充実させていくことだ。
仲間割れを防げるのか?
第三にどんな形であれ、この政党を基軸に政権交代を目指し、もう仲間割れを起こさないという強い意志があること。
「団結」という言葉を両者ともに強調した。
枝野さんは事前の会見などでも「小選挙区制で政権を目指す政党なら、私と前原さんくらいの幅は当然ある」と言い切り、代表選で敗れても「前原さんを支える」と明言した。
前原さんは「目指す社会」に向けた方法の違いーー枝野さんは反緊縮財政を明確にし、消費税増税も反対、アベノミクスの金融緩和も変えないと宣言したーーがあっても、「枝野さんには、党の運営にも関わっていただきたい。これがノーサイド、挙党一致体制になる」と語った。
対立的に描かれる両者であっても、議論を通じて共通点が明確になった意義は大きい、はずだったのだが……。
異例の”8票”はどこに向かうのか?
この無効票の多さは前原さんにも衝撃だったのだろう。
代表選出後、初の記者会見で「難しい船出」発言の真意を問われ、「厳しい党運営になると思ったのは、無効票の多さだ」と答えた。
かつて、前原さんは旧民主党から続く、この政党の“悪癖”を自身でこう語っていた。
「党内がバラバラで、ケンカして分裂する。離党者も相次ぎました。国民はなんだこいつら、と思ったでしょう。与党としてのガバナンスがないまま、人の好き嫌いで政治をしていた。自民党も幅広い考えを持った人が集まっていますが、相手を倒すまで殴らずにまとめる大人の知恵がある。私たちはなかったんです」
”大人の知恵”を自覚的に取り入れようとしているからこそ、前原さんはまず枝野さんへのノーサイドを明確にした。
「代表は独裁ではない」を繰り返したこともそのあらわれだ。
しかし、足元ではすでに崩れる予兆がある。
8票——という数字は民進党に入った亀裂になってしまうのか。それとも前原さんは、この8票をもまとめあげる挙党一致を作れるのか。
安倍内閣の支持率が低迷しても、自民党の国会議員は公然と「(安倍政権が倒れても)次も自民党内で“政権交代”だ」と嘯き、「民進党が弱いから選挙には勝てるだろう」と語る。
10月には衆院選の補欠選挙があり、代表として初めての国政選挙も迫っている。人事も含め、存在感を示すことができるのか。
その手腕は早々に試されている。
バズフィード・ジャパン ニュース記者
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