・具体的な工作内容は、日本人に中国への親近感を抱かせること、マスコミを籠絡すること、国会議員や与野党および政治団体に工作すること、在日華僑への工作を進めること。

 ギルバート氏はこの『要綱』について、「その真贋も疑われていますが」と記しつつも、「ニセモノだとすると『出来過ぎ』です」と書いて5ページにわたりその内容を詳述している。事実、『要綱』は近年になり他の保守系論客の著書で紹介されたり講演で言及されることもあるらしく、ツイッターを検索すると文書を本気で信じ込んだピュアな人たちのツイートが大量に引っかかる。

『要綱』を引用するギルバート氏の書籍。いかにも極秘文書っぽい書き方だが、当該部分は2ちゃんねるにコピペとして流れている
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 だが、安心されたい。国民的ベストセラー本が引用したこの恐るべき日本侵略計画の文書は、99.99パーセント以上の確率でニセモノである。

 この記事では、そんな『要綱』の正体について考察を進めていきたい。

怪しい文書の内容を真面目に考察する

 私が考察の底本としたテキストは、『要綱』が世界で初めて公開された『國民新聞』昭和47(1972)年8月5日付(18458号)掲載の文書である。同号の『國民新聞』が記すところでは、中央学院大学教授だった西内雅(1903~1993)がこの年の7月に海外視察に出かけた際に『要綱』を入手したので、その全文(の日本語訳)を公開したとのことだ。

『日本解放第二期工作要綱』を公開する『國民新聞』昭和47年8月5日付18458号(国立国会図書館蔵)。左下に旭化成が広告を出しているのが驚きだ
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 だが、ざっとテキストを分析しただけでも、以下の問題点を指摘できる。

【1】作成時期から公開までの時間が短すぎるうえ、中国語原文が存在しない。
【2】中国本土の中国語の翻訳文としては不自然な表現が多い。
【3】文書作成当時の中国共産党の言説としても不自然な表現が多すぎる。

 それでは以下、『要綱』がニセ文書だとみなせる根拠を順を追って見ていくことにしよう。