好きだと口にする事で繫がるモノ
気付けば『天津・向の4コマトーク』は、今まで4コマ漫画をフィーチャーしたイベントがなかったというのも手伝って、オファーするゲストの先生方も「楽しそう! 出るよ!」と言って頂き、4コマ漫画のファンの方には楽しんでもらえるイベントになっていました。
そんなある日。劇場出番の合間で、楽屋の木村くんにテレビ局の方々が会いに来ました。それは『人志松本の〇〇な話』という番組のスタッフさんでした。その番組の中の一つのコーナー、自分が好きなものをどれくらい好きか語る『好きなものの話』のリサーチ(この場合、一体何が好きかという話をスタッフさんに聞いてもらう)に来たのです。
まあ売れている木村くんですから、よく見る光景です。さほど気にせず僕は楽屋にいたのですが、なぜかその打ち合わせに僕も参加することになっていました。木村くんが「向もどうですか」と言ってくれたのか、マネージャーが入れたのか、どのような経緯だったかは、今でもわかりません。
とにかく僕は、さして興味のない木村くんの『パンティー』が好きという話を無言で聞いていました。「この人、ずっとパンティーの話をしてるなあ」と思って聞いていました。
木村くんの打ち合わせ自体は、順調に進んでいき終了。さて帰りますか、と席を立とうとしたタイミングでスタッフさんが「そういえば、向さんは何か好きなものありますか?」と聞いてきました。せっかく打ち合わせに来てもらったのだから、という理由で軽く聞いたのだとは思うのですが、僕はそこで間髪容れずに言います。
「僕、4コマ漫画が大好きです」
「どれくらいお好きなんですか」
「そうですね、4コマ漫画雑誌なら月21冊くらい読んでますね」
「へー! すごいですね!」
すごい、と言われたことに気持ち良くなり、僕は堰を切ったように喋りました。この先生の作品は良い、そしてこの先生はかなり未来を見ているなど4コマ漫画の作者のお話、4コマ漫画のイベントも開催して満席になっていることなどを口にしました。
横目で木村くんを見ると「この人、4コマ漫画の話してるなあ」という無の表情をしていました。おそらくさっきのパンティーの話の時、僕の表情もれと全く一緒だったはずです。
4コマ漫画への熱を語り終えると「ありがとうございました」とスタッフさんは帰っていきました。楽しくなって喋りすぎたかなあ、むこうは『もういいのに』と思っていたかなあ、と軽い反省もするくらい、とにかく喋りました。
それから1ヶ月後。マネージャーからもらったスケジュールを見ると『〇〇な話(向)』と書かれていました。僕はマネージャーに電話します。
「もしもし、向ですけど」
「はい? どうされました?」
「いや、『〇〇な話』の出演が向になっていますけど、木村くんの間違いですよ」
こういうことは往々にしてあるのです。エロ詩吟ブーム真っ直中、しかも僕がレッドカーペットに初めて出る前、スケジュールの欄に間違って『天津・向 東京フレンドパーク』と書いてあり、『やったぜ! 僕の魅力にフレンドパークが気付いた!』とぬか喜びした事実もあります。そういう経緯があったので、そんな訳ないとマネージャーに電話したのです。
「え? いや違いますよ。この『〇〇な話』は向さんにオファーが来ています」
「……え? 僕ですか? いやいや。こないだの打ち合わせも、スタッフさんは木村くん目当てで来たんでしょう? 僕も好きなものの話は一応しましたけど、付録みたいなもんでしたよ」
「いや、その時の話が面白かったので、木村さんは一旦保留させてもらい、向さんの4コマ漫画の話でいこうとなったんです。私も何回も何回も確認したんで大丈夫です」
「……あ、そうなんだ。分かった」
いや、そんなに確認するってことは、マネージャーもあんまり信じてないじゃん。
でも、僕は電話を切ったあと、思いました。
好きなものって口にすべきなんだなあ。
あと、好きなものとしてあれだけ口にした木村くんの『パンティー』はなんだったんだろうなあ(後日、彼は実際にパンティーが好きという話で同番組に出演します)。
そうして出演が決まった『人志松本〇〇な話』では、この3作品を紹介させて頂きました。
『あずまんが大王』(著/あずまきよひこ)
『わさんぼん』(著/佐藤両々)
『あいまいみー』(著/ちょぼらうにょぽみ)
今見ても、紹介する作品の選択は間違っていなかったと思える、素晴らしい3本です。
僕はこの3つ全てを同じ熱で紹介したのですが、その収録で他の出演者さんたちが一番興味を持ったのは『あいまいみー』という作品でした。理由はそのあいまいみーの作者のお名前にあります。上に挙げた通り作者の名前は“ちょぼらうにょぽみ”先生。
僕がその先生の名前を何気なく言うと、皆がツッコみます。
「ちょっと待てちょっと待て! 今なんって言ったんだ?」
「ちょぼらうにょぽみ先生です」
「ん? にょぽらうちょぼみ?」
「いえ、ちょぼらうにょぽみ先生です」
そんなやりとりでスタジオは大爆笑。僕の中で『ちょぼらうにょぽみ先生』というのは見慣れた普通の名前だったので、そこに皆さんが食いつくとは思ってもみませんでした。
そして『あいまいみー』は内容もぶっ飛んでいます。通常の4コマ漫画というのは、新聞に載っているものを思い浮かべてもらえれば分かりやすいと思いますが「起承転結」で作られるものが多いんです。しかし『あいまいみー』は、内容がかなり激しめで、基本を壊したものになっているのです。分かりやすく言うなら「起承転結」ではなく「転転転転」であり、オチも超パンクです。そんな『あいまいみー』を「未来の4コマ」として紹介させて頂き、出演者の皆さんも「こんな作品があるんだ。4コマ漫画っていろんな世界があるんだな」と驚かれて、収録は無事終了しました。
楽屋に帰り、一体何が繫がるかなんて分からないものだな、と思いました。
だって、劇場の楽屋で「4コマ漫画を好きなんです」と言ったことが『人志松本の〇〇な話』に出るきっかけになったんですから。
そしてまたもう一つ繫がっていく
4コマ漫画でイベントもやり、テレビにも出させて頂きました。このあたりで僕は『キャラ』とは無理に作るものではないのだな、と思うようになりました。
僕はレッドカーペットで、自分のルックスからのイメージで女性のデータを言うネタを作りましたが、それはイメージが先行しすぎていました。
それに比べると、木村くんは本来持っているエロさ、そして詩吟を組み合わせてブレイクする芸に昇華させた。それが強みなのではないだろうか。
じゃあ僕は、何が出来るだろう……?
そんなことを思っていた時に、後輩で、ガンダムのアムロレイ芸人・若井おさむと飲みにいく機会がありました。ワイワイ飲んでいると、おさむに言われます。
「僕、アニメのキャラをやっている芸人が大好きです。だから、そういうアニメキャラ芸人をいっぱい集めて、今度新喜劇みたいなお芝居をやるんです」
僕はすごい事だと思いました。絶対に面白いお芝居だ。聞いただけで面白いって分かるなんて、よっぽどだ。
「むちゃくちゃいいじゃん! それ出させてよ!」
「え? でも向さん、アニメキャラやってないじゃないですか」
「いやなんでもいいから! 俺みたいなやつ『稲中卓球部』にいたし!」
「それは関係ないんじゃ……」
「頼む! 何役でもいい! やらせて! いや、やらせてください! 座長!」
恥も外聞もなく、僕は後輩に敬語でお願いしました。これは絶対にいいものだ。絶対に参加しておきたい。
「わ、分かりました……」
その様を見て、アムロが激ひきしてたのを覚えています。
そのイベントは『劇団アニメ座』という名前で、僕はなんとか『アニメオタク』という役をもらいました。このお芝居は1回目から大好評を博し、ツアーなどもやる人気イベントになりました。今では桜・稲垣早希、R藤本、こりゃめでてーな・伊藤、などなどいろんなアニメキャラ芸人がどんどん世間に認知されてきて、それぞれの芸人さんが皆忙しくなってきています。
僕は若井おさむの『自分がやりたい新しいことをやる』という姿勢に心を揺さぶられました。
「自分も、アニメ系のことで新しいことは出来ないか?」
アニメ系のイベントは、先述したはりけ~んず・前田さんが声優さんとコントをやるライブ『登風』というイベントや、トークライブなど、いろんなことをやられています。先輩と同じことをやってはいけないと思った僕は「前田さんがやってないことはないだろうか?」と考えてみました。
そして気付いたのは、アニソンのフェスはやられていないということでした。
それもアニソンだけのイベントでなく『僕がやる意味』を考えた結果、芸人さんにたくさん出てもらうことに決めました。
しかし、一体どのような芸人がいいのか……?
考えている時に、また若井おさむと飲みに行きました。
「今アニソンのフェスをやろうと思ってるんだけど、どういう芸人に出てもらおうか悩んでいるんだよな」
「へー。楽しそうですね。劇団アニメ座も呼んでくださいよ」
目から鱗でした。そうだ。『劇団アニメ座』のメンバーに出てもらおう。アニメネタなら、アニソンを聴きに来たお客さんも絶対に喜んでもらえる。そう思い、イベント会場をおさえ、アーティストさんもオファーを出しました。
『アニソンとお笑いの融合』という意味を込めてタイトルは『アニワラ』と名付けました。イベントは大成功。ネタで笑ってアニソンで盛り上がれるという趣旨は、見事に達成されることになります。
いろんなことが繫がっていく。繫げようとしていない部分でも、誰かが繫いでくれる。動き出せば誰かがそれを見ていて、面白がってくれた人がそれをまた繫いでくれて……。
そういう縁で、僕はここまで進んできました。
(つづく)