7位と10位のエンターテインメント系の案件はいずれもクラウドファンディング(CF)サービスの「キャンプファイヤー」を通じて資金を集めた。作品はもとより、自らの活動姿勢への支持も求めた。資金の使い方をはっきりさせたいという点で共通する。
7位は3人組の音楽バンド「クラムボン」が5月に東京の日比谷野外大音楽堂で開いた単独ライブの映像ソフト。映画「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」で著名な岩井俊二監督が撮影した。
メンバーのミトさんはCFを利用した理由を「間に入る会社がなく、アーティストに直接お金が入る。お金の流れがわかりやすく、作品にお金がかけやすい」と話す。クラムボンは2015年にメジャーレーベルから離れ、CDはライブ会場で販売したり、ファンの店で扱ってもらったりするなどの活動を続けてきた。「エンターテインメントはお金がかかる。その数字を開示するのはファンの安心材料にもなる」
野音ライブの入場券の先行発売で収容人数の2倍の応募があったことから映像化を企画。知り合いのアーティストがCFであっという間に目標額を達成したのを見て衝撃を受けた。資金提供者は30代が過半を占め、男性が6割、女性が4割ほど。
様々なコースがあるが、8000円を提供した人にはDVDとメンバーのサイン入りお礼状、「打ち上げライブ」の視聴券が送料込みで11月に届く予定。ミトさんは「今後はアーティストがお金を語ることも必要な時代になる。時間や資本、発言力が限られる中でファンとの関係性を考えるいい機会だった」と話している。
10位のアニメ映画「薄暮」の制作プロジェクトは山本寛監督が東日本大震災以降、東北を舞台に発表している作品の3作目。福島県いわき市の高校の部活でバイオリンに打ち込む少女が他校の美術部の男子生徒と恋に落ちる物語だ。
資金を募るページでは夕暮れ時の空の下で少女がバイオリンを演奏するイメージイラストや山本氏が書いた短い原作小説を公開したが、アニメ自体はまったくできていない状態だった。30代を中心に20~40代の資金提供が多く、男性が9割を占める。
1作目はチャリティーで、2作目はレコード会社などが出資する委員会方式で製作した。山本氏はアニメづくりの中核となる作画担当「アニメーター」の処遇を改善することを訴えてきた。資金募集中も動画サイトでそうした持論を展開した。資金の用途の見積もりも「図解して透明性を高めたい」と話す。
来年の公開を目指して絵コンテづくりを進めている。調達できた資金は制作に必要な費用の2~3割という。制作方法に共感したスポンサーからの出資や2回目のCFの利用も視野に入れている。
(川上宗馬、堀越功、井上みなみ、若狭美緒)
〈ランキングの概要〉 資金を提供する見返りに商品やサービスが受け取れる「購入型」のクラウドファンディングから1~6月に調達を完了したプロジェクトを金額順に並べた。購入型の大手運営会社であるサイバーエージェント・クラウドファンディング(東京・渋谷、サービス名は「マクアケ」)、レディーフォー(同・文京)、キャンプファイヤー(同・渋谷)の3社の結果をまとめた。
[日経産業新聞 9月1日付]