数年前のお盆休み・・・・・
その日、知らない番号から着信がありました。
(だれだろう・・・・?)
電話をとってみると・・・・
「おう、ひさしぶり~」
と聞き覚えの無い声がしました。
(だれだろう・・・・?)
「どちら様でしたでしょうか?」
と尋ねると・・・・・
「あ~オレオレ、キド」
(・・・・・?ああっ!)
キドさんと言えば、
営業マン時代の先輩です。
しかし私が営業マンをやってたのは数年前の話。
(今更なんの用だろうか?)
「いま何やってんの?」
「工場で働いてます・・・」
私がそう質問に答えると・・・・・
「へえ~そうなんだ」
プツッ!
そこでなぜか突然電話が切れました。
(ん??電波が悪かったのかな・・・?)
・・・・・私は電話をかけ直しました。
すると・・・・・電話に出たキドさんは
「オイ、こいつかけなおして来たぞ!」
と笑いながら言ってきました。
周囲に誰かいるのでしょうか・・・・?
なんか・・・・イヤな感じがしました。
「デタラメ言ってんじゃねえよ!」
と急に怒り出すキドさん。
突然の事でビックリしました。
「えっ?何がですか?」
「ホントはお前ニートなんだろ?」
「ええっ?」
・・・この会話の意味がわかりませんでした。
確かに私は営業を辞めてから職を転々としていました、
キドさんも噂で聞いていたのかもしれません。
今の工場も知人の紹介で運良く入れた会社です。
だから私がまともに就職しているワケが無い。
そう思うのも無理は無いでしょう・・・・
私は知人の紹介で運良く入れた事を
キドさんに懸命に説明しました。
「わかった・・・わかったよ・・・」
キドさんは、なんとか信じてくれたようです。
すると今度は・・・・・
「なぁ◯日にバーベキューやるから来いよ」
と言い出したのです。
ワケがわかりません。
「いやぁ・・・・すいません・・それは・・・」
と丁重にお断りし続けたのですが・・・・
「いいから来いよ!◯◯も会いたがってるぞ?」
とかつての後輩の名前を出してきました。
どうやらキドさんと、その場にいるらしい・・・・
電話越しにクスクスと数名の笑い声が聞こえてきます・・・
(なんだこれは・・・・・?)
もう私は何年も前に会社を辞めているのに・・・・
キドさんは営業マン時代のノリで強引に誘ってきます。
結局・・・私は強引な誘いを断りきれませんでした・・・
そしてバーベキューの当日・・・・・・
服を着替えて、出かける寸前・・・・・・・
キドさんから携帯に着信がありました。
「バーベキューやっぱ中止になったわ、じゃあな」
そう言ってキドさんは電話を切りました・・・・・・
(はぁ・・・・・)
その時には・・すでに、
私はキドさんの真意に気づいていました。
これは・・・小さな報復なのです。
数年前・・・・・・
私がブラック営業会社を辞める時、
同僚や先輩達がお別れ会をしてくれたのですが・・・・
その会の中でキドさんは、
「社長の恩を仇で返しやがって!」
と私の胸ぐらを掴み「この裏切り者!」と激怒していました・・・
ブラック企業にも色々ありますが・・・・
この会社は社長を神とする宗教のような会社でした。
古参社員のキドさんは、
社長の事を心から崇拝しておりました。
そんなキドさんは会社を辞めて、
『社長を裏切った私』を
何年たっても許せなかったのでしょう・・・・・
数年前・・・わたしが勤めていた営業会社は、
毎朝出勤すると・・・・・
『仲間』という曲が大音量で流れていました。
曲をかけているのはキドさん。
私を見かけると・・・・
「オハヨー!」と元気よくアイサツをしてくれます。
この曲の通り『仲間思いの良い先輩』だったと思います。
夜はみんな仲良く残業です。
繁盛期などは『朝まで残業』なんてのもザラでした。
ブラック企業らしく拘束時間は無駄に長い。
(残業代も出ません)
だからこそ・・・長い時間一緒にいるからこそ・・・・
『仲間意識』は特に強かったように思います。
残業を終えてキドさんと飲みに行くと・・・・・・
「一緒に社長を支えて、会社を大きくしようぜ!」
なんて二人でよく熱く語り合いました・・・
この強い仲間意識があったからこそ、
辞めた時の反動が大きかったのかもしれません。
辞めた社員は「裏切り者」「根性なし」
そうボロクソに言われるのです。
数年たってもキドさんの恨みは消えていませんでした。
たぶん10年たっても20年たっても・・
キドさんにとって私は『裏切り者』なんだと思います。
こんな風に・・・・・気持ちがすれ違い・・・・
大人になってから縁が切れてしまった人が大勢います。
キドさんに「この裏切り者!」と胸ぐらを掴まれた時、
私は「すいません・・」と、ただ謝ってしまいました。
謝ればそれで済むと思ったからです・・・・
しかし・・・・
「こんなクソ会社にいられるか!」
と本心を言っていれば・・・・どうなったでしょうか?
そこで恨みは残らず・・・・
また違った関係になれていたかもしれません、
人に心を開くって難しいですね・・・・・
おしまい