来年度予算案概算要求 4年連続100兆円超
財務省では提出された要求のデータを早速、確認していました。
要求額が最も多い厚生労働省は、高齢化で医療や介護、年金などに充てる社会保障費が一段と膨らむことから、今年度の当初予算を2.4%上回る31兆4298億円を要求しました。
防衛省は北朝鮮が弾道ミサイルの発射を続ける中、ミサイル防衛を強化する新たな装備の導入などの費用を盛り込み、過去最大となる5兆2551億円を要求しました。
文部科学省などは、幼稚園や保育所の無償化を来年度さらに進める方針ですが、31日の要求では金額は示されず、年末にかけてどこまで無償化するかや財源を賄うため新たな社会保険料などを徴収するかどうかを含め、議論することにしています。
このように概算要求では歳出の上積みを求める圧力は強く、一般会計の要求総額は4年連続で100兆円の大台を突破し、101兆円前後に達する見通しです。
政府はこれまで円安や株高を背景に増加した企業からの法人税収などを活用して借金にあたる国債発行を抑え、財政健全化の取り組みを進めてきました。
しかし昨年度は国の税収が7年ぶりに前の年度を下回り、今後も税収の伸び悩みが続くことになれば主な先進国で最悪の国の財政は一段と悪化しかねないだけに、予算編成作業で社会保障費をはじめ歳出をどこまで抑えられるかが問われます。
暮らしに身近な事業は
子育て・医療
厚生労働省は、待機児童の解消に向け来年度からの3年間で22万人分の保育の受け皿を確保するために保育所を整備する費用などとして1142億円を盛りこみました。
不妊に悩む夫婦を支援しようと、高額な不妊治療費の一部を助成したり全国の主要な都市に専門の相談窓口を設置するための費用などとして210億円を要求しています。
B型やC型の肝炎ウイルスに感染して肝臓がんになった人のうち、所得の低い患者を対象に医療費の負担を軽減する費用などとして13億円を盛り込みました。
教育
文部科学省は、経済的な理由で大学などへの進学を諦める学生を減らそうと、返済のいらない「給付型奨学金」の制度を本格的に実施するため105億円を求めています。
いじめの予防教育を行ったり、教員や保護者向けにいじめをめぐる法的な相談に乗る弁護士を学校に派遣したりする仕組みを全国10か所で始める費用として5300万円を盛り込みました。
働き方
働き方改革に関連して厚生労働省は、長時間労働を減らすため、仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」を導入する中小企業への助成金などとして15億円を盛り込みました。
各省庁の主な事業
北朝鮮の弾道ミサイル発射に対応するため、防衛省は地上配備型でイージス艦と同様の能力がある新型の迎撃ミサイルシステムの整備に向けた予算を、金額を明示しない「事項要求」という形で盛り込みました。
迎撃ミサイルシステムは1基に整備するのに700億円から800億円かかると言われています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて国土交通省は、羽田空港の機能を強化するため誘導路を新設する費用などとして191億円を要求しました。
総務省は、マイナンバーカードを普及させるため、カードが手元になくてもスマートフォンに組み込まれたカードの情報で行政手続きを進められるようにシステムを改修する費用などとして11億円を要求しました。
法務省は、長期間登記が変更されず所有者の特定が難しくなっている土地が全国的に増え公共事業の実施などに支障が出ていることから、地方自治体などと連携して本格的な調査に乗り出す費用としておよそ34億円を要求しました。
農林水産省は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定など貿易自由化の拡大を見越して、農産物の価格低下などで農家の収入が大幅に減った場合、減少分の一部を補う「収入保険制度」を再来年に開始するための保険料や積立金として531億円を要求しています。
最大の焦点は医療や介護などの費用抑制
厚生労働省によりますと、31兆円規模の社会保障費は高齢化で医療費や年金などの費用が今年度の当初予算より6300億円程度増える見込みです。
財務省は国の財政健全化計画に沿ってこれを5000億円程度に抑えたい考えです。
そのために今後の予算編成作業で予定されている、医療機関に支払われる診療報酬や介護事業者に支払われる介護報酬などの改定で、引き下げを進める考えです。
社会保障関係ではこのほか2020年度までに待機児童をゼロにするという目標があり、保育の受け皿を整備には500億円程度が必要で、今後、別の事業の予算を削って費用を捻出しなければなりません。
さらに歳出が膨らむ要求は社会保障費にとどまりません。
北朝鮮が弾道ミサイルの発射を続ける中、防衛省の要求額は新たな装備を整備するための予算などで過去最大となりました。
全国各地で多発している大雨や地震、火山の噴火などの防災対策を強化するため、国土交通省は公共事業関係費として今年度の当初予算と比べて16%多い6兆238億円を要求しています。
要求額は9年ぶりの高い水準です。
このようにさまざまな分野で歳出拡大の圧力が強まっており、財政健全化の取り組みを後退させずにどう予算案を編成するか問われることになります。
財政再建は待ったなし
主な先進国の中ですでに最悪の水準になっていますが、借金にあたる国債に頼らなくてはやりくりができず、財政の悪化に歯止めがかからない状況が続いています。
このため政府は財政健全化の目標として、政策に必要な経費については借金ではなく税収などの収入で賄えるようにして、「基礎的財政収支」と呼ばれる指標を国と地方合わせて2020年度までに黒字化させることを掲げ、事実上の国際公約ともしてきました。
しかし内閣府の試算では、今後、高い経済成長が続き再来年の10月に消費税率を10%に引き上げた場合でも、2020年度の「基礎的財政収支」は8兆2000億円程度の赤字が続く見込みです。
目標の達成は社会保障制度の抜本的な改革など一段と踏み込んだ歳出の見直しを行わないかぎり極めて困難な状況です。
政府は来年、この財政健全化の目標達成が可能か検証を行う予定ですが、すでに政府や与党の一部には「基礎的財政収支」を黒字化する目標そのものを見直すべきだという意見も出始めています。
今後、財政健全化の道筋を明確に示すことができなければ日本の国際的な信用が揺らぎかねないという指摘もあり、財政健全化の取り組みは待ったなしの状態になっています。
今後さらに加速する高齢化を見据えても財政健全化は重大な課題です。
2025年にはいわゆる「団塊の世代」がすべて75歳以上となる時代を迎えます。
そのとき日本はおよそ2200万人、国民の5人に1人が75歳以上となる見通しですが、財政にどのよなう影響が出るのでしょうか。
財務省によりますと、1人当たりの医療費は64歳までは年間平均で18万円。
それが75歳以上になるとおよそ5倍の90万7000円に増えます。
介護費は65歳から74歳までは年間で平均5万5000円なのに対し、75歳以上は10倍近い53万2000円に増えます。
団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年に向かって医療や介護など社会保障費の急増するのは明らかで、日本にとって避けて通ることができない重い課題です。
来年度予算案概算要求 4年連続100兆円超
国の来年度予算案の編成で各省庁ごとの要求をまとめた概算要求が財務省に提出されました。医療や年金などに充てる社会保障費が高齢化で膨らみ続けるうえ、北朝鮮に対するミサイル防衛の強化など歳出の上積みを求める圧力は強まっており、一般会計の要求の総額は4年連続で100兆円の大台を突破する見通しです。
来年度、平成30年度予算案の概算要求は31日、各省庁から財務省に提出されました。
財務省では提出された要求のデータを早速、確認していました。
要求額が最も多い厚生労働省は、高齢化で医療や介護、年金などに充てる社会保障費が一段と膨らむことから、今年度の当初予算を2.4%上回る31兆4298億円を要求しました。
防衛省は北朝鮮が弾道ミサイルの発射を続ける中、ミサイル防衛を強化する新たな装備の導入などの費用を盛り込み、過去最大となる5兆2551億円を要求しました。
文部科学省などは、幼稚園や保育所の無償化を来年度さらに進める方針ですが、31日の要求では金額は示されず、年末にかけてどこまで無償化するかや財源を賄うため新たな社会保険料などを徴収するかどうかを含め、議論することにしています。
このように概算要求では歳出の上積みを求める圧力は強く、一般会計の要求総額は4年連続で100兆円の大台を突破し、101兆円前後に達する見通しです。
政府はこれまで円安や株高を背景に増加した企業からの法人税収などを活用して借金にあたる国債発行を抑え、財政健全化の取り組みを進めてきました。
しかし昨年度は国の税収が7年ぶりに前の年度を下回り、今後も税収の伸び悩みが続くことになれば主な先進国で最悪の国の財政は一段と悪化しかねないだけに、予算編成作業で社会保障費をはじめ歳出をどこまで抑えられるかが問われます。
暮らしに身近な事業は
子育て・医療
厚生労働省は、待機児童の解消に向け来年度からの3年間で22万人分の保育の受け皿を確保するために保育所を整備する費用などとして1142億円を盛りこみました。
不妊に悩む夫婦を支援しようと、高額な不妊治療費の一部を助成したり全国の主要な都市に専門の相談窓口を設置するための費用などとして210億円を要求しています。
B型やC型の肝炎ウイルスに感染して肝臓がんになった人のうち、所得の低い患者を対象に医療費の負担を軽減する費用などとして13億円を盛り込みました。
教育
文部科学省は、経済的な理由で大学などへの進学を諦める学生を減らそうと、返済のいらない「給付型奨学金」の制度を本格的に実施するため105億円を求めています。
いじめの予防教育を行ったり、教員や保護者向けにいじめをめぐる法的な相談に乗る弁護士を学校に派遣したりする仕組みを全国10か所で始める費用として5300万円を盛り込みました。
働き方
働き方改革に関連して厚生労働省は、長時間労働を減らすため、仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」を導入する中小企業への助成金などとして15億円を盛り込みました。
各省庁の主な事業
北朝鮮の弾道ミサイル発射に対応するため、防衛省は地上配備型でイージス艦と同様の能力がある新型の迎撃ミサイルシステムの整備に向けた予算を、金額を明示しない「事項要求」という形で盛り込みました。
迎撃ミサイルシステムは1基に整備するのに700億円から800億円かかると言われています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて国土交通省は、羽田空港の機能を強化するため誘導路を新設する費用などとして191億円を要求しました。
総務省は、マイナンバーカードを普及させるため、カードが手元になくてもスマートフォンに組み込まれたカードの情報で行政手続きを進められるようにシステムを改修する費用などとして11億円を要求しました。
法務省は、長期間登記が変更されず所有者の特定が難しくなっている土地が全国的に増え公共事業の実施などに支障が出ていることから、地方自治体などと連携して本格的な調査に乗り出す費用としておよそ34億円を要求しました。
農林水産省は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定など貿易自由化の拡大を見越して、農産物の価格低下などで農家の収入が大幅に減った場合、減少分の一部を補う「収入保険制度」を再来年に開始するための保険料や積立金として531億円を要求しています。
最大の焦点は医療や介護などの費用抑制
厚生労働省によりますと、31兆円規模の社会保障費は高齢化で医療費や年金などの費用が今年度の当初予算より6300億円程度増える見込みです。
財務省は国の財政健全化計画に沿ってこれを5000億円程度に抑えたい考えです。
そのために今後の予算編成作業で予定されている、医療機関に支払われる診療報酬や介護事業者に支払われる介護報酬などの改定で、引き下げを進める考えです。
社会保障関係ではこのほか2020年度までに待機児童をゼロにするという目標があり、保育の受け皿を整備には500億円程度が必要で、今後、別の事業の予算を削って費用を捻出しなければなりません。
さらに歳出が膨らむ要求は社会保障費にとどまりません。
北朝鮮が弾道ミサイルの発射を続ける中、防衛省の要求額は新たな装備を整備するための予算などで過去最大となりました。
全国各地で多発している大雨や地震、火山の噴火などの防災対策を強化するため、国土交通省は公共事業関係費として今年度の当初予算と比べて16%多い6兆238億円を要求しています。
要求額は9年ぶりの高い水準です。
このようにさまざまな分野で歳出拡大の圧力が強まっており、財政健全化の取り組みを後退させずにどう予算案を編成するか問われることになります。
財政再建は待ったなし
主な先進国の中ですでに最悪の水準になっていますが、借金にあたる国債に頼らなくてはやりくりができず、財政の悪化に歯止めがかからない状況が続いています。
このため政府は財政健全化の目標として、政策に必要な経費については借金ではなく税収などの収入で賄えるようにして、「基礎的財政収支」と呼ばれる指標を国と地方合わせて2020年度までに黒字化させることを掲げ、事実上の国際公約ともしてきました。
しかし内閣府の試算では、今後、高い経済成長が続き再来年の10月に消費税率を10%に引き上げた場合でも、2020年度の「基礎的財政収支」は8兆2000億円程度の赤字が続く見込みです。
目標の達成は社会保障制度の抜本的な改革など一段と踏み込んだ歳出の見直しを行わないかぎり極めて困難な状況です。
政府は来年、この財政健全化の目標達成が可能か検証を行う予定ですが、すでに政府や与党の一部には「基礎的財政収支」を黒字化する目標そのものを見直すべきだという意見も出始めています。
今後、財政健全化の道筋を明確に示すことができなければ日本の国際的な信用が揺らぎかねないという指摘もあり、財政健全化の取り組みは待ったなしの状態になっています。
今後さらに加速する高齢化を見据えても財政健全化は重大な課題です。
2025年にはいわゆる「団塊の世代」がすべて75歳以上となる時代を迎えます。
そのとき日本はおよそ2200万人、国民の5人に1人が75歳以上となる見通しですが、財政にどのよなう影響が出るのでしょうか。
財務省によりますと、1人当たりの医療費は64歳までは年間平均で18万円。
それが75歳以上になるとおよそ5倍の90万7000円に増えます。
介護費は65歳から74歳までは年間で平均5万5000円なのに対し、75歳以上は10倍近い53万2000円に増えます。
団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年に向かって医療や介護など社会保障費の急増するのは明らかで、日本にとって避けて通ることができない重い課題です。