今、たるのんが作ったLINE BLOG iOSのエディタを使い、彼への餞をしたためようとしている。溢れる涙でも、エディタの文字が滲まないのは君のロバストな設計のせいでしょうか?、生活防水のiPhoneに畏敬の念を禁じ得ません。あれ、6sは防水じゃなかったっけか?
彼との出会いは5,6年ほど前で、彼が主催側にいたエンジニアイベントだった。Objective-CのARCについて知ったかぶって客席から意見を言ってたところ、循環参照が解決できないのはAutoになっても一緒だから万能ではないよね、みたいなツッコミをかぶせてきたのが彼だった。登壇してる方も質問してる側もおっさんの中で、学部3回生ぐらいで物怖じもせず簡潔にツッコミ入れている姿から、それまでに十分な学習をし、そこから得た知識からの自信を感じたのを覚えている。
LINE Fukuokaの開発組織を立ち上げる時、新卒採用は当面無理かなと思ったけれど、彼なら中途採用扱いで問題ないなぁとも思った。だからほんとに彼に会うためだけにそのイベントに数年ぶりに行き、半ば強引に採用試験を受けてもらった。
採用面接当日は、本人が来社したら応対した採用担当がすっ飛んで来て、「あの候補者さんいいんですか?」と怪訝な顔で言う。でっかいヘッドホンを首にかけて、紙を一枚ひらひら片手にさせて会社にきたらしい。筆記具はお持ちですか?と聞くと、ジーンズのポケットから一本シャーペンを取り出して笑顔で「持ってます!」といったそうだ。手にある紙は履歴書で、来る途中でメールを見直したらそれが必要なのに気づいて、行きの電車の中で慌てて携帯上で作って、くる途中のコンビニでプリントアウトして来たらしい。
エンジニアの自分には、笑いはするけれどまぁエンジニアはそんなもんじゃん?という程度のことだったのだけど、まだエンジニアという生物に触れ始めたばかりの、普通の採用畑で育った人々には少々シゲキが強かったようだ。
面接前のペーパーテストに入った直後に彼のタイムライン をみてみると「今から採用試験!」みたいなツイートしてて、友人からの声援にもリプライ飛ばしててなかなかポップなやつだった。
その割に、ペーパー試験後の面接でその話をいじると、「ツイートはしてますが、問題について検索は一切してませんよ!」とややムッとして真面目に返してくる。なるほど、問題はそこなんだと。そこにプライド持ってるのはいいなぁと。まぁそんな感想を持つ僕も少しずれてるのかもだけど。
そもそも、うちのテストの場合ググってるかどうかは面接でわかるんだけれど、彼の回答の場合はユニークすぎて回答一目みただけでそれがオリジナルなのはわかった。当時の試験は割とアカデミックな内容が強かったので、学生の方がやや有利な内容ではあったんだけど、こちらが想定しているような定石的な回答ではなく、一瞬こちらが「ん?」となる記述。話してみれば、定石的にはこうだけど、もっとパフォーマンス良くできるの思いついたんでこういうコードになったとか、解けたけど、もっといい方法あるはずだとか。どうそのプログラミング問題を捉えて、出題意図を想定し、それを実現するアルゴリズムを考えたか、を楽しそうに、詳細に早口でまくしたてる。
いや、そもそも全問解ける時間を渡してるつもりのないテストだったから、全問正答ってだけで十分なんだけどな。あら、こんな書き方すればちょっと複雑度は増すけど確かに速くなるね、おぢさん気づかなかったよ、って逆に勉強させていただきました。
ただうちの会社にはあまり興味ないらしく、内定出ても進学と比較検討したいとおっしゃる。まぁ博士課程行きながら入社しててもいいし、会社も面白いかもよ?と。とりあえずバイトで来てみれば?なんてなだめすかすとこからはじめた。
しぶしぶ、じゃぁバイトでひとまず、となったから、自分の中ではそこで勝ったなと思った。何をやるかよりも誰とやるかは重要だと思ってて、面白いエンジニアと過ごして、業務でもランチでも飲み会でもひたすら言語処理系の話なんかがユビキタスな状態になれば、その快楽からは抜けれなくなるはずと踏んでいた。案の定毎日きてたわけじゃないのに3ヶ月もしないうちに入社の方向に転換した。こっち側の人間だったのだ。あと、ある時急に嬉しそうに話しかけてきて、LINEの通信パケットキャプチャしようとしたらhttpのフィルタで引っかからなくて、そこで初めてwebsocket使ってるのに気づいたと。それでサービスと会社にも興味が湧いたと。それググったら資料出て来るやつだったけど、そういう気づき方好きだなぁと。しかもそこが会社に興味もつポイントになるのもいいなぁと思った。
入社して、そんなに慣れてないはずの言語にアサインをしても、会社の東京のメンバーが作ったORMをdisりだしたかと思えば、しっかりそれのパフォーマンスチューニングしてくるし、レガシーコードにとらわれず1から作り直したいとかナイーブなこと言いだしたかと思えば、ほんとに作り直して書き換えるし、言い方もオブラートには一切包まないし、主張も強いのだけれど、ちゃんとそれ以上の結果を伴う行動をするので、みんなから受け入れられ、信頼されていた。
オフィスにセグウェイ持ち込んで、社内の移動はトイレ以外全部それにしたり、思えば彼の多くの行動は僕がやりたいけどやらなかったものだったのかもしれない。いや、僕の考えるものよりはるか上か、斜め上をいくものだったのだろう。彼の書くコードだけでなくあらゆる行動に、尊敬と畏怖と嫉妬の入り混じった感情を抱いていたのは僕だけではなかった。
退職の意向が出た時、その気配を察せれていなかった自分が不甲斐なかったし、もっとはよ相談しろよって憤りもなかったわけではない。ただ、ミスアサインや希望に添えなかったところもあったなぁと悔やむ反面、彼にとって若く勢いのある今違う環境を経験するのはとても良い糧になるだろうと思った。聞けば次の職場も次のステージとして申し分ない。職務を考えれば彼のようないい人物を辞めさせず、引き留めるべきなんだろうが。
彼のような一流のエンジニアと仕事に関われたことは本当に僕にとって幸運だった。惜しむらくは、一緒にコードを書くことができなかったことだ。
インターン時代からするとほぼ3年、LINE Fukuoka開発室の初期から参画して、進学を一旦止めてまで僕らと一緒に過ごしてくれたことに本当に感謝しています。
LINE Fukuokaの開発室が始まって3年半が経ちついに二人目の退職者が出ることになり、それが彼になるとは思いもよらなかったが、いつか彼がまた戻ってくることを切に願う。その時は彼に認められるコードを書いてみたい。
たるのん、いってらっしゃい!
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