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一面

<県境ものがたり> 穂高(4)

霧が濃くなる中、険しい岩場の草陰で身を寄せるライチョウの親子=長野県松本市の奥穂高岳と前穂高岳間で

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◆神の使い 見守る愛情

 おやおや、うちのかわいいひなが、あっちへよちよち、こっちへよちよち。

 いくら高山植物を食(は)むのに夢中でも、ハイマツの陰に上手に隠れなさいって。「クゥーン、クゥーン」と低くささやき、促します。

 見た目はずんぐりでも、私は国の特別天然記念物にして岐阜、長野、富山の県鳥。高山帯に棲(す)み、古来「神の使い」とも言われたニホンライチョウの母親です。

 ここは岐阜、長野県境の奥穂高岳(三、一九〇メートル)から延びる稜線(りょうせん)・吊(つり)尾根。羽毛が茶褐色なのは、周囲に紛れて身を守るため。本当は冬場の雪のような白さが、自慢なのですけれど。

 一九八〇年代に全国で三千羽とされた生息数は、今や二千羽弱に。絶滅の危機から救おうと、人工繁殖に取り組む長野県の大町山岳博物館は昨年から、ひなを相次ぎ誕生させています。

 四十年余、私たちに寄り添う前館長宮野典夫さん(66)すら「生態は分からないことだらけ」だそう。それでも「将来も存続できるよう、繁殖後の野生復帰を見据える」と話してくれます。

 この子も穂高を愛する皆さんに見守られ、きっと命をつないでいくでしょう。

 (写真・榎戸直紀、文・浜崎陽介)

 

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