流れよ我が涙、と真木よう子は言った

romanyuko0830女優・真木よう子さんがクラウドファンディングによって写真集を作成し、この冬に行われる同人誌即売会「コミックマーケット93」に一般申し込みによって参加することを表明したところ、一部のオタク層から猛烈な反発にあい、その結果、コミケ参加の断念を発表することに。その後、真木さんのTwitterアカウント名が「????騙された????」に変わって非公開になったあげく、アカウント自体が削除に。真偽不明な情報もネットに飛び交い、現在クラウドファンディング自体が続行されるかどうかもわからない状況です。

コミケ参加表明からの撤退宣言にいたる流れに関しては、オタク以外の人から迫害を受けてきた歴史的背景のためか、基本的にオタクはオタクコミュニティーの外部に対して閉鎖的な意識を持っている人が多いもので、閉鎖的なこと自体の是非は別として、そのことを考慮してコミュニティーに受け入れてもらうために段階を踏んでいくという配慮が充分でなかったことが主な原因でしょう。それに加えて、クラウドファンディングというもの自体が日本ではまだまだ一般的に受け入れられておらず、胡散臭い目で見られがちなことも原因の一つであったと思われます。色々と細かい問題点が指摘されていますが、好意的に受け入れられるような段取りが踏まれていれば、普通にオタク側の人に教えてもらって是正していくという流れですんだと思います。

あと、コミケに参加し好意的に迎えられてきた有名女性芸能人、小林幸子さんや叶姉妹のような方と比較してみた場合、真木さんは女性としての圧力が強く生々しいんですよね。小林幸子さんは紅白歌合戦の過剰な衣装のイメージが強く、またCMなどで積極的に自分のセルフパロディを演じていくなど、ネタ化、キャラクター化を推し進めていった人。叶姉妹も性的アイコンを大量にアピールしているものの、それら全てが過剰すぎて現実感がなく、そもそもが架空のキャラめいた人たちです。ようするに二組とも「おもしろい」のです。そこが好意的に受け入れられた要因の一つになっているのではないかと思います。それに比べて、真木さんのイメージは「大根仁監督系のサブカルに人気、男っぽい性格、演技派、セクシィ」といったところですよね。しかも、それは真木さんに対してある程度以上興味を持っている人が持っているイメージで、テレビや映画を積極的に見ない人たちは認知してないでしょう。漫画好きで個性的なツイートをされる方ですが、ファン以外の人にどれだけ知られているかというと疑問です。小林幸子さんや叶姉妹のような、テレビをあまり見ないような人、特にファンでない人でも知ってるような飛び抜けてわかりやすい個性ではないのです。「サブカル寄りの女優さんと見なされているのに『SLAM DUNK』『ろくでなしBLUES』といった週刊少年ジャンプのオタク向けでないタイプの漫画も好む」と言われても、サブカルに興味のない人にとっては面白くもなんともないですし。そうなってくると「我が強そうで肉体から性的匂いが強く感じられる女優さん」でしかないわけですよね。あまりオタクに受けのいいタイプではないような気がします。最近、『おそ松さん』にハマってたようですが、それぐらいでオタクに親近感を持たれるわけでもないし、たとえ無難に芸能人枠で参加したとしても、丁寧に段取りを踏んだとしても、はなから食い合わせが悪い気がするので、絶賛ということはなかったかもしれませんね。

この騒動に関して黒幕がいるのではという話がありますが、確かにこの件で真木さんのコミケ参加に便乗して自分も儲けようとした人がいるとは思います。が、その人たちが「黒幕」と呼べるほどの役割を果たしていたかどうかは疑問です。

プロインタビュアーの吉田豪さんが2008年6月にTBSラジオ『ストリーム』の中で語っていた『普段低い声でぼそぼそ喋る感じの真木さんが、好きな漫画家のうすた京介先生と対談の際には声が2オクターブぐらいあがり、犬みたいなタイプ(犬自体も含まれると思われる)が苦手だと、さんざん言っていたのに、先生が「犬が好き」と言った途端、「私も犬が好きなんです」と言い出した。』というエピソードからうかがえるように、真木さんは好意をもっている相手には過剰にすり寄っていき、相手に合わせてしまうタイプの人なのではないかと思います。そんな真木さんだから、彼女の周辺にいる好意を持っている人物が思いつきで「コミケで写真集売ればいいんじゃないの!」「(流行りの)クラウドファンディングを使えばいいんじゃないの!」と適当に言えば、その気になってしまうというのは十分にありえるでしょう。そこに写真集制作を請け負った編集者とクラウドファンディング会社が「やりましょう!やりましょう!」と乗っかってきたぐらいなのが実情なのではないかという気がします。

言い出しっぺもノリで言い出しただけだから何の策もないし、真木さんもノリで乗っかっちゃただけだから何の策もない。編集者やクラウドファンディング会社も、真木さんたちのアイデアに便乗して「うまいこといって儲かったら」ぐらいの考えしかないから、特に何かするわけでもない。黒幕と言えるほどの人物が存在したのであれば、こんな杜撰な失敗をするわけがないのです。そんな人物がいたのなら、確実に儲けるためにもっと綿密な計画を立てていたことでしょう。クラウドファンディングの会社も別に普通に仕事して利益をあげようとしてるだけのように見えるし、何か余計なことを考えてる可能性があるとしたら編集者の人くらいじゃないですか。とはいえ、それが黒幕と言えるほど今回の件をコントロールしていたようには思えないのです。ノリでいい加減に始めちゃった人たちと、ちょっと欲をかいちゃった人によって起こってしまった事故みたいなもんだと思います。事故といえば、明らかに写真集のインタビュー部分のインタビュアーを依頼されただけの吉田豪さんが一部で黒幕の一味呼ばわりされていたの、もらい事故感がすごかったです。

真木さんは『REX 恐竜物語』を見て女優に憧れて、中学卒業後すぐに仲代達也さん主催の劇団『無名塾』に入団し、仲代さんに誤解で怒られたことで劇団を飛び出して以来、2013年に仲代さんが歩みよる発言をするまで没交渉にしていたり、性格的に衝動的で苛烈な部分がある一方で、わりと引きずる部分もあるタイプだと思われます。人に勧められて、よくわからないけどノリでやってみたら、大勢の人間にネットで叩かれることになってしまったことに対して大きな怒りを感じてるでしょうし、それは結構尾を引くことになるのではないでしょうか。本来は「騙した」「騙された」と言えるほどの意図的な行為はなかったという可能性もありますが、どっちにしろ彼女の怒りはおさまらないでしょうね。

真木よう子さんという人は、かってサブカル業界人の男性に大変な支持を受けていた人ですが、本人はそういう文化に何の関心もない人です。容姿もアグレッシブに肉感的な美人でサブカル層が好みそうな文系っぽさは感じられません。では、そんな人がなぜ当時のサブカル層の中年以上の男性にモテていたのでしょう?

真木さんは自分では男性的な性格であると主張されていますが、客観的に見てみると、男兄弟に囲まれていた影響が趣味に反映はされていますが「女っぽい」人だと思います。怒りの感情が強いというと男性的なタイプと思われますが、そういう人は本当は男女の区別なく存在しています。サブカルおじさんだと普通の女性だと話が合わないから趣味が共通する女性に走らざるをえないのですが、文化レベルが高い女性ほど色んな部分で意識が高く、おじさんの思うような反応をしてくれなかったり、逆に反発されることすらあります。都合が悪いのです。ほとんどのサブカルおじさんは自分を尊重されたい意識が強いので、本当は自分を立ててくれるような心身ともに通俗的に「女っぽい」人が好きなのです。丸っきり普通の趣味だと話はできませんが、少し他人と趣味が違うぐらいのゆるい感じの子ぐらいがちょうどいい感じなのではないでしょうか、サブカルおじさん的に。だから、「一般的に女性があまり好まないタイプの漫画が好き」という程度に変わっていて、なおかつ男性側に合わせてきてくれる「女っぽい」女性である真木さんはちょうどよかったのではないでしょうか。
ようするに真木よう子さんは古典的な意味で女優さんらしい女優さんなのです。

TEXT:ロマン優光


【プロフィール】
ロマン優光 / ROMAN YUKOU

文筆家・ミュージシャン
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主な著書に『音楽家残酷物語』(ひよこ書房)、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(ともにコアマガジン)などがある。ソロパンクバンド「プンクボイ」、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のディレイ担当としても活動中。近況は「最近寝てるうちに足を捻挫していて驚きました」。

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